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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第1章 アンスリウム
5/22

5 見習いの学習

 

 下級神官見習いは大神殿の下働きの他、神官としての務めを果たす為の学習もある。


 それは神官なら当然神聖魔法も使えるよね、という周囲の期待に応えるための学習だった。


 私達が着席すると、教壇のシーモアさんが厳しい顔で私達を見回した。


 そして一瞬私を見て顔を顰めたような気がした。


 でも、私は机の上に置かれた短い杖の方が気になっていたので、その表情の変化を気付いていなかった。


「皆さん、今日は神聖魔法のうち防御と治癒の練習を行います。まずはアマハヴァーラ教が誇るこの魔力伝導率の高い魔法糸で織り込んだ神官服に自身の魔力を流し防御力を高める練習をしてみましょう。この神官服は、込める魔力量によって皮鎧相当からミスリル鎧なみの強度になります。貴方達も巡行する事があれば重宝しますからしっかり覚えて下さいね」

「「「はい」」」


 私も他の皆と一緒に下働きにはめったに着ない神官服を着て、それに魔力を流し込むイメージをしていくと、やがて自分の周りにもう1枚分厚い服を纏ったような感覚を覚えた。


「皆さん、出来ましたか?」

「「「はい」」」


 皆が返事をすると、シーモアさんが先を続けた。


「それでは隣の人の神官服を突いてみて下さい」


 そう言われてアリソンは隣を見ると、そこにはドヤ顔のパティが居た。


「アリソン、行くわよ」

「え、ちょ、待って」


 そう言うとパティが右手を握って私の神官服を殴った。


「うぐっ」


 その一撃がお腹に入ると私は強い衝撃を受けた。


「全く、貴女の魔力は大した事がないのね。魔法を纏うという事がどういう事なのか教えてあげるから、私を殴ってみなさいな」


 そう言われたので、遠慮なくパティのお腹を殴ってみたが、そこには固い板でもあるかのように跳ね返された。


「どう、これが本物なのよ」


 悔しかったが、実力に差があるのは仕方が無かった。


 次に行ったのが治癒魔法の練習だった。


 アリソンは指示されたとおり、机の上にある短い杖を持った。


「杖の柄の部分にある5つの小石で、皆さんが込めた魔力の強さを計る測定器になっています」


 シーモアさんは全員が練習用の杖を手に持った事を確かめた。


「それでは念じて下さい」


 アリソンは言われた通り杖を手で握り、架空の負傷者を治癒するように念じてみた。


「はい、結構ですよ。目を開けて杖を見て下さい」


 シーモアさんの声で念じるのを止めると、言われた通り杖を見た。


 そこには5つ並んだ小石のうち、一番下の石が僅かに光っていた。


「それでは居ないとは思いますが、5つの石が光った人は手を上げて」


 シーモアさんのその声に答える者はいなかった。


「気にする必要はありませんよ。この練習用の杖を5つ光らせる事が出来るのは上級神官なみの力が必要ですからね。でも、皆さんも上級神官を目指すなら、この杖を5つ光らせる事が必須となりますから、しっかりと覚えておいてくださいね。それでは4つ光った人は?」


 これにも誰も手を上げなかった。


「では、3つ光った人は?」


 すると1人だけ手を上げたので、皆が「わぁっ」と歓声を上げた。


 その後2つ光った人が沢山現れたが、1つだけというのはアリソンだけだった。


 するとシーモアさんがとても残念そうな顔をしていた。


「また貴女ですか、アリソン」


 その残念そうな声に他の皆が笑い声をあげた。


「アリソン、ほんと、あんたって使えないわねぇ」


 パティは完全に私の事を落ちこぼれと認識したようだ。


「皆さん治癒魔法は神官の必須能力ですから、この石を3つ光らせないと下級神官になれませんよ。下級神官になりたかったら、しっかり練習するのですよ」

「「「はい、分かりました」」」


 シーモアさんからは杖を貸し出すから各自練習するようにと命じられ、来週また成果を見せてもらうと言われた。



 授業が終わり見習い達が自分の部屋に戻ろうと廊下を歩き始めると、アリソンはすこしずつ他の皆から離れていき、気付かれないタイミングで通路の角を曲がった。


 そして誰もこちらに注意を向けていない事を確かめてから、ガイア様の元に向かった。


 ガイア様に何時ものように調力を行った後で、今日の愚痴をつい言ってしまった。


「ガイア様、私、治癒魔法の能力が無いみたいなのです」

「それが、何か問題なのか?」


 ま、まあ、ガイア様から見たら、自分の調力以外興味が無いわよね。


「見習いから下級神官になる為には、この杖に付いている石を3つ光らせないと駄目なのだそうです。もし、下級神官になれなかったらガイア様のお世話ができなくなるのですよ」

