42 ハチの巣をつつく
ガイア様は興味深げに周囲を見回していた。
「ひょっとして、暗くじめじめした場所が好きなのか?」
「そんな訳ありません。また地下牢に閉じ込められたのです。それよりも、この先にある疑神石を廃棄しましょう」
そして前回ガイア様が穴を開けた場所に向かった。
「ガイア様に造って頂きました地下道はちゃんと残っていましたね」
「ふむ、それではアリソンよ、私の背中に乗るのだ」
「はい、お願いします」
ガイア様の背に乗って進んで行くと、側面に穴がある場所までやってきた。
この穴の先に疑神石があるのだ。
側面の穴から中に入って行くと、前回と同じように石壁と天井という人工物で出来た通路に辿り着いた。
通路の左右に設置されている装置の中に、エネルギー源として疑神石が入っているのだ。
その装置は今も稼働中らしく、低い唸り音が聞こえていた。
すると頭の上からグロウ様の声が聞こえてきた。
「これが、わらわをおかしくした疑神石か」
「はい、なので疑神石をとりだして廃棄しますね」
「それなら、わらわも協力しよう。アリーちゃんや、わらわを具現化するのだ」
「はい、分かりました」
私がブレスレットの神緑石に触ると、頭の上の帽子がぽんと地面に降りアルラウネの姿に変った。
私が様子を窺っていると、グロウ様はアルラウネの両腕を突き出して装置を次々と破壊していくと、破壊された破孔からあの黒い石が転がり落ちた。
あ、壊しちゃった。
「アリーちゃん、わらわはこの石に触れられぬ。後はよしなに」
「あ、はい、分かりました」
私は手に持った袋の中に拾った疑神石を入れていった。
グロウ様が全ての装置を破壊してしまったので、そろそろ地上ではその異変に気が付いている筈だから、早々にこの場所から逃げた方が良さそうね。
「グロウ様、ガイア様、それではこの場から逃げ・・・用事が済みましたので次に向かいましょう」
私が逃げると言おうとした途端、お2人が「何故逃げなければならないのだ」という顔をしたので慌てて言い直した。
神獣様はちょっと子供っぽいところがあって、拗ねると機嫌を直してもらうのが大変なのだ。
私は帽子に戻ったグロウ様をかぶると、ガイア様の背中に乗って洞窟内で見つけていた裂孔の場所に向かった。
+++++
シリルはバシュラールの結界が消えた事に直ぐ気が付いた。
「カーリー、結界が消えたぞ」
シリルが注意を促すと、カーリーは直ぐに周囲を確かめていた。
「まだ、周囲の人間は気が付いていないようですね」
「何があったと思う?」
「今までの状況証拠から判断すると、原因はあの神官でしょうか?」
アンスリウムの秘密を知っていそうな神官がこの町に入った途端、消えた事がない結界が消えたとなれば、無関係な筈はないな。
「カーリー、ちょっと神殿を突いてくるぞ」
「藪をつついて蛇を出す気ですか?」
「神殿という化け物とユッカ王家という曲者の、大立ち回りが見られるかもしれないぞ」
「公子、とても楽しそうですね」
シリル達が神殿に行くと、出迎えたのは下級神官見習いだった。
その見習いにアリソン下級神官の事を尋ねると、確認のため一度神殿に入ってから戻って来た。
「申し訳ございませんが、この神殿にアリソン下級神官が来たという記録はありません」
「ほう、なら緑髪に緑眼の下級神官はどうだ?」
「ちょっと、お待ちください」
見習いが再び神殿の中に入ったが今度は時間がかかっていた。
もしかして放置されたかと心配になった頃、1人の神官を連れて戻って来た。
その神官は連れてこられた事に不満そうな顔をしていた。
「失礼ですが、また誰か尋ね人ですか?」
「いや、なに、アマハヴァーラ教の神殿では、身内の神官がユッカ王家に捕まっていても助けてやらないのかと思ってね」
シリルがそう言うと目の前の神官はムッとした顔になった。
「我らは身内の神官を見殺しにするような真似はしない。言いがかりは止めてもらおう」
「ほう、では、この町にやってきた緑髪に緑眼の神官の事は知っているのですね?」
