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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第1章 アンスリウム
13/61

13 買い物

 

 ガイア様に出発の挨拶を行った翌日、アリソンはシーモアさんの部屋を訪ねた。


 シーモアさんが座るテーブルの上には、路銀として金貨3枚と銀貨10枚、それと下級神官の法衣が置かれていた。


「貴女がカルテアに行くための支度金と、下級神官の法衣を渡しておきます。それから追加の路銀は道中の教会で用意されるから、必ず立ち寄るように」


 という事は、道中のお金は心配しなくて良いという事ですね。


 この点は助かりますね。


「分かりましたか?」

「はい、分かりました」

「それでは本日までに出発の準備をして、明日早朝皆が起き出す前に大神殿を出るように。他の見習い達への挨拶は不要です」

「はい、分かりました」


 シーモアさんはまるで厄介払いでもするかのように、手をひらひら振っていた。


 アリソンは神官服と路銀を受け取ると、時間が無いので早速旅で必要となる物を買いそろえる事にした。



 最初に向かったのはアマハヴァーラ教徒ご用達の用品店だ。


 ここでは巡礼者用の旅用品も売っているので、今のアリソンには必要な品物が揃う場所なのだ。


 最初に向かったのは道具展だ。


 ここで旅に必要な道具を取りそろえる必要があった。


 野営用の食器や寝袋にもなるローブ、武器や草むらに隠れている見えない危険を探るためにも使える杖、足に優しく足首も保護してくれる編み上げ靴、動きやすい普段着、魔物や虫よけの香炉、水筒などを次々と籠の中に放り込んでいった。


 そして次に向かったのはマジック・アイテムが置かれた奥のコーナーだ。


 アンスリウムとユッカの間には、迷いの森という一歩入ったら方向感覚が狂いほぼ遭難してしまうという深い森があるそうだ。


 そこを無事通過するには、方向を導く道具がどうしても必要だった。


 手に取ったのは召喚用のアイテムで、上空から鷹の目で周囲を俯瞰する事が出来るア優れものだ。


 そしてその先のモステラ地方用で必要かもしれない水中で呼吸できるマジック・アイテム、バキラ地方で必要だろう温度調整が出来るマジック・アイテム等を籠の中に入れて行った。



