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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第2章 ユッカ
40/62

40 思惑

 

 禁忌の地で出会ったアマハヴァーラ教の神官を副官に監視させると、ファシュは直ぐに神殿に身元確認の使者を走らせた。


 そして団長のロイク・ボーカンの執務室に行くと、厳しい顔をしたボーカンに迎えられた。


「ファシュ、禁忌の地では成果を出す前にお前が部隊を撤退させたと言って、ミドル殿が苦情を言ってきたぞ。一体なにがあったんだ?」


 ファシュは禁忌の地で魔樹の猛攻を受けて結界を展開した事、ミドルが結界内で掘削作業をしたせいで瘴気が充満し危機に瀕した事、禁忌の地の調査に来たアマハヴァーラ教の神官に助けられた事を話した。


 そして神官の言葉を信じるなら、ユッカの環境はこれから改善する事になる事も。


「すると、遷都の必要がなくなったと言うのか?」

「はい、ただし条件があって、結界を展開するエネルギー源である疑神石を廃棄する事だそうです。そして第2師団が保管していた結界を発生させるマジック・アイテムの疑神石を奪われました」


 ファシュが廃棄と言った途端、団長の顔が曇った。


「疑神石は国家の財産だ。それを取られたのか。それに他の疑神石も廃棄するのは厳しいぞ。使わずに保管では駄目なのか?」

「疑神石は環境悪化の原因となる物質だそうで、それがあると再び環境が悪化するそうです」

「その話、何処まで信用できるのだ?」


 確かに、いきなりこんなことを言われて「はい、そうですか」と信じる者はいない。


「禁忌の地からの帰り道、あれだけ攻撃してきた魔樹の攻撃がありませんでした」

「ほう」


 すると団長がテーブルのベルを鳴らすと、直ぐに当番兵が入って来た。


「お呼びでしょうか?」

「周辺哨戒をした班に魔樹の攻撃があったか確かめてこい」

「はっ、畏まりました」


 当番兵が出て行くと、ファシュは声を潜めた。


「それともう1つ、魔樹からの攻撃を避けるため結界を張った時、結界内の樹木が魔樹に変化しました。これは神官の言葉を裏付けると思うのですが」

「ふむ、成程な」


 それから暫くして当番兵が戻って来て、今日は魔樹の攻撃が無いと報告があった。


 そして神殿に使いに出した者も戻り、神殿側でメラニー・シーモアという下級神官が大神殿に所属している確認が取れた。


「こうなって来るとアマハヴァーラ教のやつらが何か重大な情報を掴んで、それを試すために禁忌の地に来たとみるのが妥当だな」

「ええ、そのおかげでユッカの環境が改善するなら、ありがたい限りです」

「良し、分かった。陛下への謁見許可を申請してくるから、お前はその神官殿の監視をたのんだぞ」

「はい、お任せください」


 +++++


 シリルはカーリーを伴って迷いの森を無事突破して、無事ユッカの王都バシュラールに到着していた。


「驚きました。入ったが最後遭難して躯を晒すと言われた迷いの森が、あんなに楽に歩けて魔物にも出くわさないなんて」

「あの娘が迷いの森に入った事で何かが変わったとは思わないか?」

「ユッカ王国が何かやったのでは?」

「今まで無策だった奴らに、何ができると言うのだ?」


 シリルが無能な王家を批判すると、カーリーは不思議そうな顔をしていた。


「それよりもあの娘の足跡を探るぞ」

「え、直ぐですか?」

「当たり前だ」

「え、ちょ、少し休ませてくださいよぅ」


 カーリーが泣きそうな顔になっているので、仕方なく少しだけ休憩することにした。


「分かった。ならマルシェに行こう」


 +++++


 私は騎士団のバリアンテに案内されて、マルシェにやって来ていた。


 国が厳しい状況という事もあって、アンスリウムでは賑わっていたマルシェもここでは買い物客の顔も暗く、客足も悪かった。


 それも店頭に並んでいる食料品価格が、べらぼうに高いからだと直ぐに分かった。


 私も保存食を買おうとしたが、アンスリウムでは銀貨1枚と銅貨6枚だった食料価格がここでは10倍もの価格になっていた。


「信じられないくらい高いわね」


 手持ちは金貨1枚銀貨6枚に銅貨4枚なので、ここで食料を買うと手持ちが無くなってしまうのだ。


 本来なら神殿で援助金を受け取れるはずなのに、ここの神殿は私の事を拒否していた。


 私が困っていると頭上のグロウ様から念話が聞こえてきた。


