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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第2章 ユッカ
31/61

31 立ちふさがるもの

 

 調査隊長のミドルは、過去の文献にあった記述と同じである黒く変色した場所を見つけると、内心の喜びが声になった。


「おお、まさしくここで間違いない。我々はこの場所で発掘作業を行う。ファシュ将軍は、周辺の警戒を頼みましたぞ」


 ミドルは将軍の返事を待たずに持って来た荷物を開けると、瘴気を浄化する効果を持つ浄化の大葉を取り出すと、それを布で包んで自分の口と鼻を覆った。


 準備が整ったミドルは、黒く変色した地面の中に足を踏み入れた。


 その地面は柔らかく片足に体重をかけるとくるぶしあたりまで沈み込んだ。


 ミドルはそれを気にすることも無く歩いて行くと、文献にあった地面が割れている場所を探していった。


 そして有望そうな場所を見つけ、スコップに似た道具をその地面に突きたてると、力いっぱい掘り起こした。


 すると真っ黒な土と一緒に内部に留まっていた瘴気も表に出てきたが、浄化の大葉がそれを吸い込むのを防いでくれた。


 ミドルは宝を見つけるため、更に奥深くまで穴を広げていった。


 それは他の調査隊のメンバーも同じで、瞬く間に周囲には瘴気が漂い出した。


 彼らの誤算は、普段であれば噴出した瘴気は大気中に拡散されるので大した影響はないのだが、今は結界ドームの中だった事だ。


 次第に濃さが増す瘴気の中に、最初に倒れたのは浄化の大葉を使っていない護衛隊兵士達だった。


 +++++


 ファシュの元にバリアンテが大慌てでやって来た。


「将軍大変です。兵達が何人も倒れています」

「魔物の攻撃か?」

「いえ、結界を抜けてきた魔物はおりません」

「では、何だ?」


 ファシュが周囲を見ると結界に沿って防御陣形を組む兵士達はあちこちで倒れている者が出ているが、中央で作業している調査隊はそんな素振りも無く黙々と作業を続けていた。


 兵士達だけに異常が起きている事に違和感を覚えると、そこでやっと調査隊が皆口と鼻を布で覆っているのに気が付いた。


「バリアンテ、兵達に布で口と鼻を押さえろと命じるんだ」

「は、はい、分かりました」

「俺は調査隊に状況を聞いてくる」


 ファシュは自分も布で口と鼻を塞ぐとミドルの元に急いだ。


「ミドル殿、部下達が倒れ出したんだが、何か心当たりはあるか?」

「いや、普段どおりだぞ?」


 不思議そうに頭を傾げるミドルに、ファシュは質問を変える事にした。


「それでは、口と鼻を塞いでいるのは何故だ?」

「ん、ああ、これは地面から瘴気が出ているからだ」


 一瞬そんな危険があるのに何故それを自分達に言わないのだと、この男にいら立ちを覚えた。


「何故、それを事前に言わないのだ?」

「少し離れていれば大気中に拡散するから問題ないはずだぞ」


 そこで今は魔樹の攻撃を防ぐため結界を張っていて、大気中に拡散する瘴気が結界内に留まっている事に気が付いた。


「今魔樹の攻撃を避けるため結界を張っているのだ。瘴気を出さない方法で調べられないか?」


 するとミドルは、作業の手を休めてこちらを見た。


「そんな方法はない。それよりも調査の邪魔をしないでくれ」


 状況が悪化する中、ファシュは決断を迫られた。


 兵士の状況から今すぐにでも結界を解除し瘴気を拡散して助けなければならないが、そうすると結界を覆っている魔樹から一斉攻撃を受ける事になり、瘴気を吸って弱っている兵士では撃退出来ないだろう。


