11 帰省
アリソンはお祖母ちゃんに今後の事を話すため、シーモアさんから1日休暇を貰った。
大聖堂の外に出るとアンスリウムの町を行き交う人々の顔は皆明るく、この町がとても繁栄しているのが分かった。
だがそんな華やかな一面も一歩路地裏に入ると、食うに困った地域から移り住んで生きた人達がスラム街を形成していた。
私のような少女は直ぐに目を付けられて路地裏に引きずり込まれる危険があるが、アマハヴァーラ教の神官服はそれだけで不埒な男達を遠ざける効果があった。
まあ、神官に狼藉を働いた者はアンスリウムから追放されちゃうのだから、当たり前でもあるのよね。
トラブルに巻き込まれる事もなく街中を通り過ぎると、お祖母ちゃんが住んでいる町の外れまで辿り着く事ができた。
この地域はアマハヴァーラ教の信者が多く、私が大聖堂の下働きをしているのを知っているので皆親切にしてくれていた。
「おや、アリソンちゃん、今日は大神殿のお使いかい?」
「いいえ、休みをもらったのでお祖母ちゃんに会いに来たのよ」
そう言って声をかけてきた近所の人達に挨拶しながらお祖母ちゃんが待っている家に入った。
「お祖母ちゃん、ただいま」
私は部屋で繕い物をしていたお祖母ちゃんに声をかけた。
「おや、アリソンかい? おかえり、神獣様の調子はどうだい?」
「うん、ガイア様は調子よさそうだよ」
「ほう、それはなによりだねぇ」
お祖母ちゃんは、私がしっかりとお役目をはたしている事がうれしいようだ。
そして立ち上がろうとしたお祖母ちゃんを手で制した。
「あ、そのまま座っていてね。お昼ご飯の準備は私がするから」
「そうかい、すまないねぇ」
私は家に残っている食材で簡単な食事を作っていった。
そしてお祖母ちゃんと一緒にお昼ご飯を取りながら、巡行の目的地について聞いてみる事にした。
「ねえ、お祖母ちゃん、カルテアって何処にあるのか知ってる?」
その言葉にお祖母ちゃんは一瞬眉をひそめたのを見逃さなかった。
「カルテアかい」
そう言うとテーブルの上に指を置いて簡単に教えてくれた。
「ここがアンスリウムとして、その隣がユッカ、その先のモステラ地方に行って船を使うか、バキラ地方に行って砂漠を渡るかのどちらかだねぇ。モステラからは船でそのままカルテアに行けるけど、海がどうしようもなく荒れるからとても危険よ。バキラ地方からだと灼熱地獄ってところね。それを越えるとディフェンバキアを経由してカルテアだねぇ」
何だか話を聞いていると、随分過酷でしかも遠そうだ。
「ねえ、お祖母ちゃん、そこに行くとしてどのくらいの日数がかかるの?」
「え、まさか、行くのかい?」
「うん、素行不良の罰で、カルテアに巡行するか見習いを辞めるかを迫られているの」
私がそういうとお祖母ちゃんは目を丸くしていた。
「ガイア様のお世話を考えたら解雇される訳にはいかないから、そうしたらカルテアに行くしかないのよ」
お祖母ちゃんは私が話し終わると「はぁ」とため息をついた。
「今まで何人ものアマハヴァーラ教の神官が巡行に行ったようだけど、辿り着けたのは大神官だけだと聞いたよ」
シーモアさんは、そんな危ない所に私のような半人前を行かせようとしているの?
うん、辿り着いたのが大神官だけ?
