25 遭遇戦
「ガイア様、この壁の向こう側に空間があるのですか?」
「ああ、あるな」
「では、調べてみましょうか?」
「そうだな」
するとガイア様は前足で壁に突くと、ガラガラと岩壁が崩壊して、その先に空間が現れた。
その空間は、自然にできた洞窟というよりも、何かが地中を進んだ跡のように見えた。
「ガイア様、ひょっとして何か危険なモノが居たりしませんか?」
「はっはっはっ、アリソンは臆病だなあ。仮に出たとしても、何とか出来るから問題無いぞ」
いや、ガイア様が戦ったら周辺に大きな被害が出て大騒ぎになりそうだから、それを心配しているだけなのですが、それは指摘しないでおきましょう。
私達が更に進んで行くと、今度は人工的な石壁が現れた。
「ガイア様、疑神石はこの先にあるのですか?」
「ああ、この先だ」
そしてガイア様が石壁を破壊すると、そこは人工的に造られた地下室だった。
部屋の中は左右の壁に沿って人工の装置のようなものがあり、稼働中のようでなにやら音が聞こえてきた。
それを見たガイア様が立ち止まった。
「やはりか」
「この装置が何か?」
「この中に疑神石が入っているな」
目の前の装置は、大きな箱型をしていた。
「これが何か分かりますか?」
「ふむ、これは結界を作り出しているな」
結界といえば、ファシュが王都に結界が張ってあると言っていたわね。
すると、これがその結界を発生させている装置なのね。
「ガイア様、疑神石を使うと神獣様の力が衰えて環境が悪化するのですよね」
「そうだ」
「環境が悪化して魔物が増えて、それを防ぐため疑神石を使って結界を張ったらどうなるのでしょうか?」
「グロウの奴が更に弱って、より強力な魔物を生み出すのではないか?」
「それでは堂々巡りではないですか」
「そうだな。どこかで止めなければならないと思うぞ」
私は稼働している装置を見つめた。
ここで装置を破壊して疑神石を取り出したら、結界を失ったバシュラールの人々が悲惨な目に遭いそうね。
「疑神石は直ぐ壊さないと駄目でしょうか?」
私が装置を指さしてそう尋ねると、ガイア様は首を横に振った。
「いや、先にグロウを正気に戻さないと、どんな展開になるか予測が付かないぞ」
私がガイア様の指摘に少しホッとすると、どうやってグロウ様の神域を探すか考えた。
「グロウ様の神域をバシュラールの町で探すには、私がお尋ね者にされてしまったので難しそうです」
「では、どうするのだ?」
「まずはバシュラールの外に出ましょう。それからどうするか考えませんか?」
「分かった」
私達は来た道を引き返し、ガイア様がブレスで作った穴に戻って来た。
そして地上に出るためその穴を進んで行ったが、何処まで行っても景色が岩や土だらけて、その退屈な景色に次第に瞼が重たくなってきた。
そして半分眠った脳みその中に、ふっとガイア様が地上で撃ったブレスがバシュラールまで達していた事を思い出した。
「あのぉ、ガイア様。ひょっとしてなのですが、このまま進んで行ったらアンスリウムに戻ったりしませんよね?」
「はっはっはっ、何を馬鹿な事を言っているのだ? ちゃんと手加減したからその中間くらいまでだと思うぞ」
うん、アンスリウムの端からバシュラールまでの中間?
「ガイア様、行き過ぎです。ここら辺で地上に戻りましょう」
「分かった」
長く暗い穴の中から光り輝く地上に戻って来ると、なんだか解放されたような気分になった。
「うぅん、やっぱり地上の方が気分が良いですね」
「私にはそのような感覚は無いが、アリソンが嬉しいならそれでよいだろう」
ここは何処だろうと周囲を見回したが、見えるのはうっそうと茂る樹木だけだった。
私は上空に向けて鷹の目を放り投げた。
鷹の目で見えたバシュラールは、ここからかなり離れた場所にあった。
ここまで離れたら追っ手に会うことはなさそうだが、バシュラールに戻るは密林の中をかなりの距離戻らなければならなかった。
さて、どうしましょうか?
もう諦めてガイア様にモステラまで道を作ってもらい、カルテアに向けて先に進むというのも選択肢の一つかも。
そして再び鷹の目を飛ばして海岸線が何処にあるのか確かめていると、近くに自分達を監視する者達の気配を感じた。
バシュラールからの追っ手としては、ちょっと早すぎませんか?