「ミドル殿、兵士が瘴気に触れて大変な状況です。調査を一時止めてもらえませんか」

「駄目だ。兵士の体調管理はそちらの責任だろう。我々には関係ない」

「しかし、このままでは調査が終わってもここから脱出できませんよ」

「それを何とかするのが将軍の任務じゃないのか?」


 ミドルの物言いにカチンときたが、ファシュは声を荒げる事はしなかった。


 ミドルはミドルで、王家から遷都のための費用捻出の特命を受けていて、その任務達成に必死なのだろう。


 ファシュに出来る事は、兵達が瘴気を吸い込まないように調査現場から出来るだけ距離を取り、瘴気を吸い込まないように布で口と鼻を塞ぐくらいだった。


 後は、取り返しがつかなくなる前に、査隊が目的を達成するのを期待するしかなかった。


 +++++


 私とガイア様は、エルフ族のブライヤール、ミストラルそれにキニャールの3人に案内されて禁忌の地に向かっていた。


 この3人は私の護衛も兼ねているそうだが、どうみても監視なのではないかと疑っていた。


 それというのも魔樹が襲って来ると、いつも私が神力弾で撃退するのをじっと待っているからだ。


 そして小声で「今の見えたか?」と言っているのが聞こえてきた。


 そこで疑問に思った私は、ガイア様に尋ねてみる事にした。


「ガイア様、この神力弾は魔物にも見えないのでしょうか?」

「神力は神眼でしか見えないぞ」

「そうですか」


 つまり、魔物にも見えないから簡単に退治できるという事ですね。


 そこで1つ重大な疑問が湧き上がった。


「でも、ガイア様のお姿はエルフ達にも見えていますよね?」

「これは人間達の世界で活動するための分身体だからな。見えて当然だろう」


 ガイア様からしたら分かって当然なのかもしれませんが、こちらは説明も受けていないのに分かって当然だろうという態度で話すのは止めて欲しいです。


 そのせいで王都をブレスで襲ってしまいユッカ王国とはとんでもない問題が生じているのですよ。


 ガイア様とそんな事を話していると、先頭を進んでいたブライヤールがこちらに掌を見せて止まれと合図してきた。


 前方で何が起こっているのかとブライヤールの姿を見て推測しようとすると、彼女の長い耳がぴくぴくと動いていた。


 そこで私もそっと耳をそばだててみると、前方から微かに戦闘の喧噪のようなものが聞こえてきた。


 3人のエルフが何やら相談してからこちらにやって来た。


「アリソン殿、どうやら目的地の禁忌の地で戦闘が起こっているようだ。私達は不要な戦闘に巻き込まれないように大きく迂回しようと思います。それでも戦闘に巻き込まれる危険がある事だけは、承知しておいてください」


 まあ、今までも結構な頻度で魔樹と戦ったので今更という感じだけど、こちらから態々戦闘に巻き込まれに行くのも馬鹿らしいので、それは了承しておきましょう。


「分かりました」


 でも、戦闘が行われているのが目的地で、神力だまりがあるかどうか確かめられないという状況は困るわね。


 案内役のブライヤールは、それまで進んでいた方向をやや左側に変えていた。


 やがて聞こえていた戦闘の喧噪が次第に小さくなると、心なしかブライヤールも慎重な足取りから軽やかなものに変っていった。


 そして密林の枝と下草に格闘しながら進んで行くと、突然開けた場所に出ていた。


 その地には人々の方向感覚を惑わす高い樹木も無く、背の低い下草だけの開けた広場になっていた。


 なんだか嫌な予感がしたのは私だけではなかったようで、エルフ達も足を止めていた。


「ブライヤールさん、ここは何ですか?」

「禁忌の地の端の方です」


 その言葉を聞いて期待を込めて神力だまりを探してみたが、それらしきものは無かった。


 やっぱり端の方にある筈はないわよね。


 少しがっかりしたところで、エルフ達から緊急を伝える声が聞こえてきた。


 すると下草の中から複数の樹木が盛り上がってくると、それが直ぐに魔樹に変化していった。


 その魔樹は密林の中で襲ってきた魔樹とは違い大きさはこちらよりも小さかったが、集団で、しかも統率の取れた動きでこちらを包囲殲滅するかのように半円形に展開してきた。


 魔樹は、腰の周りが大きな葉が覆いその下に根が張っていた。


 そして胴体部分には腕の部分から伸びる2本の枝に先端がゆりの蕾のような物がついていて、頭の部分には固いひまわりのつぼみのようなものが付いていた。


「あれも魔樹なの?」

「アルラウネと呼ばれる魔樹ですね。気を付けて、あれは多彩な攻撃手段を持っているわ」


 私の疑問にブライヤールが答えてくれた。


 こちらを半包囲してきたアルラウネ達は、魔樹とは思えない速さでこちらに接近してきた。


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