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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第2章 ユッカ
48/61

48 大裂孔

 

 ユッカの村人にグロウ様の偉大さを伝えられたと満足した私は、グロウ様に話しかけた。


「村人達が皆グロウ様に感謝しておりましたね」

「そうじゃったかなぁ」


 なんだか、頭上のグロウ様はあまりうれしそうではないようね。


 こういう時は話題を変えてしまいましょう。


「そう言えば、食料の件は任せても大丈夫と言っていましたよね?」

「ああ、そうじゃ。先ほどの畑を見たであろう」

「実は、手持ちのお金と食料が心もとないので、モステラで食べる食料とお金に変えられる薬草類が欲しいのですが?」

「ああ、何じゃそう言う事か」


 そしてグロウ様は、また畑を作るとそこで根菜類と薬草を育ててくれた。


 私は目の前で実りを付けた植物から食料を収穫していった。


 それが済むと、再びグロウ様が作ってくれた小道を進みモステラとの国境となっている大裂孔に辿り着いた。


 大裂孔の幅は広く、反対側のモステラは靄がかかりどれだけ幅があるのか目測で計れなかった。


 アンスリウムとユッカの国境でも道らしきものは無かったが、どうやらモステラとの間でも道が無いようだった。


 そして大裂孔に沿って左右を見ると、途中から破孔が曲がっていることや、ユッカ側では木々が、モステラ側では靄が邪魔をして先が見通せない状況だった。


 次に崖下を見ると、切り立った絶壁になっていて下に降りる足掛かりらしきものも見当たらなかった。


 石を拾ってそれを大裂孔に落とし耳を澄ませてみたが、石が地面に到達した音が聞こえてこなかった。


 ちょっと、どんだけ深いのよ。


 この状況だと足場を作って降りて行くのは無理そうね。


 でもここが国境なら何処かに交流するための道がある筈でそれを探してみるため、鷹の目のマジック・アイテムを取り出すと上空に放り投げた。


 鷹の目は大裂孔にそって地上の様子を映し出してくると、こちらからは死角となる場所に橋があり、警備兵がゲートを設けて警備していた。


 バシュラールから通達が来ていたら、あの場所で止められてしまうわね。


 困ったわね。どうしたら。


「アリーちゃん、困っているのかい?」


 私がどうしようか悩んでいると頭上のグロウ様が声をかけてきた。


「はい、安全に対岸に渡る手段が無いのです。この先に橋があるのですが、警備兵が居て、もしかすると捕まってしまう危険があるのです」

「それならわらわに任せるのだ」


 ユッカ地方はグロウ様の担当エリアなので、ここはお願いした方が良さそうですね。


「分かりました。それではお願いします」


 私がブレスレットの神緑石に触れると、頭上の帽子がふわりと地面に落ちると直ぐにアルラウネに姿を変えた。


 グロウ様は少し大きな種を3つ取り出すとそれを地面に落とし成長光線を当てていた。


 すると瞬く間に発芽した植物は互いに絡み合いながらにょきにょきと上空に向けて伸びて行った。


 植物の成長に満足したグロウ様は、ガイア様に向かって手を振った。


「そこのトカゲ、これをあちら側に倒すのじゃ」

「おい、こら、何故私が蛇の命令を聞かなければならない」


 拙い、また口喧嘩が始まってしまう。


 慌てた私はまた2人の間に割って入ると、ガイア様に手を合わせた。


「ガイア様、お願いします。一刻も早くカルテアまで行って戻ってきたいのです」


 私の上目遣いのお願いが効いたのか、ガイア様から怒りの表情が消えて行った。


「う、ううむ、ま、ああ、アリソンが困るのなら、仕方が無いな」


 ガイア様はグロウ様が育てた植物に体当たりをすると、植物が生えている地面がボコッと音を立てて盛り上がり根っこの部分が現れると、反対側に向けて倒れて行った。


 靄の向こう側でドシンという音が響くと、即席の橋が出来上がった。


 今の音で警備兵が駆けつけて来る可能性があるので、いつまでもここに留まっているわけにはいかないが、大裂孔の先にあるモステラ側が靄っていて何も見えないのだ。


 あの靄の中に大軍が待ち構えていたら態々罠に嵌りに行くようなものなのだ。


 最悪なのはモステラ側で待ち伏せされ、引き返そうとしたら今度はユッカ側で警備兵が待ち構えていて、大裂孔の中間で立ち往生する事だ。


 こうなったら迅速に動くしかなさそうね。


「ガイア様、急いで渡る事は可能でしょうか?」

「おお、問題無いぞ。アリソンよ、直ぐに背中の乗るのだ」

