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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第2章 ユッカ
46/61

46 ユッカの村人1

 

 エタンが住む村ではもう何年も前から畑に雑草が繁殖するようになり、満足な収穫が得られていない状況だった。


 その雑草の繁殖力は強烈で、畑に姿を見せたと思ったら瞬く間に作物を覆いつくすように広がるので、毎日のように雑草を駆除しても、翌朝には雑草が畑を覆いつくしているのだ。


 そのため若く体力がある者が森に入って少しでも食べられる物を探してくることで、なんとか命を保っている状態だった。


 だが密林の中は魔樹と遭遇する確率が上がるので、村の貴重な働き手が怪我をすることも多くなり、働き手不足によってますます食料難に陥っていった。


「おやじ、もう家に食い物がほとんど残ってねえ。このままじゃ一家全滅だ」

「そうか」


 エタンは息子にそう答えると、そっと妻のバルバラを見た。


 バルバラもその意味が分かっているようで、悲しそうに頷いた。


 村では若い者を生かすため、年老いた者達は自主的に森の中に入り魔樹の餌になっていった。


 残り少ない食料を若い者に分けるには仕方がない事だった。


 エタンは隣室でおなかをすかせながら寝ている孫たちの顔をそっと覗いた。


 そしてその顔をそっと触れると、無言で最後の別れを告げた。


「後は任せたぞ」

「ああ、おやじ、おふくろ、すまない」


 悲しそうな顔で見送った息子に手を振ると、エタンは妻バルバラの手を握り、最後の旅に出かけた。


 密林の中に入れば、直ぐに魔樹に襲われるだろうと覚悟していたが、どういう訳かどれだけ進んでも魔樹が襲ってこなかった。


「じいさま、ちょっと疲れましたね」


 妻にそう言われて、エタンも密林の中を歩いているので、既に足が上がらなくなっていた。


 すると目の前に打ち捨てられた廃屋を見つけた。


 なんとなくだが、あそこが自分達の墓場に丁度良いかと思いつくと、ボロボロに朽ち果てた廃屋の中に入って腰を下ろした。


 エタン達が疲れを癒していると、密林の中から何か動物の鳴き声や木々が風に揺れて擦れる音に混じり、何かバキバキという聞きなれない音が聞こえてきた。


「じいさま、この音はなんですかねぇ?」


 エタンはこの音は魔樹だろうと判断した。


「ばあさまはここで待っておれ、ちょっと様子をみてこよう」


 バルバラと離れたエタンは、音が聞こえた方向に向けて杖を手に歩いて行った。


 +++++


 ファシュは部下達を率いて森の中で痕跡を探しながら捜索を続けていると、部下の1人が大声を上げた。


「将軍、こちらに来てください」

「何だ?」


 ファシュが手招きする部下の元に行くと、そこにはまっすぐ伸びた道があった。


 それは小道だが、バシュラールを襲ったドラゴンブレスの痕跡のようでもあった。


「どうやらアンスリウムの神官達は特別な能力を持っているようだな」

「将軍、それならバシュラールの神殿は何故、我々を助けてくれなかったのでしょうか?」


 あの神殿の下級神官は殆どユッカ出身者だが、神殿長はアンスリウムから派遣されていた。


「ふん、おおかた無能者が送られて来たのだろう。連中は、我々に高値で食料を売りつけられなくなるからな」

「え、でも、それなら何故今あの緑髪の神官は助けてくれたのですか?」


 部下は魔樹の襲撃が無い事から、あの神官がユッカの環境を戻したという話を信じているようだ。


「助けたかどうかはまだ分からないだろう? もしかしたら結界を張れなくして今度は何か違う物を高値で売りつけて来るかもしれないだろう」

「ああ、成程、連中ならやりかねませんね」

「いずれにしても、持ち逃げされた疑神石は国家の宝物だ。何が何でも奪い返すぞ」

「「「はっ」」」


 ファシュは部下達を率いて、この先にいる筈の緑髪の神官を追いかけていった。


 普段から訓練で鍛えている兵士達は、全力で走ってもそれほど疲労する事は無い。


 そろそろ追いつくのではないかと考えたところで、突然森の中から初めて見る魔樹が現れた。


「魔樹がいるぞ。全員戦闘態勢を取れ」


 くそっ、やっぱりあの神官は嘘をついていたか。


 ファシュは剣を抜くと、始めて見る魔樹に向かって行った。


 +++++


 グロウ様が造ってくれた小道を歩いていると、そこにうつ伏せに倒れている人がいた。


 私は慌てて駆け寄り倒れている人を仰向けにすると、そこには皺だらけで骨と皮だけになった老人の顔があった。


 うん、老人?


 ここはグロウ様が樹木を急成長させて枯れさせた場所よね。


 そこでシワシワの老人ってことは、もしかしなくてもグロウ様の成長光線を浴びて干からびてしまったという事ですよね?


