12 旅のお供
アリソンが大神殿に戻って来ると、それを待ち構えていたかのように開いていた扉の前に足を組み壁に寄りかかったロミーが居た。
「アリソン、シーモアさんがお呼びよ。また貴女何かやらかしたのね」
「ちょ、何時も、何時も、私が問題を起こすような発言は止めてくれる」
「あら、事実じゃない。じゃ、ちゃんと伝えたからね。シーモアさんに怒られてきなさいよ」
そう言うとロミーは、私がシーモアさんに怒られている姿を思い描いてニヤニヤしながら出て行った。
まったく、どうして私が呼び出されると必ず怒られると思い込むのよ。
アリソンはお祖母ちゃんからもらったお土産を仕舞うと、シーモアさんの部屋に向かった。
アリソンがコンコンと扉をノックすると、中から返事が返って来た。
「失礼します」
アリソンが中に入ると、シーモアさんがデスクの上で顔を上げた。
「それで?」
それは私がどちらを選んだのかを聞いていると分かったので、直ぐに返事をした。
「はい、カルテアに行きます」
「そう、下級神官への昇進手続きをしておくから、出発の準備をしておくのよ」
「はい、分かりました」
私はシーモアさんに深く頭を下げてから部屋を出ると、その足でガイア様に会うため倉庫に向かった。
いつものように周囲に他人が居ない事を確かめてから神眼を発動すると、ガイア様の神域に入って行った。
そこで私はガイア様に暫くの間不在にすることを話した。
「するとアリソンはカルテアに向かうのだな?」
「はい、引き続きガイア様のお世話をするためアマハヴァーラ教の下級神官見習いになりましたので、どうしても組織の命令には従わなければなりません」
まあ、実際は解雇か巡行かの2択を迫られ、ガイア様のお世話の事を考えたらカルテアに行くという選択肢しか無かったんだけどね。
ガイア様はなんだか困惑した顔をしているように見えた。
「それでガイア様にお伺いしたいのですが、他の地域の神獣様の事を教えて頂けないでしょうか?」
「ふむ、カルテアに行くとなると最初に向かうのはユッカか、あそこはグロウの担当だな。外見はラミアだ。髪の毛を梳いてやればとても喜ぶと思うぞ」
ラミアというと上半身は人間で下半身は蛇という外見ね。
「今のユッカは環境が悪化しているらしいのですが、何かご存じですか?」
私が大神殿内で聞いた情報を尋ねてみると、ガイア様は首を横に振った。
「以前は他の神域と繋がっていたが、今は途絶えている。ユッカやそれ以外の地域も、今どうなっているか分からないな」
「そうですか。それでは他地域の神域がある場所について、何かご存じではありませんか?」
ある程度場所のあたりをつけられたら、探し回る手間を省けるしね。
「大体は中心地あたりにあるはずだな」
中心地というと都がある場所という事よね。
よし、これで大分楽になったわ。
「ところでアリソンは1人で行くのか?」
「はい、同行者について何も知らされておりませんので、多分1人だと思います」
「それは大変そうだ。そうだ、これを授けよう」
そう言うとガイア様は口をがばっと開かると、まるでブレスでも放つかのように口の中に光の玉が出現し、それが収束して小さな光の粒になった。
その光の粒が私の目の前まで移動してくると、光が消え、そこにはガイア様と同じ黄色い石が現れた。
「ガイア様、これは?」
「神黄石だ。其方の腕輪にある窪みに取り付けてみるのだ」
ガイア様はお祖母ちゃんに貰ったブレスレットの窪みを顎で示していた。
言われた通り石を取り付けてみると、それはまるで元からこのブレスレットの装飾の一部だと言わんばかりに、ぴったりと嵌った。
「ガイア様、不思議なくらいぴったりです」
「それはそうだ。その窪みに嵌るように生成したのだからな」
ガイア様のドヤ顔を見ながら、この石が何の意味があるのか聞いてみる事にした。
「それでこの神黄石をどうするのですか?」
「石に触れてみるのだ」
「こう、ですか」
私がブレスレットに取り付けた黄色い石を指先で触れると、石が光り何かが顕現した。
それはゴーレム馬だった。
「ガイア様、これは?」
「私の分身体だ。1人旅だと、荷物持ちが必要だろう」
確かに常に宿に泊まれるとも限らないし、きっと野営の準備も必要よね。
そうすると旅に必要な食料や水それに着替えや眠るための寝具も必要で、当然大荷物になってしまうわ。
「凄いですガイア様、絶対に必要なものでした。ところで、これはどうやって使うのですか?」
「口から物を入れるのだ。試しに何か入れてみると良い」
そう言われたのでアリソンは、ポケットの中にあったシーモアさんから渡された辞令書をゴーレム馬の口に近づけてみた。
するとゴーレム馬はぱくりとそれを食べた。
咀嚼する素振りは無いので本当に収納できたような感じだった。
「え? ガイア様、無くなりました」
「どうだ、便利そうだろう」
確かに荷物持ちが居れば便利だけど、口から入れたとしたら出す時は、まさか、お尻?
