23 疑念
ガイア様が作ったブレス痕をバシュラールに向けて進んで行くと、突然森の中から1人の男が出てきて目の前に立ちふさがった。
「止まれ、お前は一体何者だ?」
え~と、何者だと聞かれましても、貴方は誰なの?
まあ、そんな不毛な言い合いをしても仕方が無いわね。
私は自分が着ている神官服を指さした。
「この服を見て分かりませんか? 私はアマハヴァーラ教の神官です。そして神聖なる巡行中の行く手を塞ぐ無礼者は何者ですか?」
アリソンがそう演技してみると、今度は森の中からわらわらと男達が出てきた。
そして男達の指揮官らしき者が目の前にやって来た。
「私はユッカ王国軍第1師団のセレスタン・ファシュと言います。ところで、神官殿の所属はバシュラールですか?」
「いいえ、アンスリウムの大神殿です」
「え、アンスリウムから此処まで? それで護衛の方達は何処に居るのですか?」
そう言ってファシュと名乗った男は、私の後ろに視線を移していた。
「誰もいませんよ。私は1人でここまで来ました」
「え、たった1人で来たのですか?」
シーモアさんも、ナッシュのパッテン様も護衛を付けてくれなかったけど、やっぱりこれはおかしな事で間違いないようね。
でも、私に答えられるのは1つしかないのだ。
「はい、そうですよ」
案の定というか、やっぱりというか、兵士たちの間で驚きの声が上がった。
「あの、この森は魔樹が出没して非常に危険なのです。兵士である我々も死を覚悟するほどなのですよ。それなのに、失礼ですが、女性がたった1人でアンスリウムからここまで来たと言うのですか?」
はい、はい、見た目からしたら、ただの小娘ですものね。
私も、道中ガイア様が魔樹達を威圧してくれたから攻撃されなかったんだと思っていますよ。
でも、それは絶対に悟られてはいけない事なのです。
「さあ、偶然ではないのですか?」
私がそう言うと、ファシュは眉間に皺を寄せた。
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「あ、失礼しました。私はアマハヴァーラ教大神殿所属のアリソン下級神官です」
ファシュは見下すように下級神官なのかと呟いていた。
「ところで、ここは強烈な魔物による攻撃跡のようですが、そんな魔物に遭遇する危険を冒してでも、この跡を辿って来られたのは何故ですか?」
どうしよう。
バシュラールまでの道のりを歩きやすくするためガイア様がブレスを撃ってくれましたなんて正直に言えるはずもないし、ここはごまかすしかないわよね。
「ええっと、丁度歩きやすかったので使っただけです」
ファシュの顔には疑念が浮かんでいた。
「ほう、これはドラゴンブレスの跡だと思うのですが、ドラゴンが怖くはなかったのですか?」
それを放ったのは此処に居るガイア様の分身体ですと正直に言えればいいのですが、それは絶対に言えないのです。
それに明らかにガイア様のブレスはバシュラールを狙い撃ったように見えるので、それを私達がやりましたなんていったら、王都への攻撃犯として掴まってしまうわね。
「えっと、ドラゴンらしき姿は見かけませんでしたよ」
嘘は言っていない。
だって、ガイア様の分身体はどこからどう見てもゴーレム馬なんだから。
「・・・そうですか。ああ、アリソン殿は王都に行かれるのですよね。私達が神殿までご案内しますよ」
えっと、誤魔化せた?
