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初めての、遠出。

優しい彼と優しさに慣れない彼のお話。

瑛は初めて、休日に小鳥遊と会えるのを楽しみにしていた。早すぎても遅すぎてもいけないだろうとちょうど待ち合わせ場所に10分前に着くようにしたのに、もうすでに小鳥遊の姿はあった。

「小鳥遊さん!お、お待たせしました!」

すみませんと言えば彼は瑛を見て驚いたような格好をしていた。

「小鳥遊さん?」

「あっ、すみません……いえ私服だとさらにかわ……ンンッ、雰囲気が変わるなと思いまして。今日は急な誘いにも関わらずありがとうございます。」

ぺこっとお辞儀をされ二人して駅前でぺこぺことお辞儀をし合う。

どちらからともなくふっと笑みを溢し何をしているんでしょうねと笑い合った。

少しだけあった緊張が今はもうなくなっていた。

都会の中の緑が多いこの駅は実は瑛は来たことのない場所だった。

「前に近くまで来たときに見つけたカフェなんですが、時間がなくて行けなかったんです。真白くんと一緒に行けて嬉しいです。」

他愛のない話をしながらカフェの道を進む。

彼といるとすごく息がしやすい、そう気付いたのは割と最近だった。


緑の多い公園のさらに奥、まるで都会の喧騒を忘れられるように緑に囲まれたカフェがあった。洋館のようなお洒落な建物とその周囲は庭園のようになっている。色とりどりの花が咲いていてどこか違う場所に迷い込んだような気がした。

店内に入り二人だと言えば奥のガラス窓の前の席に通された。庭園を眺めることができるその席に瑛は目を輝かせていた。

その様子を小鳥遊は柔らかく笑みを浮かべて眺めていた。


小鳥遊はおすすめのサンドイッチプレート

瑛は日替わりランチのオムライス

そして食後のデザートに二人はアップルパイとアイスコーヒーのセットを頼んだ。


「すごく落ち着く場所ですね」

「ふふ、そう言っていただけてよかったです。」

窓辺から見える風景を二人は眺めつつ楽しい時間を過ごした。

食事を終えお会計を終えた時に店員さんからよかったら庭園も散策して行ってくださいねとおすすめされたのでそれならと二人は庭も見てみることにした。


ハーブやらレモンの木などから様々な種類の花が植えられているようであった。

「そういえば真白くんは好きな食べ物とかありますか?」

「え?」

「いつも私のおすすめや行ってみたいお店ばかりになってしまっているので、あなたの好きな物があるところの方がいいかなと」

「僕は……」

きっと深い意味はなかったのだろう。自分だけでなく瑛も楽しめるようにと彼なりの気遣いで聞いてくれたのだとわかった。わかっていたけれど、じわりと嫌な汗をかいた。

好きなものなんて、なかったから。

極論食べられるならなんでもよかった。好みなんて二の次だったから、そう問われた瑛はどう言えばいいのかわからず口を噤んでしまった。

どうしよう───────

「……今日のアップルパイとこの前食べたチーズケーキはどちらが好きでしたか?」

「えっ?えっと……アップルパイ?」

「ではオムライスと肉じゃがと……前に行ったパスタだと?」

「どれも美味しかったですけど、しいていうなら……肉じゃがですか、ね」

「なるほど。わかりました。では今度職場の近くのとんかつ屋さんに行きましょう。お通しに肉じゃがが選べることもあるんです。あと裏通りにあるりんご飴専門店もいつか行ってみましょうか。」

ほわりと笑った小鳥遊に、瑛はなんとも言い難い思いを抱いた。どうして、どうしてそこまで。

「どうして……そんなに優しくしてくれるんですか?」

始まりは自分が彼の落とし物を拾ったことかもしれない。けれど大したことでもないはずなのに、自分なんかを気にかけてくれてこんなにも優しく接されるなんて。他人からこんなに優しさをもらったのは生まれて初めての瑛には、どうすることが正解なのかわからなかった。


さああっ、と風に揺れた木々が頭上で柔らかな音色を奏でている。

ぱちぱちと瞬きをすることしばらく、小鳥遊は少し考えた後口を開いた。

「……あなたのことをもっと知りたいと思ったんです。真白くんと過ごす時間が特別で楽しくて……だから、また誘ってもいいですか?」

勘違いしそうになるほどに、視線までもが優しいものであった。

上手く言えなくて、頷きだけで返事をすればそれだけでも満足と言わんばかりに小鳥遊は笑ってくれた。

そろそろ帰りましょうかと言われ残念に思うも、歩幅を合わせてくれる小鳥遊に瑛はじわじわとあたたかさを見出していた。


ああ、本当に彼と一緒だと、息がしやすいな。

そんなことを思った。

瑛くんが徐々に優しさに慣れていってほしいなと思います。

読んでくださってありがとうございます。

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