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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第1章 アンスリウム
1/21

1 はじまり

 

 リドル一族の里で族長であるショーナ・リドルが自宅でのんびり寛いでいると、大慌てでやって来た男が居た。


「ショーナ様、大変です」

「こんな人里離れた場所で何をそんなに慌てる事があるんじゃ?」

「カラス共がやってきました」

「なんじゃと?」


 カラスとは、アマハヴァーラ教の強制懲罰部隊の蔑称で、アマハヴァーラ教に反対する異教徒やアマハヴァーラ教の教義に違反した者に罰を与える組織の名前だった。


「ショーナ様まさかとは思いますが、大神官が心変わりをして我々を抹殺する事を決心したのではないでしょうか?」

「カラスを動かせるのは大神官のみ。どうやら最終手段に出てきたという事のようじゃな」


 すると真っ暗な窓の外にぽうっと赤い光が現れた。


 +++++


 山々に囲まれた小さな盆地には、木々に隠れるように小さな家が点在していた。


 その家がポッと輝くと炎が家を包み込み、まるでろうそくに火をつけたように燃え上がった。


 すると燃え上がる家の扉が開き、中から炎に包まれた人々が飛び出してきた。


 それを外で待ち構えていた漆黒の鎧を着た騎士が、手に持った両刃の剣で次々と切り捨てて行った。


 家々の周りには手に松明を持った騎士が走り回り、逃げ惑う人々を腰の剣で切り付けていた。


 村への入口には目の前で起きている虐殺を、騎馬に乗ったがっしりとした体格の黒いちぢれ髪の騎士がじっと戦況を見守っていた。


 そこに村の方から伝令の騎馬や駆け込んでくると、馬から降りて馬上の騎士に報告を行った。


「将軍、村の長老を捕まえました」

「良し、連れてこい」

「はっ」


 そして縄で捕縛され連れてこられた老婆は、将軍の前に引き出されても怯んだ様子は無かった。


「漆黒の鎧に黒マント、やっぱりお前達はカラスか」

「その名前は異端者共が我々を侮蔑するために付けたものだ。我々は由緒あるアマハヴァーラ教強制懲罰部隊だ。そして私は部隊長であるゲイブリエル・ソールである。お前が狂信者共の長か?」

「ここは神獣様のお世話をする事を許された由緒ある調力師の村じゃ。何故、このような暴挙に及ぶのじゃ?」


 ソールは異教徒の世迷言を聞く耳は持っていなかった。


「ふん、お前達リドルの一族は民をたぶらかし、金を巻き上げるいかさま師だ。この世に神獣などおらん。神獣がこの地の環境を調整しているというのは世迷言だ。民にいらぬ不安を煽る狂信者は、アマハヴァーラ教の剣である我らに粛清されるのだ」


 そう言うと馬に乗ったまま近づくと腰の帯剣を抜くと老婆の首を跳ね飛ばした。


「良いか、リドルの一族は1人も逃すな。全員始末するのだ」


 アマハヴァーラ神を信じない狂信者共を皆殺しにすれば、大神官様もさぞお喜び下さるだろう。


 将軍は、周りから聞こえてくる悲鳴の心地よい調律に、心が穏やかになる自分に酔っていた。


 +++++


 アンスリウム国内の都市を巡る隊商が道を進んでいると、突然1人の男が現れこちらに手を振って来た。


 先頭馬車の御者は盗賊ではないかと目を凝らすと、男は身なりも良くなによりも胸に黄色い三角と中心点から3ヶ所の頂点に向けて雷を模したアマハヴァーラ教を示す印をつけていた。


 安全だと思った御者が手綱を引いて馬を止めると、男が御者台に傍にやって来た。


「おい、何処に向かうのだ?」

「へい、この先にある里でさぁ」

「この先に人里など無い、迂回しろ」

「え、いや、前にも来たことがあるんですが?」

「そんな事は知らぬ。いいから迂回しろ」


 御者が困っていると、後ろの馬車から隊長がやって来た。


「ええっと、私はこの隊商の責任者なのですが、何かあったのでしょうか?」


 そして隊長とアマハヴァーラ教の男がなにやら話し込んでいると、男はいかめしい顔をしながら離れて行った。


 御者が指示を待っていると、隊長はやれやれといった顔で近づいてきた。


「我々はこの先の里の傍で野営するぞ」

「え、里には入らないのですか?」

「ああ、入らない」

「分かりました」


 御者は「好奇心は猫をも殺す」という言葉を心の中で反芻しながら、余計な事は知らない方が良いと納得すると、再び馬を走らせた。


 御者は里の外に野営した事も、隊長たちがどこかに行って何かをくるんだ布を大事そうに抱えて戻ってきた事も、見なかった事にした。


 +++++


 俺は暗く寒い洞窟の中で必死に穴を掘っていた。


 暗い洞窟の中では光で時間経過を計る手段が無いので、今が昼なのか夜なのかもさっぱり分からなかった。


 魔石で稼働する掘削機で穴を掘っているとはいえ、両手に伝わって来る振動と耳に伝わる騒音を聞いていると、自分の感覚がおかしくなっていた。


 延々と続く洞窟を地中深く掘り進めて行くと、周囲の温度は低いというのに額や背中から汗が噴き出し、汗だくになったシャツが体に張り付いてとても不快だった。


 手持ちの水も残り少なくなり穴を掘る手はマメが潰れ出血しているが、それでも手を休める事はしなかった。


 それはこの先に栄光と富が待っていると固く信じているからだ。


 それというのも、一族が守り続けてきた繁栄の手引書を偶然手に入れたからだ。


 先祖が迫害されながらも絶対に手放さなかったこの手引書には、一族を不幸に陥れた敵と一族が復活するための手がかりとなる暗号が書かれていたのだ。


 そして俺はその暗号を解読して、自分達がどうしてこんなにみじめな暮らしを送る事になった原因とそれに加担した敵を知り、昔の繁栄を取り戻す手段も手に入れたのだ。


 俺が解読した内容が正しければ、この先に絶対に目的の物があるはずなのだ。


 もうどれくらい掘ったのか、持って来た魔法石の殆どを使い果たし持って来た掘削機の交換部品も底を突きそうになった頃、掘削機の先端が空を切った。


 慌てて開いた穴を両手で広げてその中を明かりを入れると、その光に反射して何かがキラキラと光っていた。


「ふっ、ふはははは、ついにやったぞ。これで俺は大金持ちだ。それにあの連中に復讐もできるぞ」


 穴を広げて中に入った俺は、明かりに反射するそれを摘まみ上げた。


 掌にあるそれは、俺を、俺の一族を再び権力の頂点にまで引き上げる力となるものがあった。


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