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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第2章 ユッカ
41/62

41 口封じ

 

 ユッカ国王エタン・エルヴェシウスは、どうするかと聞いてきた宰相の顔を見てから、この場に居並ぶ者達の顔を順番に見て行った。


「仮に疑神石を引き渡したとして、また新たに買う金はあるのか?」


 エルヴェシウスの下問に宰相が渋い顔をしたので、それが難しいのは一目瞭然だった。


 ユッカの地は、長年魔樹による災害に悩まされ国が疲弊しているのだから当然か。


「ユッカを含め地方の環境がみな悪化しているというのに、あの地だけ豊な土地だ。アンスリウムの連中は、我々が知らない環境に関する何か重大な秘密を握っていて、それを隠しているのだろう」

「はい、きっとそうなのでしょうね」

「その秘密が分かれば、ユッカの地もアンスリウムに負けず劣らず素晴らしい地になるな」


 王が何を考えているか分かった宰相が慌てだした。


「え、ですが、相手はアマハヴァーラ教の正式な神官です。無理やり聞き出して、アンスリウムと事を構えるのは得策ではないと思いますが」

「禁忌の地はとても危険な場所だし、そこに至る迷いの森もそうだとは思わないか?」


 エルヴェシウスの言葉に逆らえる者など、この場所には誰もいなかった。


 +++++


 騎士団の客間で待機していた私の元にバリアンテがやって来た。


「シーモア殿、王との謁見許可が下りました。一緒に来ていただけますか」

「分かりました」


 バリアンテの後を付いて行くと、重たい扉の前までやって来た。


 そこに立っていた衛兵がドンと音を立てると、私の名前を呼んだ。


 そして内側から扉が開くと、バリアンテが一礼して中に入るように促してきた。


 どうやらここから先は私1人のようだ。


 石造りの床を歩きながら中に入って行くと、両側に衛兵が並び、正面の豪奢な椅子に座る男とその隣に立つ補佐役が居た。


 一応他国の王の前なので、それなりの礼儀は必要でしょうね。


 アマハヴァーラ教の挨拶では、両手を結び額に当てた状態で軽く膝を折るのだ。


「アマハヴァーラ教のメラニー・シーモア下級神官です」

「うむ、此処に居る第1師団からユッカの地の環境を整えてもらったと報告を受けている。大儀であった」

「はっ、ありがとうございます」


 普通ならここで褒美の話になってもおかしくないが、と少しだけ期待して待っていると意外な事を聞かれた。


「ところで禁忌の地で何をしたのか教えてもらえないか?」


 グロウ様の神域に入ってお世話をしたなんて事を、初対面に人に言える訳も無かった。


 さて、なんて言ってごまかすか。


「あの地には魔物を生み出す魔力噴出孔があったので、それを塞いだのです」


 まあ、嘘なんですけどね。


「調査隊からは、そのようなものがあったという報告は上がっていないが?」

「それは専用の訓練を受けた者が、そこにあると分かっていて探さなければ見つけられないからです」


 私が堂々とそう言い放つと、下問した王もそれ以上問い詰められなくなったようだ。


 代わりに王の隣に立っていた宰相が口を開いた。


「その専用の訓練とは、アンスリウムの大神殿でしか行われていないのか?」

「はい、そうです」


 私がよどみのない口調でそう言うと、宰相も黙り込んだ。


 暫く沈黙が続いた後、王が再び下問してきた。


「我が国への功績に褒美を考えねばならんが、希望はあるのか?」

「それでは、この国にある疑神石を全て引き渡してもらいます」

「その石は国の重要な宝物なのだ。代わりの物では駄目なのか?」


 国王は渋い顔をしているので、渡したくないようだ。


 私は頭の上のグロウ様に念話で話しかけた。


「グロウ様、疑神石がユッカに存在する事は許容できますか?」

「駄目じゃな」


 グロウ様が認めないのなら、交渉の余地は無いわね。


「あの石がある限りユッカの環境に悪影響を与えます。せっかく改善した環境をまた悪くしたくなければ今すぐ引き渡してください」

「分かった。準備するからそれまで別室で控えておれ」


 +++++


 ファシュは、アマハヴァーラ教の神官が退出していくのを目で見送ると、頭を抱えた陛下が宰相に話しかけていた。


「疑神石には相当な額を投じたのだ。何とかならんか?」

「そうですな。ボーカンあの下級神官が此処に居る事は、バシュラールの神殿側にはバレていないな?」


 宰相に質問された団長がファシュを見てきた。


「ファシュ、神殿に問い合わせた時、あの神官が来た事を言ったか?」

