28 認めたくない事実
部屋に乱入してきたエルフを全員倒すと、今度は外の敵に対処するため外に出た。
そこではミストラルとキニャールが横たわり、その周りを男エルフが取り囲んでいた。
あの2人が危ないわね。
私は2人を取り囲むエルフに向けて神力弾を撃ち込んでいくと、目に見えない攻撃を受けたエルフ達はとたんに大混乱になった。
混乱した敵は倒すのが簡単だ。
直ぐに全員を制圧すると、地面に倒れている2人に声をかけた。
「ミストラルさん、キニャールさん、大丈夫ですか?」
「え、ええ、私達は大丈夫よ。それにしても貴女の攻撃は、何度見てもやっぱり見えないわね」
自身が拙い事態に陥っていたというのに、この2人は私の攻撃を観戦する余裕があったのね。
「仲間割れですか?」
「いえ、外の様子がおかしかったので確かめに出たら、突然ルーセルが貴女を殺害すると言い出して、何とか止めようとしたのですがこの有様です」
そういうと顔や服についた土を払っていた。
周囲の木々を神眼で見ると、まだそこかしこに赤い輝点が現れていた。
「今は、私の仲間と思われないように、木陰にでも隠れていた方がよさそうよ」
「え、まだ、そんな連中が?」
そう言った途端、木陰から矢が飛んできて地面に突き刺さった。
矢が飛んできた方向にはうっそうと茂る木々があるだけで、敵エルフは完全に自然の中に溶け込んでいた。
これがエルフの戦い方なのね。
だけど、こちらには神眼があるので丸見えだった。
私は赤い輝点に向けて神力弾を撃ち込んでいくと、苦悶の叫びをあげて次々と枝からエルフが落ちていた。
「アリソンよ、私も手伝おうか?」
どう見てもやる気満々のガイア様が手伝ったら、絶対死人が出てしまいそうなので頼めません。
だけど、威嚇にはなるかしら?
「これ以上敵対するなら、この里もろとも吹き飛ばすわよ」
私は周りの人々に聞こえるように声を張り上げると、敵の攻撃がぴたりと止まった。
まるで、極悪人の脅し文句だったわねと、思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
誰かの短慮で再び戦闘が始まるだろうという緊迫した空気の中、その声が酷く響いた。
「この馬鹿者共、このバカ騒ぎを直ぐにやめんか」
声がした方を見ると、そこには杖を手に持った老エルフとその隣でそれを支えるブライヤールの姿があった。
「おばば、しかし」
「黙らっしゃい。里を壊すつもりなら追放してやろうか」
「おばば、待ってくれ」
どうやらあの老エルフが、ブライヤールが言っていたおばばで間違いなさそうだ。
私はゴーグルを外して老エルフに軽く会釈をした。
だが、老エルフは私の顔を見ると眉毛に下に隠れていた目が大きく見開かれると、カタンと音を立てて持っていた杖が落ちた事も気付かずこちらを指さした。
「その赤い瞳、ま、まさか、おぬしリドル一族か?」
おや、エルフに里にもまだリドル一族を知っている人物が居たのね。
私はちょっと得意げな表情で笑みを浮かべると、老エルフに頷いて見せた。
「ええ、そうよ」
すると、どこかからか大きな声が聞こえてきた。
「おばば、この人間がどうかしたのか?」
「その声はルーセルだな。このバカ騒ぎを始めたのはお前か?」
「お、俺は、里の平穏を守るため、この侵入者を排除しようとしただけだ」
ルーセルと言われた男がちょっとふてくされた口調でそう言うと、途端におばばから雷が落ちた。
「馬鹿者、お前達には、繰り返しこの世界の環境を整えて下さる神獣様とそのお世話をするリドル一族の事を話してきただろう。直ぐに忘れおって」
「え、それっておばばの世迷言じゃあ?」
「馬鹿な事を申すな。すまぬリドルの方、歓迎させてもらいますぞ」
エルフの里で突然始まった戦闘は、エルフ達がおばばと呼ぶ人物が現れたことであっけなく停戦となった。
おばばは戦闘を始めたエルフ達を大声で叱責すると、私とガイア様を自分の部屋に迎え入れてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたお茶に対するお礼を言ってから一口頂くと、目の前のおばばが話しかけてきた。
「まずはすまんかったのう。まさかこの馬鹿が、儂の許可も無く客人を襲う暴挙にでるとは思わなかったのじゃ」
そしておばばは給仕を睨みつけ、その視線を受けたエルフは肩を落として小さくなっていた。
「アルチュセール様、申し訳ございませんでした。ですが、ブライヤールが森の異変を連れてきたと言ったので里が危険だと思って」
「里で戦闘になっていない時点で、相手は戦う意思はないと何で分からんのじゃ」
「ひっ、すみません」
「もうよい、下がっておれ」
叱責された給仕が部屋から出て行くと、アルチュセールと呼ばれたおばばは気を張っていたのか、膝をついてせき込みだした。
その姿を見て体調を気遣った。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫じゃ」
そうは言っても顔色が悪かったので、私は神官の仕事をすることにした。
効果を高めるため神眼を開き、治癒魔法を掛けた。
「おおお、なんだか体が軽くなった。ありがとう」
「こう見えて私も表向きは神官ですので、自分の本分を全うしただけです。気にされる必要はありませんよ」
「そう言われると、こちらもそれ相応の見返りを渡さなければならなくなるのう」
そしてこちらを見たおばばが目を見開いた。
「む、その顔、見覚えがあるぞ。もしやお主リンジー・リドルだったのか」
え、この人私のお母さんを知っている?
