少しずつ、確かに。
進展が見える二人のお話です。
あの初めての遠出以降、瑛は休日に小鳥遊からカフェに誘われるようになった。
嫌ではないけれど、あの日以降瑛は小鳥遊を目で追ってしまうことが多くなった。自分でもなぜかは分からず、けれどじっと見つめては嫌がられてもいけないとなんとかさりげなく視線を向けるようにしていた。
その日誘われたのは川辺を眺めながら過ごすことのできるカフェで休日は混むこともあるらしく、小鳥遊がわざわざ予約をしてくれたらしい。
「あの小鳥遊さん、予約まで……ありがとうございます。」
「いえ、私も来たかったので。ここのプリンをずっと食べてみたかったんです。」
かためのプリンは卵から拘っているらしく、このカフェの名物らしかった。
小鳥遊はホットコーヒーを一緒に頼み、瑛はホットのカフェラテも一緒に頼んだ。
お洒落なジャズが店内には流れており、なんだか小鳥遊とは違って自分は場違いなような気がした。
美味しかったですねと言い合い話しながら川辺を並んで歩いた。
今日は天気が良くて風も気持ちいいから穏やかな雰囲気が二人を包んでいた。
「……真白くん、今日のカフェは苦手でしたか?」
「えっ……」
「少し、そわそわしていたように見えたので」
違ってたらすみませんと笑った彼の優しさにまた瑛は唇を噛み締めた。
「そういうわけではないんですけど……僕なんかがいるのは、場違いかなって……」
慣れてないだけなので気にしないでくださいね、プリンもコーヒーも美味しかったですと本心を付け足す。
「なるほど……実を言えば私も少し落ち着かなかったんですよね。雰囲気で言うと真白くんと行った庭園のカフェ……みたいな雰囲気が好きなので、あんなジャズがかかるバーのような雰囲気は緊張してしまいますよね。」
「っ……そう、ですね」
自分だけではないことと、やっぱり優しい彼に瑛が口を開いたその時。
グイッ─────と腕を引かれた。
小鳥遊に抱き寄せられている体勢だと、気付いたときには固まってしまった。が、物凄いスピードを出して駆け抜けていったバイクに、彼はそれで手を引いてくれたのだと理解できた。
「こんな狭いところであんなにスピードを出すなんて……。はっ、真白くんすみません!!痛くなかったですか!?」
急に腕を引いてしまって、怪我とかはないかと確認してくれる彼に真白は大丈夫ですとなんとか返事をした。けれど内心は──────バクバクとうるさい心臓に首を傾げていた。
**
今日のカフェ巡りも楽しかった。
部屋に帰り、今日のことを思い出す。
やっぱり小鳥遊と過ごす時間は楽しくて─────
そして今日のことを思い出しドッと心臓が音を立てた。
あのとき瑛は小鳥遊の大きくてあたたかい手で触れられ、抱き止められた。不可抗力とはいえど抱きしめられた体制になったのだ。
「……小鳥遊さんいい匂いしたなぁ……」
自分で言ってハッとする。何を言っているのだと。きっと香水か何かをつけていたのだろうと言い聞かせる。
顔が熱くて仕方がなかった。
他人に触れられることは苦手なはずなのに
「……もっと……触れていたかったなぁ」
ぽつりと溢れた音は、瑛の無意識下で溢れた呟きであった。
**
時を同じくして、律も自身の部屋でシャワーを浴びていた。しかも冷水。時間にしてもう十分以上も浴び続けている。
「っ……」
思うのは今日のこと。
猛スピードで駆けてくるバイクから彼を守るためだったとは言えども、抱きしめたときの感触が今だに手に残っていた。
柔らかくて、心配になるほどに細くて──────いい匂いがした。香水なんかとは違う彼の優しい匂いがした。
「っ……何を……っくそ」
何を考えているのだとさらに水温を下げる。
けれど体の熱はなかなか消えてくれなかった。
勢いよく触れてしまえば壊れてしまいそうな彼を大切にしたいのに、日に日に募る欲の籠る想いも自分の本心だと理解していた。
もっと触れていたいだなんて。
そろそろ溢れ出しそうな想いとどう付き合っていくべきかと律は一人部屋でため息を吐いた。
甘いお話を書くことが好きです。
もっと甘く書きたいです。