すると、あの箱の中の大神官の正体がますます気になるわね。
カルテア巡行前に入れ替わっていたら、大神官もカルテアまで行けなかった可能性もあるか。
「ねえ、お祖母ちゃん、リドル一族の里を焼くように命じたのは今の大神官ベネディクト・アッシュベリーよね?」
「ああ、そうだよ」
お祖母ちゃんは大神官の名前を聞いて、少し顔を顰めていた。
「命令を発したのは、そのカルテアに巡行して帰って来た後よね?」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
すると倉庫の中のベネディクト・アッシュベリーは、カルテア巡行のどこかの間で入れ替わったという線が濃厚よね。
私が何も話さないので、お祖母ちゃんは怪訝そうな顔で見つめていた。
そこでベネディクト・アッシュベリーが倉庫の中にあった箱に入っていた事を話した。
「その箱の中の人物が、人間なのか人形なのか分からなかったのね?」
「うん、箱が開けられたら良かったんだけど、厳重に封印されていたの」
そこで3階の扉が神力で封じられていた事を質問してみた。
「あ、それと神獣様が人間を封印するような事はあるの?」
「なんだい、藪から棒に」
「実は、大神官が入っていた箱が設置してあった部屋が厳重に閉じられていたんだけど、それが神力で封印されていたみたいなの」
私がそう言いうと、お祖母ちゃんは何やら考え込んでいた。
「それ誰にも言っていないわよね?」
「勿論よ、アマハヴァーラ教の神殿内でそんな事は絶対口にしないわ」
「そうすると突然里を焼き払うという命令を出したのも、その偽物だった可能性が高いのね。それにしても大神殿の連中が神力を使うなんて聞いたことも無いんだけど、何か裏がありそうだねぇ」
そこで私は、人々が何故アマハヴァーラ神を信じているのか聞いてみる事にした。
「何故、普通の人達は、アマハヴァーラ神を信じているの?」
「声が大きい方が強いといったところかねぇ。アマハヴァーラ教の神官達は、事あるごとに大地創造したのはアマハヴァーラ神だと布教しているからね。そしてリドル一族は自分達の事を宣伝するのは仕事じゃないといって、何もしてこなかったんだよ」
ああ、それでいつの間にか環境を整えているのが神獣様じゃなくアマハヴァーラ神にすり替わって行ったのね。
「お祖母ちゃん、アマハヴァーラ教の特級神官や上級神官あたりだったら大神官との関りもあるでしょう? 雰囲気とか魔力を計るとかで、大神官が偽物だったら気付くんじゃないの?」
「仮に依然と雰囲気が違うなと思っても、苦難の巡行の末に精神的に成長したとか言われたら、案外信じちゃうんじゃないかい。それに本物を隠しているのなら、それによって他の神官達をごまかせる何らかの仕組みがあったとしても不思議じゃないわね」
「う~ん、確かにそうかも」
これでは、私が大聖堂であれは偽物だと叫んでも誰も信じてくれないだろうし、こうなって来るとカルテアまでの巡行中に動かぬ証拠を集めなくてはならないわね。
そうすればリドル一族の里がどうして焼かれたのかも、分かるかもしれない。
「お祖母ちゃん、私、カルテアまで行って何があったのか調べて来るわ」
「でも、道中はとても危険よ」
お祖母ちゃんがとても心配そうな顔をしたので、私はガイア様から聞いた重大な事を話した。
「ガイア様に聞いたのだけど、ガイア様はこのアンスリウム地方の環境を整えているそうなの。そして他の地方にはその地方を担当する神獣様が居るんだって」
「え、そうだったのかい?」
どうやらお祖母ちゃんもその事は知らなかったらしい。
そうると他の地方にもリドル一族と同じ事をしている人達が居たという事よね。そして何等かの理由で今は神獣様のお世話ができていないと。あ、ひょっとしたらカラス達によって根絶やしにされている可能性もあるのね。
「うん、だからその地方の環境を整えている神獣様を探し出して、お世話をすれば過酷な道中もかなり楽になるんじゃないかしら?」
「まあ、確かにその可能性はあるわね。それじゃあ、ガイア様に他の神獣様の事を聞いてみるのね」
「ええ、そうするつもりよ」
そこで私がカルテアに行っている間、誰もガイア様のお世話が出来なくなる事が心配になった。
「ねえ、お祖母ちゃん、私が巡行に行っている間、アンスリウムの環境が悪化すると思うけど、お祖母ちゃんはどうするの?」
「ここには私を心配してくれるご近所さんもいるし、心配しなくて大丈夫だよ」
「でも」
それでも私が心配すると、お祖母ちゃんは笑顔を見せた。
「大丈夫よ。ここで生活できなくなったら、隣のクロトン地方にでも避難してみるわ」
「えっ、クロトンって毒沼地帯だって言っていなかった?」
「そうよ、それにクロトン地方にも神獣様が居るのだとしたら、見つけ出してお世話をすれば何とか住める環境が整うのでしょう」
確かに、ガイア様のお話からすると何とかなりそうね。
「分かった。私は自分の事だけ考えるね」
「ええ、そうしておくれ。くれぐれもカラスには注意するんだよ」
「うん、分かった」
寸劇====
(ア)お祖母ちゃん、これよ、この箱の中に大神官が。
(バ)直ぐにラーの鏡で大神官の正体を見るのよ。
(ア)はい、分かりました・・・お祖母ちゃん、何も見えないわ。
(バ)しまった。それはアリソンが子供の頃作ったパチモンの鏡だったわ。
(ア)・・・
評価ありがとうございました。