すると目の前の神官は驚いた顔をしていた。
「いや、そんな外見の神官は知らないが? それは間違いなくアマハヴァーラ教の神官だったのか?」
「ええ、貴方が着ている神官服と同じ物を着ていましたよ」
シリルがそう言うと、明らかに目の前の神官は動揺していた。
「ちょっと、待っていてもらいたい」
シリルはまたかと思ったが、これからの展開が面白そうだったので、大人しく待つことにした。
シリル達が待っていると、やって来たのは不機嫌そうに眉間に皺を深くした男だった。
その男が纏う神官服は、袖に青色の2本線が刺繍されているので上級神官と分かった。
「私は、この神殿の責任者であるカール・エマーストだ。オダン下級神官の話では、ユッカ王家に我がアマハヴァーラ教の神官が捕まっているという話だが?」
「ええ、緑髪緑眼の神官様で、神官服の袖に灰色の1本線が刺繍してありましたよ」
「下級神官か。だが、どうして捕まっていると分かるのだ?」
エマーストはまだ信じていないようで、その顔には疑念が浮かんでいた。
「騎士団の監視がついていましたからね。簡単に分かりましたよ。ところでアンスリウムの大神殿からこの地にやって来たはずのアリソン下級神官は、何処に居るのですか?」
「何故その名前を? ああ、そうか、アリソン下級神官はまだ到着していないぞ」
エマースト上級神官がそう言うと、後ろにいたオダン下級神官の顔色がさっと変わったのを見逃さなかった。
「後ろの方は、アリソン下級神官の事を知っているようですが?」
シリルが直ぐにそれを指摘してやると、驚いたエマースト上級神官が後ろを振り返った。
「アリソン下級神官は、センシブル特級神官の命を受けてカルテアまで巡行する神官だ。この地にやって来たら必ず支援するように命じられているが、お前は何か知っているのか?」
「え、あの、その」
明らかに挙動が怪しいオダン下級神官に、エマースト上級神官が叱責した。
「何か知っているのなら話せ。もし、隠しているのが発覚したらお前は罰を与えた上で破門にするぞ」
エマーストの激しい叱責にオダンは飛び上がっていた。
「あの、私は、知らなかったのです。それに、最新版のアマハヴァーラ教の神官リストにも記載がありませんでしたので」
支離滅裂なオダンの言動に、エマーストは眉をしかめた。
「だから何だと言うのだ? それよりもお前はアリソン下級神官を知っているのか?」
エマーストに睨まれたオダンは真っ青な顔でブルブル震えていた。
「ユ、ユッカ王家からその者がバシュラールにやって来たので、神殿関係者かどうかの照会を受けました。で、でも、神官リストに名前が無かったので、そのように伝えました」
それを聞いたエマーストの顔色がさっと変わった。
「馬鹿者、神官が来訪したら私に知らせるように伝えていたはずだぞ。そんな簡単な仕事も出来ないのか?」
「いや、ですが、照会が緊急だったのと、エマースト様は大事なお茶の時間だったので」
まるで責任はこちらにかるかのような物言いに、エマーストの怒りは更にヒートアップした。
「それで勝手に判断したのか?」
「も、申し訳ありません」
エマーストは使えない下級神官を睨みつけていた。
「他に隠している事は無いか? あったら今のうちに言っておく方が身のためだぞ」
するとオダンはまたとんでもない事を言い出した。
「実は、また、ユッカから人物照会がありまして」
その事も報告されていないのかエマーストは更に怒りを露にしていたが、それよりもその内容を聞く方を優先していた。
「その人物照会は誰だったのだ?」
「はい、アンスリウム大神殿所属のメラニー・シーモア下級神官です」
シリルはそれがあの緑髪緑眼の神官だと判断した。
それにしてもユッカ側は、アンスリウムの神官を何人拘束しているのだ?
どうやら王国側に怒りを覚えたエマーストは、こちらの思惑通り行動してくれるらしい。
シリルは顔に出さずにほくそ笑んだ。
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