 そこでふっと視線に気付くと、そこには私の見た目と籠の中の商品を見比べて怪訝そうな顔をする店員の姿があった。


 その目が、貧乏人がそんなに買う金があるのかといっているようだった。


 そしてやっと目的の物をみつけた。


 それは両眼を完全に覆うゴーグルだ。


 その中から瞳の色が相手に見えないものを選んでいると、不思議そうな顔をした買い物客に声をかけられた。


「お嬢さん、ひょっとして他の地方に行くのですか?」


 アリソンが顔を上げると、そこには私の手元のゴーグルを興味深そうに見つめる金髪緑眼の若い男の顔があった。


「ええ、そうですよ」

「僕は隣のクロトン地方から避難してきたのだけれど、あそこでは有害な霧が発生するのでゴーグルは絶対必要なんだよね」


 一瞬聞き流そうかと思ったが、男の顔が無害そうなので補足することにした。


「いえ、私の行き先はそちらではなくユッカですよ」

「へえ、ユッカも有毒な霧が発生するのかい?」

「いえ、備えあれば憂いなしというやつです」

「ああ、成程ね、気を付けてね」

「ええ、ありがとうございます」


 男が手を振って離れて行ったので、私は瞳の色を隠す事が出来るゴーグルを籠の中に放り込むと、じっとこちらを見ている店員の元に向かった。


 買い物かごをテーブルの上に置くと、店員が籠の中身と私の顔を交互に見ていた。


「お嬢さん、随分買うようだけど誰かのお使いかい?」

「いえ、私が使う物です」


 すると店員がうさん臭そうな顔をした。


「子供のくせに冷やかしなら他所へ行くんだな」


 そう言って全く会計をしない店員に、私は私服で買い物に来たのを後悔した。


 嫌だとはいえアマハヴァーラ教の下級神官の神官服を着ていれば、こんな対応はされなかったはずなのだ。


 別の店に行くか、でもせっかく見つけたゴーグルが他の店にもあるかどうか不安だった。


 すると私の隣に気配を感じた。


「おい、この店は見た目で客を選ぶのか?」


 横を見ると、先ほど声をかけてきた若い男だった。


 男の怒声に周囲の客が「この店って客を選ぶの?」とか「貧乏人お断りなの」とかいうささやき声が聞こえて来ると、流石の店員もこのままでは拙いと思ったようだ。


 慌てて籠の中にあった商品の会計を始めた。


「嬢ちゃん、金貨1枚と銀貨3枚だ」


 その金額を聞いた若い男の顔に一瞬不安が浮かんだが、私はシーモアさんから受け取ったエインズワース金貨1枚とムーアクラフト銀貨3枚をテーブルの上に置いた。


 テーブルに置かれたお金を見た店員と若い男が一瞬言葉を失ったが、直ぐに再起動した。


 店員は急いで代金を受け取ると、籠の中に乱雑に入れられた商品を丁寧に畳んで、袋の中に詰めていった。


「ま、まいどあり」


 そう言うと店員は、商品を入れた買い物袋をテーブルの上においた。


 私は商品を受け取ると、手助けしてくれた男に軽く一礼してから店を出た。


「お嬢さん、家まで送るよ」


 振り返ると先ほどの男が笑顔で手招きしていた。


 そして顔を近づけると、そっと囁いた。


「店内で目を付けられたようだ。危険だから送って行くよ」


 そこまで言われてしまうと、無理に断る事も出来なかった。


「ユッカに行くのに保存食はどうするの?」

「ああ、それは一度戻ってからまた買いに行きます」

「ふうん」


 即席の護衛を伴ったアリソンは、途中でトラブルに会う事も無く無事アマハヴァーラ教の大神殿に辿り着いた。


「あの、ここで結構です。お付き合い頂いてありがとうございました」

「へえ、やっぱりアマハヴァーラ教の関係者だったのか。あ、僕はシリル、君は?」


 私はもう会う事も無いだろうに何故名前を聞くのだろうと思ったが、ここまで手間をとらせてしまったという負い目があったので名乗る事にした。


「私はアリソンです」

「うん、良い名前だね。それじゃあ」


 私は大神殿の敷地内に入ると、直ぐに人気のない場所に移動して神眼を発現した。


 そしてブレスレットの黄石に触れゴーレムを呼び出した。


 すると目の前にゴーレム馬が現れた。


 私は買ったばかりの袋からゴーグルを取り出すとゴーレム馬の目の前に座り、そっと買い物袋を差し出した。


「収納お願いね」

「あい、分かった」

「え、ええっ」


 私は突然喋ったゴーレム馬に驚いて尻餅をついた。


「え、何で喋るの?」

「ふむ、最初はただ運搬だけするゴーレムだったのだが、アリソンの神力が大きいからの。話す事も出来るようになったぞ」

「その声はひょっとして、ガイア様なのですか?」

「そうだ。なんだ、元々私の分身なのだから、当然の事だろう?」

「え、ええ、そうですね」


 それを聞いて私はこのゴーレム馬をガイア様と呼ぶことにした。


 +++++


 アリソンを大聖堂まで送り届けたシリル・アルドリットは、調査対象の名前という収穫を得て隠れ家に戻って行った。


 そこでは鑑定魔法が使えるカーリー・ブレナンが待っていた。


「あら公子、お気に入りの調査は終わったのですか?」

「ああ、彼女の名前はアリソン、そしてユッカに行くらしい」

「え、見習いの子ですよね。なんでまたそんな事になったのですか?」

「そこまでは分からないんだが、そこでカーリーにちょっと手を貸してほしいんだ」


 シリルがそう言うと、直ぐにカーリーは何を頼まれたか分かったようだ。


「私にって事は、そのアリソンって子に鑑定魔法を使えって事ですね?」

「そうだ。見習いが他の地方に行くなんて、普通考えられないだろう。という事は、隠された能力でもあるんじゃないかって勘繰りたくなるじゃないか」

「ああ成程、私もなんだか楽しみになって来ました。それで何処に居るのですか?」


 どうやらカーリーも興味を持ってくれたようだ。


「保存食を買いに行くといっていたから、今頃はマルシェだと思う」

「分かりました。それでは案内して頂けますか」

「ああ、任せろ」


 2人は目立たないように暗い色のローブを羽織ると、隠れ家を出て行った。


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