偶然の、再会で。
おにぎりの君の正体は─────?
落ち着いたブラウンとアイボリーで統一された店内は木のあたたかさを活かすテーブルと椅子、そして観葉植物も至る所に飾られてありお洒落でもありながら居心地のいい空間であった。
路地裏にある隠れ家的なカフェのようで自分たち以外の客は見当たらなかった。
「無理言ってすみません。あっ、自己紹介がまだでしたね。私は小鳥遊 律」と申します。」
「どうも、僕は真白瑛と申します。素敵なお店ですね。」
「真白瑛さん……素敵なお名前ですね」
ふふっと目尻を細めた彼の眼差しはとても優しいもので思わず瑛は目を見開いた。
そんなこと、一度たりとも言われたことがなかったのだ。
「先ほども言いましたがここは誘った私が出しますので、真白さんはお好きなものを頼んでくださいね。先日のお礼ですから。あ、お腹は空いていますか?もしそうだったらここのオムライス美味しいんです。」
「っ、本当にいいんですか?」
「はい、本当に困っていたのでこれくらいですがお礼させてください。」
今まで自分の周囲にはいた事のないタイプの人で戸惑いつつも瑛はお礼を言った。結構ぐいぐいくるタイプの人なんだなと物腰の柔らかさからは想像できないそれに実のところ驚いていた。
その後も、彼は一切無理な詮索もしてこなかった。
初対面だと会話探しの一環でいろいろな質問をしてくる人の方を多く見ていたから、不思議な感じだった。
ただただこの辺りのおすすめのお店の話だったり、瑛でもわかる話だったり、そんなもに。あと、彼の話すテンポ感や声の低さもこの雰囲気に合って心地のいいものであった。
オムライスも美味しくいただいた上に追加でコーヒーまでも奢ってもらった瑛の申し訳なさそうな表情には、ここのコーヒーは美味しいからぜひ飲んで欲しかったんですと優しい笑顔で告げてくれた。
ほとんど初対面と言っても過言でないのに、居心地は悪いどころかむしろその逆であった。
だから思わず瑛は自分から話しかけていた。
「あの、失礼ですが多分僕より年上……ですよね?あの、話し方とか全然気遣っていただかなくて大丈夫ですので」
年下相手に畏まった態度を嫌う人間はいる。彼はきっとそうではないだろうとは思うが、念のために言っておいた。
「ああ、私はこれがもともとなんですよ。こちらこそお気遣いありがとうございます。」
丁寧な話し方はもともとなのか、やっぱりなぁ、そんなことを思った。
「真白さんはおいくつですか?」
「今年で25です」
「25……すみません、私は今年で30なんですが、こんなおじさんに誘われるの嫌でしたよね」
申し訳なさそうに言った彼にまさかそんなことを言われるなんて思っていなかったので吹き出してしまった。
「ふふっ……あ、すみません、バカにしたとかじゃなくて、たった5歳しか違わないのに。おじさんってふふっ。小鳥遊さんは全然おじさんには見えませんよ」
なんならうちの部署にいる30歳の上司と比べると若く見える方だろう。
本心から笑った瑛に彼は顔を逸らした……かと思えば緊張気味にあのと瑛に声をかけた。
「あの……真白くんとお呼びしてもいいですか?」
「あっ、はい。」
不思議と嫌な気はしなかった。
「もしよかったら、また会えた時だけでもいいのでこうしてお昼に付き合ってもらったり、できないでしょうか?」
「えっ?」
「その、この辺りで気になるお店もいくつかあるんですが女性ばかりのところが多くて一緒に行ってくださると助かると言いますか……えっと、真白くんは甘いものとかお好きですか?」
「え?あ、はぁ。まあ人並みには…えっ、というか僕でいいんですか?相手……」
「今日あなたと話してとても楽しかったので、無理にとは言えませんがタイミングがあえばでもいいので」
「えっと……小鳥遊さんがいいのなら」
いつもなら絶対にお断りしているだろう誘いに、瑛は悩むなもなく頷いていた。
続きは書き上げ次第あげていきます。
読んでいただけて嬉しいです。