 こ、これはとても拙いです。


「た、大変です。グロウ様の流れ弾に当たった人がミイラになってしまいました。急いで元に戻してください」

「それはわらわの仕業なのか?」


 ちょっ、目の前に明確な証拠があるじゃないですかっ。


 そこで私は、神獣様が人間の事など頓着していない事を思い出した。


「どこからどう見てもグロウ様の責任だと思います。とにかく急いで元に戻してください」

「仕方がないのう」


 グロウ様は私が差し出したミイラ化した男性を前に、ちょっと考え込んでいた。


「元とは、どのくらい若返らすのじゃ?」


 私は一瞬躊躇したが、こんな密林の中で活動するなら若い猟師なのだろうと判断した。


「働き盛りの青年くらいです」


 私が自信満々にそう言うと、グロウ様はようやく納得してくれた。


「そうか、アリーちゃんがそう言うのなら」


 そして腕を前に出すと若返りの光線のようなものを照射すると、ミイラのような干からびてシワシワだった肌がみるみるうちにみずみずしい肌に変っていった。


「大丈夫ですか? 近所の方ですか?」

「ん、ああ、あれ、どちら様?」

「貴方はここで倒れていたのです。どこか痛い場所とかはありませんか?」


 すると青年は自分の体を手探りしていた。


「いや、大丈夫じゃ。というより、何時もより調子が良いですじゃ」

「それは良かった。ところでこんな所で狩でもしていたのですか?」

「いや、近くに連れがいる筈なんじゃが」


 そう言うと青年は周りを見回していた。


 え、奥さんと一緒に狩なのですか?


 という事はこの青年は猟師として獲物を狩っていたのではなく、農民かなにかで夫婦でキノコ狩りとか山菜狩りをしていたのね。


 すると頭上のグロウ様が人の反応を教えてくれた。


「アリーちゃん、あっちじゃ」


 私はグロウ様に教えてもらった方角に青年を連れて行くとそこには廃屋があり、1人の老婆が姿を現した。


「おーい、ばあさまや、戻ったぞぃ」


 青年は何故かその老婆に向けてそう言って手を振った。


「え? 本当にじいさまなの」

「何を言っておる、儂にきまっておるだろう」

「だって、その顔、ひえぇぇ、の、呪いじゃぁぁぁ」


 そして老婆はぶるぶる震えるとそのまま気を失ってしまった。


 私はそこで初めて余計な事をした事に気が付いた。



 廃屋の中で気を失っている老婆の傍で若者が心配そうに顔を覗き込んでいる姿を見て、私は帽子に戻ってもらったグロウ様に話しかけた。


「グロウ様、これ拙いです」

「だから、わらわのせいではないと言ったではないか」

「あの状況で、ただ様子を見に来て倒れただけなんて誰が思うのですか?」

「だが、それが事実じゃろう」


 ううっ、神獣様に正論を言われるとは。


「それを言われると返す言葉も無いのですが、このままだと絶対に拙いです」

「ではどうするのだ?」


 私はグロウ様にそう聞かれて、見た目が祖母と孫ほども違う夫婦を見た。


 今なら老婆はまだ意識を失っているので、夫の方を老人に戻せばただの見間違いで済むのではないか?


 そして夫の方を元に戻そうと思ったところで、その対象が話しかけてきた。


「神官様、もう儂らに構わなくてもいいですじゃ」

「え、それはどういう意味です?」

「儂らは、口減らしで森の中に入ったのですじゃ。魔物に喰われるのを待っているだけなので、生きながらえたとしてもあと数日の命ですじゃ」


 魔樹はもう出ないので、待っているのはひもじい思いをしながらの餓死なのですよ。


 私なら、おなかがすいて死ぬなんて絶対嫌。


「という事なので、儂らに構わず旅を続けてくだされ」


 私は両親を知らず、おばあちゃんに育ててもらったので当然おばあちゃん子なのだ。


 確実に死ぬと分かっている老夫婦を見捨てるなんて事、出来る訳がないでしょう。


「グロウ様、老婆の方も若返らせて、この廃屋も住めるようにして、森の一部を畑にすることは可能ですか?」

「注文が多いのう」

「あ、駄目でしたか」


 やはりあまり多くを求めるのは、欲張りでしたね。


 グロウ様にも能力の限界とかがあるかもしれませんし。


「勝手に結論を出しては駄目じゃ。出来ないとは言っていないだろう」


 あれ、私が考えている事を見透かされましたか。


「え、出来るのですか?」

「アリーちゃんの頼みなら、わらわもちょっとだけ奮発してやろうかの」


 ひょっとしてら、ユッカ地方の中だとグロウ様は圧倒的な力を発揮できるという事なのでしょうか。


「では、お力をお貸しください」


 私はブレスレットの神緑石に触れると帽子だったグロウ様の分身体が、アルラウネの姿になった。


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