「なんじゃ、食料で困っているのか?」

「あ、グロウ様、そうなのです。ここでモステラ地方に行くための食糧を購入すると手持ちが殆どなくなってしまうのです」

「それならわらわが何とかしよう。町から離れたら食料を用意してやるぞ」

「まあ、グロウ様、それはとても助かります」

「ふふふ、もっと褒めても良いのだぞ」


 私がグロウ様と頭の中で会話しているため、食料品の価格を見て固まっていると勘違いしたバリアンテが話しかけてきた。


「シーモア殿、ひょっとして価格を見て困っておいでですか?」

「え、ええ」


 グロウ様との念話をごまかすためそう返事をすると、バリアンテはにっこり笑みを浮かべてきた。


「この価格はユッカで流通している硬貨での価格ですよ。アンスリウムの硬貨ならムーアクラフト銀貨2枚程度です」

「え、そんなに価値が違うのですか?」


 私が驚いて聞き返すと、バリアンテは困ったような顔になった。


「鉱山での採掘作業もかなり危険で、金や銀の含有率を下げていますからね。仕方が無いのですよ。ですが、これから環境が改善するのなら、アンスリウムと同じ価値にまで引き上げられるでしょう」


 バリアンテは現実を告げて苦笑いを浮かべていた。


 私はグロウ様が用意してくれるという食料がどんなものか分からなかったので、ムーアクラフト銀貨1枚分の食料を購入した。


 +++++


 シリルはカーリーの情けない姿に同情して、王都のマルシェで休憩がてらお茶を飲んでいた。


 すると、シリルの目に注意を引く人物の姿が映った。


 その人物は緑髪に緑眼が目立つ女性だったが、どことなくあの娘の面影があり、なによりアマハヴァーラ教の神官服を着ていた。


 不思議に思ったシリルはカーリーに声をかけた。


「なあ、あの女性を鑑定で見てくれないか」


 シリルが目立たないように顎で方向を示すと、カーリーがそちらに顔を向けた。


「え、あの緑髪の神官ですか?」

「そうだ」


 カーリーが緑髪の神官を鑑定すると、首を少し傾けた。


「別段、変わったところはありません。ですが、あの顔はアリソンという神官と面影が似ていますね。勿論髪も瞳の色も違いますが」


「そうか。あの娘がユッカに入ってから、迷いの森には即席の道が突然出現し、魔物は襲ってこない。そして道の到達点であった王都では、あの娘に面影が似ている神官が居る。こんな偶然があるものなのか?」

「・・・つまり、変装していると? ですが、顔は化粧で何とか出来ても、身長は流石に無理なのでは?」

「あのローブの中がどうなっているのか、分からないだろう?」

「まあ、確かにその可能性はあるかもですが、他人の空似では?」

「そうだったとしても、調べてみる価値はあるだろう?」


 +++++


 謁見の間に来たファシュは、団長のロイク・ボーカンの後ろで跪いていた。


 第1軍の将軍であるファシュでも国王に謁見する機会は殆ど無く、今回は団長に付いてくるように命じられたのでこの場所に居るのだ。


「面を上げよ」


 ファシュが顔を上げると、正面の玉座には国王のエタン・エルヴェシウス陛下が、その隣には宰相のジロー・マズリエが立っていた。


 口を開いたのは宰相だった。


「ボーカン、この報告は確かなのか?」

「はい、此処に控えているファシュ将軍が禁忌の地でその神官に出会ったのですが、往路であれほど襲ってきた魔樹が帰路では全く現れなかったそうです。それに私の方で王都の結界周辺を調べましたが、やはり魔樹の攻撃はありませんでした」


 ボーカンがそう答えると、宰相はまだ納得していない様子だった。


「アマハヴァーラ教の神官は、環境悪化の原因となる疑神石を破棄しろと言ったのだな? しかも、我が国の宝物である疑神石を奪ったうえで」

「はい、神官はそう言っております」


 ファシュが答えると、宰相の目が鋭くなった。


「その女は本当にアマハヴァーラ教の神官だったのか?」

「はい、神殿に使いの者を出して確かめさせました。間違いなくアンスリウムの大神殿の所属神官でした」

「ユッカの環境は以前の豊かな森に戻ったのならそれはとても歓迎する事態なのだが、その対価として我が国の宝物である疑神石を差し出せと言うのか。あの石を購入するのに我が国が一体いくら支払ったと思っているのだ。ううむ、陛下、如何いたしましょうか?」


 宰相の問いに、それまで成り行きを見守っていた国王が口を開いた。


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