34 神獣グロウ2
私は上体を起こして自分の状態を確かめてみたが、怪我もなく防具も破損していなかった。
「はい、大丈夫です。グロウ様の尻尾を受け止められると思ったのですが、体重が軽すぎて吹き飛ばされました」
「そうか。正気を失っているから厄介だな。それでどうする?」
「先にあの尻尾を何とかしてみます」
そして再び神域の中に入ると、神力で具現化した槍を地面に突き立てそのまま固定した。
「さあ、グロウ様、お世話させてもらいますよ」
グロウ様は話しかけると攻撃してくるようで、直ぐに尻尾が飛んできて地面に突き立てた槍に激しくぶつかって来た。
その衝撃が激しく吹き飛ばされそうになり体勢を崩してしまった。
そこで今度は3本の槍を地面に突き立ててからグロウ様に話しかけた。
「グロウ様、今度は負けませんよ」
そして突き立てた槍に尻尾が激しくぶつかって来たが、今度は3本あるのでその衝撃に耐える事が出来た。
槍とぶつかって止まった尻尾の反対側に素早く槍を突き立てて、直ぐに地面と融合させることで尻尾を拘束した。
幸いな事にグロウ様の髪の毛はまだ天井に拘束されていたので、再び上を取るため神域の壁を駆け上がった。
攻撃手段を全部封じたはずだが念のためグロウ様の様子を見ると、祈りを捧げるように両手を胸の前に合わせていた。
何をしているのだろうと様子を窺うと、合わせた両手の間が光ると、そのまま光の玉がこちらに向かって飛んできた。
それはガイア様に教えてもらった神力弾と同じもののように見えた。
咄嗟に神力で盾を具現化して耐えたが、立て続けに撃ち込まれると、遂に耐えられなくなりそのまま神域から弾き飛ばされた。
私が枝葉から覗く空の青さを見つめていると、少し呆れ顔のガイア様が覗き込んできた。
「やっぱり駄目だったか」
「いえ、グロウ様の攻撃方法が分かってきましたので、次は大丈夫かと思います」
「そうか、期待しているぞ」
「はい、お任せください」
そして神域に入ってグロウ様の状態を確かめると、髪の毛は天井で、尻尾は地面に拘束されたままだった。
これなら残る攻撃手段は神力弾だけのはず。
私は自信をもって一歩前に出ると、予想通りグロウ様は両手を胸の前に合わせ侵入者への攻撃行動を取り始めた。
その動作を見て私は神力で先ほどとは違う盾を具現化すると、一気にグロウ様目掛けて駆け出した。
直ぐにグロウ様から神力弾が連続で放たれたが、それを新しい盾がはじき返していた。
はじき返された神力弾はグロウ様目掛けて飛んでいくと、グロウ様の落ちくぼんだ眼窩に驚きの表情が現れたように見えた。
そして弾かれた神力弾を両手で弾くと、攻撃が止み隙が生まれた。
その隙をついて一気に駆けると、急接近してきた私に慌てて両手を前に突き出して防ごうとしてきた。
その手の動きよりも早く接近すると、具現化したウォーハンマーをグロウ様の脳天に向けて振り下ろした。
グロウ様は攻撃を避けようにも髪の毛は天井で固定されているので、避ける事も出来なかったようだ。
ウォーハンマーを握る両手にしっかりとした手ごたえを感じると、激しい衝撃音とともにグロウ様の悲鳴が聞こえた。
「ぐぎゃぁぁぁぁ」
地面に着地した私は、ジンジンする両手を振ってしびれを振り払ってからグロウ様がどうなったのか見上げてみた。
そこには意識を失ったグロウ様は天井に固定された髪の毛で吊るされている状態で、思わず首吊り死体のように見えた。
きゃぁぁぁぁ、た、大変。
慌てた私は神域の壁を走り天井の固定具を外して髪の毛を解放していくと、最後の髪の毛を解いたところで、グロウ様の体が地面に倒れていた。
グロウ様はウォーハンマーの直撃で、頭をかち割られて中身が吹き飛んでいる事もなく、ただ倒れているだけだった。
ふっ、良かった。
グロい場面を見なくて済んだと一安心したところで、そのあまりダメージの少なさを見て、実は気絶したふりをしてこちらが油断して近づいてくるのを待っているではないかと疑念が湧いてきた。
一歩一歩慎重に近寄ると、グロウ様は突然起き上がって攻撃してくることもなく、その顔の傍まで近づく事ができた。
そこでようやく本当に気絶しているのだと悟った私は、慌ててグロウ様のお世話をするため神力でコームを具現化した。
「グロウ様、失礼します」
一度声をかけてからグロウ様の乱れた髪を整えていった。
それまでぐちゃぐちゃに絡まっていた神力の流れが徐々に整っていくと、荒れていたグロウ様の髪の毛に艶が戻ってきていた。