「いえ、あの神官が神殿の所属なのか照会をしただけです」


 ファシュの返事に満足した宰相は、王に進言した。


「禁忌の地いや、迷いの森も含めて人間にとってはとても危険な場所です。そこで何かあっても何ら不思議はないと思います」

「ほう、確かにそうだな」


 宰相の言に王が同意すると、直ぐに団長に暗黙の命令が下った。


「ボーカン、分かったな?」

「・・・承知いたしました」



 団長の執務室に戻って来ると、早速ファシュに命令が下った。


「ファシュ、客間に居る神官の口を塞ぐのだ」

「待ってください。あの神官はユッカの恩人ですよ。それでは恩を仇で返すことになります」


 ファシュはそう言ったが、団長は厳しい顔で首を横に振った。


「ファシュ、我々は王家に忠誠を誓った時点で、王家の命令は絶対なのだ」

「間違っていてもですか?」

「それを忠告するのは宰相の役目だ。だが、今回はその宰相も同意している。諦めろ」


 だが、ファシュは分かっていた。


 万が一にも神官を害した事が神殿側に漏れたら、その責を負わされるのは自分だという事に。


 ファシュとしても軍人であるからには命令で凶行に及ぶ事は問題無いが、露見した時の犯人にされるのだけはどうしても我慢できなかった。


「団長、直接手を加えなくても、幽閉してしまえば同じ事ではないでしょうか?」


 団長はファシュの提案と宰相の命令に齟齬は無いかと考えているようだ。


 そして出た結論は、ファシュの提案への同意だった。


「分かった、それで行こう。ただし、関係する者は最小人数で実行するのだ」

「はい、心得ております」


 実際あの場所は囚人を飢え死にさせる場所だから結果としては同じなのだが、あの場所に誰が突き落としたかとなったら議論が生まれるだろう。


 +++++


 ユッカ国王との謁見を終えた私は、再び客間に案内されていた。


 今は神眼を開いていないので、会話できる相手は頭上のグロウ様だけだった。


 試しに帽子を脱いでテーブルの上に置いてみたが、体から離れていると会話が出来なかった。


 次に試してみたのは、神眼を開いた状態ならどうかという事だ。


 これだと離れていても問題なく会話をすることが出来た。


 そんな実験をして暇つぶしをしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。


 ようやく疑神石引き渡しの準備が出来たのだろうかと、「はい」と返事をした。


 扉を開けて入って来たのは、ファシュとバリアンテだった。


「神官様、疑神石がある場所に案内しますので付いてきてもらえますか」

「分かりました」


 私は先導するファシュの後ろ、その後ろをバリアンテという並びで通路を歩いていた。


 そしてファシュが向かっている先に疑念が湧いてきた。


 私を案内している先は、最初に連れて行かれた地下牢の方向だったからだ。


 まあ、そちらがそのつもりなら、こちらもせいぜい勝手にやらせてもらいますね。


 通路脇にある階段を降りると、そこは見覚えのあるうす暗い通路で、その先には地下牢の入口となる頑丈な扉があるのだ。


 ファシュは予想通りその扉の前で止まると、こちらを振り返った。


「神官様、疑神石はこの先に保管してあります。我々は入室を許可されていないので、中に入って取り出してもらえますか」


 そんな入室に許可がいるような場所に部外者を勝手に入れるなんて、怪しまれると思わないのかしら?


 勿論私はその方が都合が良いので、騙されるふりをしてあげますけどね。


「分かりました。案内ありがとうございます」


 そして分厚い扉の中に入ると、そこは真っ暗で何も見えなかった。


 予想どおり背中を押されたので斜面を転がらないように注意して降りて行くと、頭上では扉を閉める音と鍵をかける音が聞こえてきた。


 やっぱり地下牢に閉じ込められたわね。


 だが、ここで何も言わないとかえってあやしまれそうだから、態と慌てたふりをして叫び声を上げた。


「え、ちょっと、これ、どういう事ですか? 暗くて何も見えないのですけど。ねえ、聞いている?」


 だが、扉の向こう側からは返事は無く、去っていく足音が微かに聞こえてきた。


 よし、演技はこのくらいでいいか。


 私は神眼を開くと、大神殿で教わった光源魔法を発動し明るくなったところで、ブレスレットの黄神石に触れた。


 目の前にガイア様の分身体が現れると、直ぐに周囲をみまわしていた。


「なんだか、見覚えがあるような場所だが?」

「ええ、また地下牢に落とされましたので」


 私のその物言いに、ガイア様は笑みを浮かべていた。


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