「ありがとうございます」


 するとガイア様が満面の笑みで振り返った。


「蛇よりはやり私の方が頼りになるだろう。なに、あの靄の中に危険があればブレスを撃ってやればいいのだ」


 それではまたユッカの二の舞になってしまうので、出来れば避けてほしかった。


 グロウ様は既に帽子に戻っているので、頭の上で文句を言っているがどうやらガイア様には聞こえていないようだった。


 私は急ぐためにもガイア様をおだてて速度を上げてもらう事にした。


「ええ、ガイア様はやっぱりすごいです」

「はっはっはっ、そうであろう」


 私達は、グロウ様が造ってくれた橋を一気に駆け抜け、靄で見えないモステラ側に向かった。


 さて、あちら側では鬼がでるか蛇がでるか。


 +++++


 バシュラールを出発したシリルとカーリーは、敗残兵のような無様な恰好になった騎士達の足取りを探した。


 負傷兵が多い騎士達の痕跡は直ぐに分かり、その痕跡を辿って行くと、人工的に造られた小道を見つけた。


「カーリー、この小道をどう見る?」


 シリルが小道を調べているカーリーに声をかけると、直ぐに答えが返ってきた。


 バシュラールまで付けられていた焦げ跡とはちょっと違いますが、まっすぐ伸びた道という共通点がありますね。


 アリソンという神官がユッカにやって来た後で突然現れたバシュラールまで伸びる道、そして今度はモステラへ続く小道、これはどう見てもあの神官が造ったとみるべきだろう。


「よし、この道を進むぞ」

「えっ、この先には魔樹が居るのでは?」

「あの兵士達がある程度片付けてくれただろうさ」


 俺の楽観論にカーリーは疑い深そうな顔で見つめていたが、反論はしてこなかった。


 いつどこから攻撃されるかもしれないので、周囲を警戒しながら進んで行くと、微かに人為的な音が聞こえてきた。


「カーリー」


 シリルが声をかけるとカーリーも気が付いたようでそちらの方面に向けて警戒していた。


 やがてそれが人の声だと分かると、シリルは興味を持った。


「カーリー、ちょっと行ってみるぞ」

「分かりました」


 シリル達は小道を離れ声がする方向に進んで行くと、そこには場違いな程立派な家があり、前庭にある畑では若夫婦が畑仕事をしていた。


 シリルは出来るだけ友好的に見えるように笑顔を張り付けた顔で手を振りながら夫婦に近づいて行った。


「やあ、精が出ますね」


 突然声をかけられた夫婦が驚いた顔で振り向いた。


「あんた達は、誰かね?」

「実はモステラに行こうと思っているのです」


 シリルがそう言うと、夫婦は慌てたように口を開いた。


「おまえさんら、それは考え直した方がええ」

「畑を捨てて夫婦で他国に逃げなくても大丈夫なのよ」

「この畑を見てみろ、雑草にやられていないだろう。もう大丈夫なんじゃ」


 シリルは夫婦が凄い勢いで止めて来るのに面食らっていた。


「えっと、どういう事ですか?」

「ああ、すまん。ユッカの地は既に元に戻ったんじゃ。もう逃げる必要はないぞ」

「どうして、それが分かるんですか?」


 シリルが理由を知りたいと言うと、夫婦はお互い顔を見合わせた。


「ああ、これはすまぬ。実は、儂らは森の神様に会ったんじゃ。神様が言うにはユッカの地は環境が元に戻ったと言って、この畑を作ってくだされたのじゃ」

「そうですよ、それに私達も老人だったのを、このように若い姿に変えて下さって、廃屋だったこの家も立なものに変えてくれたのです」


 そう言って奥さんの方は自慢するように後ろの家を見上げた。


「それは素晴らしいですね。ところで森の神様とはどんなお姿だったのですか?」


 シリルはあまり期待せずにそう聞いたが、すると2人の目が輝いた。


「緑髪緑眼が特徴的な女性の姿で、名はアリソン様というのだ」


 それはメラニー・シーモアと名乗った神官の姿ではないのか?」


「その緑髪緑眼の女性は、アリソンと名乗ったのですか?」

「いや、人語を喋る馬がそう言ったぞ」


 それはあの娘が乗っていた馬で間違いなさそうだな。


 すると、メラニー・シーモアと名乗ったのは偽名だったのか。


 やっと見つけたぞ。


「へえ、そうなのですか。ユッカの環境を治してくれた神様を拝みたいのだが、どちらに向かわれたか分かりますか?」


 すると男は黒い小道を指さした。


「この小道をまっすぐモステラの方向に向かわれたぞ」

「ありがとう、早速行って森の神様を拝んで来るよ」


 シリルはカーリーを伴って、早速後を追うのだった。


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