29 調査隊
翌朝、私が起きると、ミストラルとキニャールが朝食の用意をするためやって来た。
「失礼します。直ぐに食事の用意をしますね」
てきぱきと動くエルフ達によって、テーブルと椅子が運び込まれると、食事の用意が進められていった。
テーブルの上の食器の数から、この2人も私と一緒に食事をするらしい。
「お待たせしました。それでは頂きましょうか」
テーブルの上には、キノコと根菜がほんの少しだけ入った透明なスープと一切れの木の実があった。
私が提供された料理を見ていると、配膳したキニャールが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「森がこんな状態になってしまったので、森の恵みも随分減ってしまったんです」
それを聞いて私は慌てて首を振った。
「いえ、別に他意はないのです。それにこれは貴重な食料なのでしょう?」
私が逆に心配そうにそう言うと、少しだけ希望を込めた目でキニャールが見つめてきた。
「おばばが言っていました。リドル一族が神獣様のお世話をすれば、森の恵みが戻ってくると」
どうやらキニャールさんは、神獣様の事を信じてくれるようだ。
「私も森の恵みが戻る事を願っております」
私の返事を聞いた2人のエルフの顔にも希望が現れた。
その顔を見て、私もグロウ様のお世話をしっかりやろうと改めて決意した。
食事を終え後片付けをした2人が下がった後、今度はブライヤールが現れた。
「おばばから禁忌の地への道案内を命じられました。準備はよろしいですか?」
「はい、何時でも良いですよ」
「それでは、参りましょう」
そして部屋から出ると、そこでミストラルとキニャールが待っていた。
「私達も、道案内に同行します」
「よろしくお願いします」
私は2人に笑顔を向けた。
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第1師団のファシュはボーカン団長からエルフ達が禁忌の地と呼ぶ場所に調査隊を送る事を知らされた。
そしてその調査隊の護衛任務を命じられたのだ。
「ファシュよ、この任務はユッカ王家の存続に関わる重要な任務だ。しっかりと任務を遂行してほしい」
ファシュは団長の真剣な顔を見て、そこまで追い詰められていたのかと改めて危機感を持った。
そして紹介された調査隊の隊長はブノワ・ミドルと言い、ユッカ王家から直々に今回の任務を命じられた事をことさら自慢する高圧的な男だった。
「ふむ将軍、道中の安全確保と目的地での護衛をよろしくたのむ」
その威圧的な態度にファシュは団長の顔を見たが、団長は首を横に振っていた。
「ファシュ将軍、ミドル殿が調査に集中できるように護衛をするのだ」
「・・・はい、分かりました」
ファシュは、調査隊を護衛して最初に向かったのはセゴンザの町だった。
この町は王都と禁忌の地の間にあり、王都との間でも頻繁に道路整備をしていたので、比較的行きやすい場所なのだ。
それでも調査隊への魔樹の襲撃は頻発し、その度に調査隊を護衛して魔樹を撃退する行動を取っていたので、セゴンザの町に到着した頃には兵士達の疲労も頂点に達していた。
セゴンザに到着したところで副官のバリアンテが声をかけてきた。
「ファシュ将軍、しばらくこの町で英気を養った方がよろしいのでは?」
「そうだな。調査隊に連絡しておこう。バリアンテは休憩がてら消耗品や食糧の調達も頼む」
ファシュは部下に補給と休養を指示すると、その足でこの町を守備する第2師団への挨拶に出かけた。
第2師団の宿舎に入ると直ぐに応接に案内され、第2師団隊長のジェレミー・ソレルがやって来た。
「ファシュ将軍、久しぶりですな」
「ああ、そうだな。ソレル将軍」
そして久々の再開に昔話に花を咲かせてから本題に移った。
「それでファシュ将軍、あの調査団は何なのですか?」
セゴンザに到着するやいなや、調査隊のミドルは王家の名の元に物資の供出やサービスの提供を当たり前のように求めるので、住民や第2師団との間でトラブルが発生しているとソレル将軍が苦々しい顔で伝えてきたのだ。