そしてお顔もあの恐ろしい形相から、今は穏やかな寝顔に変っていた。
「グロウ様、綺麗になってきましたよ」
思わず私がそう話しかけると、予想していなかった返事があった。
「ああ、とても気持ちがよいぞ」
「え?」
その声に少しだけ緊張してグロウ様の顔を覗くと、グロウ様に落ちくぼんだ眼窩には、綺麗な緑色の瞳が現れた。
「グロウ様、正気に戻られたのですか?」
「ああ、そうか、わらわは正気を失っていたのか」
「ええ、失礼とは思いましたが、正気に戻すため頭を打ちました」
「ふふふ、そうか。どうりで少しジンジンするはずじゃな」
グロウ様はウォーハンマーで打ち付けた場所を手で摩っていた。
「申し訳ありませんでした。あ、こぶが出来てしまいましたか?」
「いや、大丈夫じゃ。それよりもそなたは誰じゃ?」
どうやらグロウ様は私が挨拶した事を覚えていないらしい。
「私はリドル一族のアリソンと申します。今、グロウ様の調力をさせて頂いております」
「ふむ、もう少し頼む」
「はい、お任せ下さい」
私が調力していくと、グロウ様の髪の毛がとても綺麗な緑色に変わり、怖かった顔はとても美しい女性のそれに代わっていた。
「グロウ様の髪の毛とても綺麗です」
「そうであろう、わらわの自慢の髪じゃ。それにしてもリドル一族がわらわの神域に来たのは久しぶりじゃな。今までなにをしていたのじゃ?」
その問いに少しだけ非難が含まれているのに気が付いた。
「私はガイア様の調力を担当しております」
「ガイアじゃと?」
グロウ様は信じられないという顔をしていた。
「では、わらわを担当していた者らは、どうしているのじゃ?」
「分かりません。私はカルテアに行く途中でユッカの地に寄らせてもらったのです」
「そうか。わらわが正気を失っていたなら、ここにくるのも大変であったじゃろう?」
グロウ様が私を心配するような顔をしていたので、安心させようと1人ではない事を告げた。
「はい、1人ではとても無理でしたが、ガイア様が分身体を付けて下さいましたので、なんとか来る事が出来ました」
「うん、トカゲの分身体じゃと?」
なんだろう、ガイア様の事を言ったら途端に不機嫌な顔になっていますよ。
ここは話を変えた方が良さそうです。
「あ、グロウ様、この神域に設置したい物があるのですが、持ってきてもよろしいですか?」
「なんじゃ、わらわへの贈り物か? よいぞ、持ってまいれ」
私はグロウ様の了解を得たので、一度神域から出るとそこで待っていたガイア様に声をかけた。
「ガイア様、グロウ様が正気に戻りました」
「おお、流石はアリソンだな」
「お褒め頂き、ありがとうございます。そこでグロウ様の神域に置くように言われた水晶を出してもらえますか」
「おお、そうであったな」
そしてガイア様から受け取った水晶を持って、再びグロウ様の神域に入って行った。
グロウ様は私が手に持って水晶を見て、眉間に皺が寄った。
「なんじゃ、リレークリスタルではないか」
「これの事ですか?」
私がガイア様から預かっている水晶を掲げると、グロウ様が頷いた。
「そうじゃ」
「これは何に使うのですか?」
「これは神域間を繋ぐ道具じゃ」
え、ガイア様とグロウ様の神域を繋ぐのですか?
「繋げて、どうするのですか?」
私の質問に何故かグロウ様が嫌そうな顔をしていた。
「そなたが、わらわの神域からガイアの神域に転移することができるのじゃ」
「え、そんな便利な道具だったのですか?」
私が帰り道が楽になったと喜んでいると、何やら考え込んでいたグロウ様に名前を呼ばれた。
「アリソン・リドル」
「はい、なんでしょうか?」
グロウ様に思わず返事をしていた。
「では、アリーちゃんだな」
「え?」
「ガイアのお守など止めて、わらわの世話をするのじゃ」
「え?」
「良いであろう?」
グロウ様はそう言いながら両手を伸ばしてくると、私の頬を押さえて首を横に振れないようにしていた。
物理的に首を横に触れない状態なので、私が否とは言わないとでも思っているのでしょうか?
「すみません。私にはカルテアに行く途中なのです」
「そう言えばそんな事をいっておったな。すると次はモステラかバキラに行くのか」
「はい、モステラに行く予定です」
「モステラ・・・するとモーフのところじゃな」
そう言ってじっと私の顔を見ていたグロウ様は、何か良い事を思いついたような顔になった。