「なんと、それは困ったな。それでどうやって光らすのだ?」

「あ、それはですね」


 私はガイア様が興味を持ったので、杖を手で握り架空の負傷者を癒すように願いを込めた。


「こうやるんですけど、私は1つしか光らないのです」


 そう言って練習用の杖をひらひらさせると、ガイア様が不思議な事を言ってきた。


「5つ光っても駄目なのか?」

「ガイア様、5つも光ったら上級神官にもなれますよぉ。それがどうかしたのですか?」

「ほう、それなら問題ないな」


 私はガイア様が何を言っているのか分からず目を開けて、ガイア様を見た。


「ガイア様、先ほどから何を言われているのでしょうか?」

「それだよ。アリソン」


 ガイア様は鼻先で私が持っている杖を指示していた。


 アリソンがなんだろうと杖を見ると、そこには5つの石が光り輝いていた。


「えっ、ええっ、何これ」


 そこで直ぐに、これはガイア様のいたずらだろうと思い至った。


「ガイア様、私を喜ばせるため、お力を使ってくださったのですね」


 私がそう言うと、ガイア様は首を横に振った。


「私は何もしていないよ」

「え、でも、5つも光ってますよ?」

「神眼が開いている間は神力が使えるからな。まあ、これは当然か」

「・・・」


 アリソンは5つの石が光り輝いている杖を見て、ガイア様が神力と言ったことを考えていた。


「ガイア様、魔力と神力の違いはなんでしょうか?」

「神力は我々が使う力で、世界の環境を整える為に使うものだ。まあ、魔力の代わりでも使えるがな」

「この力は、神眼を開いている間しか使えないのでしょうか?」

「そうだな」


 アリソンはガックリと肩を落とした。


「ガイア様、アマハヴァーラ教の神官が見ている傍で神眼を発現できないのですから、私は下級神官になれないという事ですよ」

「ほう、それなら右目を閉じていればいいのではないか?」

「とっても不自然なんですけど?」

「じゃあ、両目を閉じる、とか?」


 ガイア様が呑気なのにちょっとイラっときて思わず文句を言っていた。


「もう、ガイア様、真面目に考えて下さいよぅ」

「分かった、分かった。それじゃあ前髪を伸ばせばいいんじゃないか」

「つまり、前髪で瞳を隠せと言う事ですね」


 私はその案を考えてみる事にした。


 +++++


 大聖堂の下級神官メラニー・シーモアは、今年入った女性の下級神官見習いの教育係を兼ねていた。


 男性の見習いはシーモアの担当ではなく、別の神官が担当していた。


 そして今日は、神官の重要な仕事である人々を癒す授業を行う事になっていた。


 シーモアが教室に入ると、既に下級神官見習い達が机に着席しており、そのテーブルの上には練習用の杖が置かれてあった。


 シーモアは今年合格した見習い達を見回した。


 そして今年の問題児アリソンに視線が向いた。


 見習い試験の重要項目は見習い達の魔力量だった。


 シーモアは鑑定魔法が使えるので、見習い試験時に魔力量の多い順に合格者を決めていたのだ。


 あの娘は、合格ラインぎりぎりの魔力しか持っていなかったにもかかわらず、普段の生活態度も最悪という問題児で、シーモアも何故あの娘を合格にしたのかと未だに後悔していた。


 度々作業の時に姿を消してどこかでサボっているような不良娘は、下級神官にせず、見習い期間満了と共に解雇した方が良さそうね。


 シーモアの関心事は、問題児を追い出すまでの期間、自分の評価が下がらないようにあらゆる手段を講じる事に向かう事になった。


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