これからは、偶然以外も。
偶然以外の選択肢も持てるようになる話。
偶然の再会から、二人は頻繁にお昼を一緒にとるようになった。
とある日は職場の近所の公園に出ているキッチンカーでテイクアウトをして公園のベンチに座って食べたり。
またある時は小鳥遊のおすすめだというお店にも連れていってもらった。
いつもひとりで淡々と過ごしていた昼休みが、いつの間にか瑛は待ち遠しいものになっていた。
といっても連絡先も知らなければお昼の時間が合わない日もある。そんな時に瑛は少し残念に思うのだった。
昼休みに会えない日が続いた日の就業後、瑛と小鳥遊はばったりと駅で会った。
なんだか初めて会った時のことを思い出して瑛はくすりと笑みを溢した。
「っ……!真白くん!あの……よかったらこれから一緒に夕飯でもいかがですか?」
急なお誘いに驚きつつ相手が小鳥遊なのならばと瑛はぜひと返事をした。ホッとしたような嬉しそうな表情に瑛の心は妙なざわつきを覚えるのであった。
小鳥遊が連れて来てくれたのはこじんまりとした定食屋で落ち着く雰囲気が好きでよく訪れる場所らしかった。
「急に誘ってしまってすみません……久しぶりに真白くんに会えたのが嬉しくてつい。」
「あ、いえ……その僕も嬉しかったです」
真っ直ぐなまでの小鳥遊の気持ちに恥ずかしくなって視線を逸らしてしまうも、瑛も自分なりの言葉で自分も同じだとなんとか伝えることができた。
「私はここの鯖の味噌煮定食が好きなんです。でもどれも美味しいので真白くんの好きなものを食べてくださいね。」
メニューを渡され悩むこと数分、瑛は肉じゃが定食を選んだ。小鳥遊が店員さんを呼び注文を終えれば話題は日常のことに移り変わっていった。最近暑くなりましたね、そういえばこの間のキッチンカーがアイスコーヒーにバニラアイスを乗せたものを始めたそうです、なんて和やかな時間が進んでいった。
各々届いた料理に舌鼓を打ちつつ、時折話をしながら、瑛はふと先日思ったことを思い出していた。
食後に届けられた温かいお茶を飲みながら一息ついている中で、ふと小鳥遊が瑛の名を呼んだ。
「真白くん」
「っ、はい」
「あなたがよければなのですが……こうしてまた夕飯とかも誘ってもいいですか?」
「僕で……いいんですか?」
「真白くんと一緒がいいんです。」
にこやかに告げられた言葉に喉が詰まる。けれどそれは苦しいものではなく優しい色合いのものであった。
「……はい、ぜひ」
「では、連絡先を聞いてもいいですか?」
その方がいつでも誘えるから、なんて。
「あ、あの僕も……同じことを考えていました。」
瑛の返事に驚いたようなけれどその後すぐに小鳥遊は嬉しそうな表情を見せた。
「ふふ、もっと早く聞いておけばよかったですね」
そうして二人は連絡先を交換した。
電話番号と、そしてメッセージチャットの方も。
友達や親しい友達なんて今まで一人もいなかった瑛のスマホに新しい連絡先が追加された。
「いつでも連絡してきてくださいね。」
「は、はい」
緊張した面持ちで自分のスマホを眺める瑛の横顔を小鳥遊は優しい表情で眺めていた。
読んでくださりありがとうございます。
優しくあたたかい、そんな話が書きたいなと思っています。