ゴーレムだと分かっていても、流石にお尻から物がでてくるのには抵抗がある。
「あ、あのうガイア様、まさかとは思いますが、出す時は?」
「うん、ああ、口から出て来るぞ」
そう言われてほっとした私は、試しにゴーレム馬に辞令書を出してと言ってみると、口が開きそこに辞令書が現れた。
そして私は重要な事を聞いてみた。
「あの、ガイア様、この子、動力とかってどうなっているのですか?」
「ああ、アリソンの神力を吸収するから問題無いぞ」
ガイア様の説明では、この神黄石にガイア様の力が込められていて、私が神眼を開いている時に石に触れると現れるそうだ。
そしてゴーレム馬は顕現している時は、私から神力を吸収し活動するらしい。
リドル一族であるかどうかはこの神眼で判断されるので、この赤い瞳を他の人、特にアマハヴァーラ教の強制懲罰部隊に見られる訳にはいかないので、何か隠す手段が必要だった。
ガイア様は前髪を伸ばせばいいと言っていたが、それだとちょっと不安だった。
その時、大神殿にやって来た巡礼者が持っていたゴーグルを思い出した。
そうだ。あれを使えば、移動中でもこのゴーレム馬を使えるかもしれない。
「ところで、私がカルテアに行っている間、ガイア様のお世話が出来ないのですが、その間、ガイア様はどうしますか?」
「ああ、戻ってくるまで眠るとするか」
うん、ガイア様が眠りについたら、アンスリウムはどうなるのだろう?
「あのう、ガイア様が眠りにつかれたら、アンスリウムはどうなるのでしょうか?」
「そうだなぁ、水が枯れ、大地はひび割れ、何も育たない荒野になるのではないか?」
それって駄目なやつじゃ。
「あのうガイア様、そんな事になったら、気がかりで安心してカルテアに行けないのですが?」
「はは、そう心配するでない。そこまで環境が悪くなるのは随分先の話だぞ。疑神石でも使われない限りはな。アリソンが早く帰ってくるほど、被害は少ないと思うぞ」
疑神石。
お祖母ちゃんに繰り返し教えてもらった石だ。
この石は神獣様からお力を吸い取るのだ。
人間がこの石を使い始めたため、神獣様のお力が衰え世界の環境が危険な状況になったとお祖母ちゃんが話してくれた。
その時、神獣様がこの世に顕現し、こうなった原因が擬神石であることを説き環境を元に戻すため使用を止めさせたんだとか。
疑神石は、その後深い地の底に廃棄されたらしい。
我々リドル一族は神眼を授けてもらい、衰えた神獣様のお力を回復させるお手伝いをすることになったのだ。
「ガイア様、お祖母ちゃんに疑神石という名前は聞いた事があるのですが、見た事が無いのです。見た目で判断できる石なのでしょうか?」
「ああ、そうか、アリソンは見たことが無かったか。擬神石は黒い石で、黒いオーラを放っているから簡単に見分けられるぞ。まあ、もっとも、今では見る事も出来ないと思うがな」
すると今は心配しなくても良いという事なのね。
「そうじゃ、グロウのやつにこれを渡してくれ」
ガイア様は、向こう側が透けて見える透明な球体を渡してきた。
「ガイア様、これは水晶でしょうか?」
「ああ、そうだ。グロウの奴は光物が好きだからな。これをあやつの神域内に置いてくるのだ」
ガイア様が何だか悪い顔になっているので何か裏がありそうだが、それ以上教えてはくれなかった。
まあ、グロウ様に聞けば分かる話だろうと、ここでは問い詰めない事にした。
「分かりました」
私は水晶を受け取ると、そのままゴーレム馬に収納した。
「それでは出来るだけ急いで帰ってきます。待っていてくださいね」
「ふむ、待っておるぞ」