「私はアリソン・リドルです。リンジー・リドルは私の母です」
「なんと、そうであったか。それで里に来た理由はなんじゃ?」
お母さんの事も聞きたいけど、此処に来た目的が先よね。
「貴方達が禁忌の地と呼ぶ場所への、立ち入りの許可と道案内をお願いしたいのです」
私がそう言うと、おばばは私の顔をじっと見つめてきた。
「まさか、親子で禁忌の地に入りたいというとはのう」
「え、お母さんも禁忌の地に立ち入ったのですか?」
「ああ、そうじゃ」
お母さんが行ったのなら、禁忌の地にグロウ様の神域がある可能性が高くなったわね。
するとお母さんは、大神官を神域まで案内したという事?
でも、神眼を持っていない者に神域は見えないはず。
「お母さん、いえ、リンジー・リドルにベネディクト・アシュベリーという同伴者は居ましたか?」
「いや、1人じゃったが、連れが居るとは言っていたな」
やっぱり、お母さんが大神官のカルテア巡行に協力していたのは間違いなさそうね。
そしてその結果が、リドル一族の根絶だったなんて。
私は母親が裏切った事に泣きたくなったが、じっとこらえた。
「そうですか。ところで私達に禁忌の地への立ち入りを許可して頂けませんか?」
するとまた私の顔を見つめてきた。
「リドル一族は、神獣様のお世話をするのが務めなのだろう?」
このエルフは神獣様の事を知っているのだったわね。
「はい」
「其方に行動の自由を許可すると、ユッカの環境は改善するのか?」
どうだろう?
ガイア様はグロウ様が正気を失っているといっているし、実際にグロウ様の様子を見てみないと治せるかどうか分からないわよね。
「やってみなければ分かりませんが、グロウ様の体調を整える事ができたら可能だと思います」
「グロウ様とは、この地の神獣様の名前なのか?」
「はい、そうです」
おばばと呼ばれているエルフは何やら考え込んでいたが、何か悟ったのかこちらを見つめて来る顔には期待が浮かんでいた。
「禁忌の地への立ち入りを認めよう」
「ありがとうございます」
私が礼を言うと、おばばは手をぱんぱんと叩いた。
すると先ほどの給仕が顔を出した。
「御用でしょうか?」
「ロカンクール、こちらのお客様を客間に案内して、食事と宿泊の手配をするのじゃ」
「はい、分かりました。では、私の後に付いてきてください」
ロカンクールと呼ばれた給仕係は、何の感情も無い顔で一礼するとそう言ってきた。
「それでは一晩お世話になります」
「明日は、禁忌の地までの案内役としてブラヤール達を付けよう。気を付けていってくるんじゃぞ」
「ありがとうございます」
ロカンクールと呼ばれた給仕係に部屋に案内してもらうと、それ以降部屋に来る者はいなかった。
「ガイア様」
「ああ、私が見張っているからアリソンは休んで良いぞ」
「ありがとうございます」
そして私は、ユッカに入ってから初めてちゃんとした部屋で眠る事が出来た。
次回更新は9月29日になる予定です。