「ありがとうございます」
ファシュが王都まで送ってくれると言うので、ここで断るとバシュラールに入れなくなる可能性を考え、大人しくその提案を受ける事にした。
そしてガイア様を神黄石に戻すと、再び騎士達の間でどよめきが起こった。
「今、何をしたのですか?」
「え、ゴーレム馬をマジック・アイテムに戻しただけですよ」
周りの人達の表情からは私がとんでもない事をしたと思われたので、これはアンスリウムでは普通の事ですよと思わせるため、平然とした態度でごまかすことにした。
「ほう、アンスリウムは便利な道具が沢山あるとは聞いていましたが、そんな物まであるのですね」
ふう、どうやら大丈夫なようね。
私は誰にも見られないように胸をなでおろした。
やがて目の前に鷹の目で見た街が現れた。
「あれが王都バシュラールです」
城壁は敵の軍勢や人に害意あるものから守る盾のような物のはずなのに、バシュラールのそれはあちこちにほころびや崩れが目立っていた。
「防衛面で問題がありそうな壁ですね」
「ああ、王都は結界で守られているので、問題ありませんよ」
ふうん、そうなんだ。
騎士隊の隊列が止まると、ファシュが私の所にやって来た。
「アリソン殿、馬車で神殿まで送りますので少しお待ちください」
「ええ、ありがとうございます」
やがて城門が開き、そこから馬車が出て来ると私達の前で停車した。
「アリソン殿、どうぞ乗って下さい」
「ありがとうございます」
私はファシュが扉を開けてくれたのでそのまま馬車に乗り込むと、隣にファシュが座り馬車が走り出した。
そして白亜の建物の前に停車した。
その建物は実用的な構造をしていて、神殿にはおなじみの尖塔や礼拝堂らしき場所も見当たらなかった。
「えっと、ここはアマハヴァーラ教の神殿には見えないのですが?」
私がそう尋ねると、案内してくれたファシュはにやりと笑みを浮かべた。
「ああ、ここは騎士団本部です。神殿側との協定で用がある時は必ず先触れを出すことになっているのです。こちらで先触れを出している間、アリソン殿はここでお寛ぎ下さい」
私はその一言にすぐ反論した。
「あの、私はアマハヴァーラ教の神官なので、直接神殿に連れて行ってもらえればいいのですが?」
「まあ、そう言わずに、これもユッカの手続きだと思ってください」
ここで事を荒立てる事も無いかと私は引き下がる事にした。
そして案内された部屋は、装飾品の類は一切ない殺風景な部屋だった。
「アリソン殿、ここで待っていてください」
そしてファシュは扉を閉めると、何故か鍵をかける音が聞こえてきた。
え、どういう事?
私は慌てて扉に駆け寄り取っ手を掴んで動かしてみたが、びくともしなかった。
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ファシュは、ブレスの跡を辿って現れた不審者を宿舎の中で最も堅牢な禁固部屋に閉じ込めると、当番兵を呼んだ。
「禁固部屋に人間に化けた魔樹らしきやつを閉じ込めたから、何があっても扉を開けるんじゃないぞ」
「はい、分かりました」
そして待っていたバリアンテに頷いた。
「バリアンテ、神殿側にアリソン下級神官について照会をかけろ。それから団長へ報告だ」
「はい、分かりました」
騎士団本部の団長室にやってきたファシュとバリアンテは、目の前のロイク・ボーカンと面談していた。
3人の間にあるテーブルには、御用係が用意したお茶が湯気を立てていた。
「それで、その神官の正体は、人間に化けた魔樹だと言うのだな?」
ボーカンの鋭い視線が注がれたが、ファシュはその視線に動じる事は無かった。
「はい、今まで何回かアンスリウムから神官が巡行にやって来ましたが、その大半が森の悪意の犠牲になっています。そんな中、護衛もつけずにあの危険な森をまるで物見遊山でもするかのようにやって来たのです。ドラゴンまで生み出した森の悪意の中を、ですよ。あれは、森の悪意の新たな攻撃に違いありません」
ファシュがそう言うと、すかさずバリアンテが付け足した。
「しかも、その神官は成人したばかりの女子の姿でした。魔樹の中には、アルラウネという幼女の姿をした魔樹も存在するという噂もあります」
現に人間と間違えて近づいた人間が捕食されたという事件も起きていた。
ボーカンはちょっと考えてから、質問してきた。
「その神官はアンスリウムから護衛も付けずに来たのだろう? ひょっとして大神官並みの実力者だったりしないのか?」
「念のため神殿に照会状を出しております。それにそんな高い能力を備えた下級神官が居たら絶対噂になっている筈ですが、アリソンなんて名前聞いた事もありません」
「ふむ、確かに聞いた事はないな」
ボーカンが同意したところで、扉をノックする音が聞こえてきた。
「ファシュ将軍、神殿からの照会状の返信を受け取ってきました」
「おお、入れ」
「はっ」
そして兵士が差し出した書状を受け取って中身を開いた。
そしてにやりと笑みを浮かべた。