「すまないな。調査隊は王都遷都のための資金を確保するため、エルフ達が禁忌の地と呼ぶ場所で実地調査をするのだ」
それを聞いたソレルが驚きで目を見開いた。
「遷都、ですか? また急にどうして?」
「先日、王都がドラゴンブレスで攻撃されたのだ。その痕跡はアンスリウムとの国境付近から伸びていてな。なんとか結界で防いだが、もっと近場から撃たれていたら王都も危なかったのだ」
「そんな事が・・・それで遷都に必要な費用を捻出するため禁忌の地にて宝探しをするのですね」
「ああ、だが、ここまで来るにも相当苦労したからな。あの場所まで行って魔樹と戦いながら調査するのは相当厳しそうだ」
ファシュが今後の任務遂行が困難だろうと弱音を吐くと、ソレルはそれに同意するように頷いた。
「確かに困難な任務ですね。こちらでも応援を出せれば良いのですが」
そう言ったソレルの顔は本当に残念そうだった。
ソレルの顔を見れば、王都同様この町も魔樹から守るのがやっとなのは予想出来た。
「ソレル将軍に支援を要請するつもりはないから安心してくれ」
「でも、そちらも厳しいのでしょう?」
「まあ、何とかしてみせるさ」
ファシュはそう言ってみたが、厳しいのは事実だった。
「あ、そうだ。ちょっと待ってください」
ソレルは部屋から出て行くと、しばらくして何か手に持って戻って来た。
そしてそれをテーブルの上にそっと置いた。
「結界装置に携帯型のものがあるのを知っていますか?」
突然そんな事を言われたが、ファシュは初めて聞く話だった。
「いや、知らないが、まさか」
ファシュがテーブルの上の置いてあるものを見て、これがその携帯型なのかと察すると、ソレルは頷きながら小声になった。
「実はこれ、万が一セゴンザの町の防衛が厳しくなった時の奥の手なのです」
「だがそんな貴重な物、おいそれとは使えないだろう?」
「ですが、今回は王都の危機なのでしょう? 王都が落ちたら王国は滅んでしまいます」
ソレルの顔は真剣だった。
その顔には国を守る兵士としての覚悟がうかがえた。
「分かった。助かるよ」
ソレルは携帯型結界装置だという細長い形をしたマジック・アイテムの使い方を教えてくれた。
そこでファシュは、こんな小さなマジック・アイテムがどのくらいの能力があるのか尋ねてみた。
「この携帯型はどの範囲まで結界を張れるのだ?」
「ああ、調査隊の活動は余裕で行えるでしょうね」
そう言ってソレルはマジック・アイテムの表面をスライドすると、そこには黒く輝く石が入っていた。
「この石は?」
「これが結界を発動するためのエネルギー源です」
「これは魔石なのか?」
ファシュがそう尋ねると、ソレルはにやりと笑みを浮かべた。
「いえ、疑神石というそうです」
「魔石とは違うのか?」
聞いたことが無い石だったので思わずそう聞き返した。
するとソレルは、重々しく頷いた。
「魔石なんかと比べてもエネルギー密度が高く、とんでもなく高性能なんだそうです。王都の結界もこの石が無いと実現出来なかったそうですよ」
「成程、それで秘密にされているのか」
「ええ、ここにあるのも私しか知らされておりません」
「分かった。ありがたく使わせてもらうよ」
「ええ、任務成功を祈っております」
調査隊は、セゴンザの町で物資を補給し、英気を養うと禁忌の地に向けて出発した。
禁忌の地までは道も無い密林なので、邪魔な枝を切り、下草を踏みつけて道を作りながら進む事になった。
その間も魔樹の攻撃があるので、行軍は遅々として進まなかった。
「将軍、このままだと何時になったら目的地に着けるか分かりませんね」
バリアンテに指摘されるまでもなく、同じことをファシュも考えていた。
仕方がない、次に攻撃されたら結界のマジック・アイテムを使ってみるか。
そして次に攻撃された時、マジック・アイテムを発動させた。
結界の効果は絶大で外から魔樹からの攻撃は全て防いでくれていたが、1つだけ難点があった。
それは結界内に入った樹木が突然魔樹化して襲ってきたのだ。
何とか倒す事が出来たが、結界と魔樹の関係に少しだけ疑念が湧いた瞬間だった。
そして日が傾いてきた頃、ファシュは行軍を止めた。