「ガイア様、何者かに見張られています」
私はガイア様に状況を伝えるとともに、神官服に魔力を通し防御力を上げた。
そして監視者の興味の対象が私達かどうか確かめるため、気付かないふりをしてその場から離れてみた。
だが、残念ながら監視者は私達の後を追ってきていた。
そこで立ち止まると、追いかけてきた者も木陰に隠れた。
「何者なの? そこにいるのは分かっているのですよ」
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ブライヤール達は、おばばの命令で異変があったという場所に向かっていた。
すると緑一色になっている森に、黒い筋が左右に延びた場所があった。
あれが、おばばが言っていた異変ってやつね。
ブライヤールは2人に合図を送り、その痕跡に着地した。
そこは火の玉が通ったかのように木々は炭化し、地面も焼け焦げていた。
「ブライヤール様、これってドラゴンブレスの跡に見えます」
ブライヤールもドラゴンブレス以外で、これだけの被害を森に与える攻撃を思いつかなかった。
問題はドラゴンが何を攻撃したかだ。
「ミストラルは右、キニャールは左に行って、この痕跡の先を確かめて来るのだ。急げ」
「「はい」」
ブライヤールは痕跡の大きさを見て、とても危険な相手だと判断した。
ブレスの痕跡の両端を見に行った2人が戻って来ると、早速見た物を報告してきた。
「ブライヤール様、痕跡は遥か先アンスリウムとの境の方まで続いていました」
「ブライヤール様、人間共の街バシュラールまで続いているように見えました」
するとドラゴンを怒らたのは人間共か。
まったく、学習しない連中だな。
森の悪意だけでも厄介なのにドラゴンまで怒らせたとなると、ユッカの地にどれだけの被害をもたらすだろう。
これが、おばば様が言っていた異変という事ね。
急いで報告に戻ろうとしたところで、突然ブライヤールの感覚がおかしくなるほどの威圧を感じた。
突然現れたそれに自分の感覚がおかしくなったのかと一瞬疑ったが、ミストラルやキニャールも同じような感覚を感じているようなので間違いはなさそうだ。
「ブライヤール様、このぞくっとする強烈な圧迫は何でしょうか?」
「しかも突然現れました」
これは絶対に確かめなければならないわね。
「ミストラル、キニャール、ついてきなさい」
「「はいっ」」
ブライヤールは魔樹に注意しながら、木々の間をすり抜け、枝から枝に飛び移りながら異変があった場所に急いだ。
そして見つけたのは変な馬に乗ったローブ姿の人物だった。
魔樹がうようよいる危険な森にたった1人で行動しているなんて、頭がおかしいか魔樹が人間に化けているとしか思えなかった。
「ブライヤール様、アレで間違いなさそうです」
「それにしても1人でこんな危険な場所にいるなんて、自殺志願者なのでしょうか?」
「2人とも気を付けなさい。魔樹には幼女に化けるやつもいるのよ。見た目に騙されては駄目よ」
「「はい」」
じっと観察していると、頭を振った時にフードで隠されていた顔が見えた。
「赤い瞳が見えたわ」
ブライヤールがそう言うと、2人が緊張するのが分かった。
人間に化ける魔樹は、ほぼ間違いなく赤い瞳をしているのだ。
「魔樹で間違いなさそうね。仕留めるわよ」
ブライヤールは背中の矢筒から矢を取り出すと、魔力を込めて魔法の矢に変えてから弦を引き絞った。
狙いを付けた魔樹は危険を感じたのか立ち止まって振り返った。
そして何か声を発したようだったが、放たれた魔法の矢は馬上の標的に向けて吸い込まれていった。
ブライヤールが仕留めたと思った瞬間、魔法の矢は何かに弾かれた。
何が、起きたの?
ブライヤールは自分の目がおかしくなったのかと他の2人を見たが、2人とも同じように狐に抓まれたような顔で首を横に振ってきた。
まさかバシュラールの人間達が町に結界を張るように、魔樹にも結界が張れる進化個体が現れたのだろうか?
結界が本当だとして、それがどんな性能なのか調べてみる必要があるわね。
ブライヤールは直ぐにミストラルとキニャールに標的に向けて同時に矢を放つように合図を送ると、自身も次の矢を放つため矢筒から矢を取り出した。
そしてブライヤール達が放った3本の魔法の矢も、不思議なことに何もない空間に弾かれていた。
3人は少し離れた位置にいるので、あの個体は自分の周り全てに結界を張れるとみて間違いないなさそうね。
それならと飽和攻撃をするまでと再び攻撃をしようと構えたブライヤールは、突然何か目に見えないモノに激突され足場にしていた木の枝から弾き飛ばされた。
自身が地面に向けて落下していくなか、ミストラルとキニャールも同じように落下していくのを目の隅に捕らえていた。
そして地面に激突した強烈な痛みで意識を失った。




