心の選択(前編)
陽向はそれから数日間、試練とデートの繰り返しに忙殺されていた。異世界の景色や文化、そしてヒロインたちとの関わりの中で、彼の心も少しずつ変化していった。
「ふぅ…」
陽向は思わず深いため息をついた。彼の前に広がるのは、異世界の広大な湖。湖面には、まるで夢の中のような月が映っていた。
「どこか、懐かしいような気がするな…」
陽向はその美しい景色を見つめながら、心の中で独り言を呟いた。
「陽向くん?」と、そこに突然声がかかる。
振り返ると、そこにはセレナが立っていた。彼女は優しく微笑んでいるが、その目にはどこか心配そうな色が浮かんでいた。
「何を考えてるの?」
セレナは静かに問いかけた。
陽向は少し戸惑いながらも答える。
「この世界のこと、みんなのこと、いろいろ考えてて…。何をどう選んだらいいのか、わからなくなって」
セレナはその言葉を受けて、静かに歩み寄った。やがて、陽向の横に並ぶ。
「あなたが迷うのは当然よ」
セレナは穏やかな声で言った。
「だって、この戦いは誰にとっても初めての経験だもの。告白の成功も、心の選択も、すべてが初めてのこと」
「でも、どうしても不安で…」
陽向は言葉を続ける。
「告白って、簡単じゃないだろ?」
「もちろん」
セレナは頷く。
「告白って、相手に思いを伝えること。その思いが、どれだけ本物かが大事なの」
陽向はセレナの言葉を噛みしめるように聞いた。
「でも、この戦いにはルールがあって…」
陽向は少し眉をひそめる。
「みんな、俺に恋愛ポイントを取られないように必死なんだろ? それが、なんだか怖いんだ」
セレナはその言葉に静かに頷く。
「分かるわ」
セレナは少しの沈黙を経て、再び言葉を続けた。
「でも、あなたが大事にしなきゃいけないのは、相手の気持ちだけ。勝つために、相手を傷つけたり、裏切ったりすることなんてできない」
陽向はセレナの言葉に胸が熱くなるのを感じた。彼女の優しさが、心の奥底に届く。
「じゃあ、俺が選ぶべきは…」
陽向は再び問いかけた。
「どうすれば、本当に心から告白できるんだろう?」
セレナは少し間をおいてから言った。
「あなたが最も大切に思う人に、告白すること。それが一番大事なことよ」
その瞬間、陽向の心の中で何かが弾けた。
「なるほど…」
陽向は小さく呟いた。そこで、ふとあることに気がつく。
彼が一番心を開いているのは、実はセレナではないか、と。
その時、突然、フィーネが元気よく駆け寄ってきた。
「おーい、陽向くん! 何してるの?」
フィーネは無邪気に声をかけ、陽向の腕を引っ張った。
「お、フィーネか」
陽向はちょっとだけ驚いた顔をした。
「どうした?」
「陽向くん、一緒に散歩しよ! それから、少しお話ししようよ!」
フィーネは陽向を引き寄せながら言った。
「散歩か…」
陽向は少し考え込んだ。セレナの言葉がまだ頭に残っている。
「ねぇ、陽向くん、どうしたの?」
フィーネが心配そうに顔を覗き込んできた。
その瞬間、陽向は思った。彼が一番心を動かされたのは、フィーネのその無邪気な笑顔だ。彼女の存在が、彼を支えてくれていることを実感していた。
「ありがとう、フィーネ」
陽向は微笑みながら言った。
「でも、少しだけ考えさせてほしい」
フィーネは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐににっこりと笑った。
「うん、わかった! 陽向くんが考える時間、ちゃんと取るからね!」
その後、陽向はしばらくひとりで歩きながら、心の中で自分の気持ちを整理しようとした。今、彼の中で確かに感じることがある。それは、フィーネへの思いだった。
「でも…」
陽向は空を見上げる。悩む気持ちを振り払うように、深く息をついた。
「これが本当に告白バトルロワイヤルで勝つための一歩なのか?」
その問いに答えることができるのは、きっと自分自身だけだった。
そして、陽向は思った。
「告白するんだ」