心の選択(後編)
陽向は心の中で決意を固めると、再び歩き始めた。足取りはどこか力強く、そしてどこか優しさを感じさせるものだった。
「告白をするんだ…」と、陽向はもう一度、自分の中で繰り返す。今までは、ただこのバトルから抜け出すために、心のどこかで逃げようとしていた。しかし、セレナの言葉、フィーネの笑顔、そして何よりも自分の気持ちが告白という行動に導いていることを感じていた。
彼は次第にその気持ちを強くしていった。
「選ぶのは、俺自身の気持ちだ」
そう心の中で呟くと、陽向は思い切って歩を進めた。
しばらく歩いていると、前方に見慣れた姿が見えてきた。それは、リュミナだった。
「陽向くん」
リュミナが静かな声で呼びかけてきた。彼女の表情はいつものように冷静で、どこか遠くを見つめているような感じがした。
「リュミナ…」
陽向はその声に振り向く。何となく、胸が締め付けられるような感覚があった。
「何か思いつめているようだね」
リュミナは穏やかな笑みを浮かべた。
「何か悩みがあるのなら、遠慮せずに言ってほしい。私は…あなたの味方だ」
陽向はその言葉に少し驚いた。リュミナは普段から冷徹で完璧な印象が強くて、誰かに心を開くようなタイプには見えなかったからだ。しかし、今、彼女が差し出した手は、どこか温かさを感じさせるものだった。
「俺、もう少しだけ考えてみる」
陽向は微笑みながら答えた。
「だけど…ありがとう」
リュミナはその言葉に静かに頷く。
「そうか、ならばゆっくりと考えるといい。焦ることはない」
陽向はリュミナに礼を言い、また歩き出す。彼の心には、まだ決めきれないことがいくつかあった。しかし、これで何となく、少しだけ心が軽くなったような気がした。
そのまま歩を進めていくと、今度はイシュタが目の前に現れた。彼女の目にはいつも通りの高飛車な瞳が光っていたが、その姿勢からは、何かしらの意味が感じ取れるようだった。
「陽向」
イシュタが声をかけてくる。
「なんだか、あんた、今日は少し変じゃない?」
陽向は少し困ったように笑う。
「そうかもね。ちょっと、いろいろと考えてて」
イシュタはその言葉に少しだけ眉をひそめた。
「考えることもいいけど、無駄に悩むのはダメだぞ」
彼女は少し強い口調で言いながら、陽向の肩をポンと叩いた。
「迷っている暇があったら、もっと積極的に行動しろ。あんたのようなタイプは、きっとその方がうまくいく」
陽向はその言葉に少し驚き、そして苦笑いを浮かべた。
「うん…ありがとう、イシュタ」
イシュタは頷き、少しだけ彼の視線を逸らした。
「別に、あんたのために言ったんじゃない。ただ、見ていると無駄に悩んでいる気がして、それが気になっただけだ」
陽向はイシュタの本音を感じ取り、感謝の気持ちを込めて礼を言う。
「それでも、ありがとう」
その後、陽向はまたしばらく一人で歩いていた。彼の心の中で、少しずつ答えが見えてきた。どのヒロインも大切だ。しかし、選ばなければならないのは一人だけだ。
その時、ふと背後から陽向の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「陽向くん!」
その声の主は、フィーネだった。いつものように元気いっぱいな笑顔で駆け寄ってきた。
「お待たせー! 一緒に散歩しようと思ったけど、さっきのこと、気にしてたの?」
フィーネが陽向に尋ねる。
陽向はその問いに少し考え込みながらも、すぐに笑顔を見せた。
「うん、少しだけね。でも、今はちょっと気持ちが整理できたかもしれない」
「そっか…」
フィーネは陽向の手を取り、少し引き寄せる。
「じゃあ、無理しないでね。無理しても良いことなんてないし」
その時、陽向は初めて気づいた。フィーネの手を握り返す感触が、どこか温かくて心地よかったことに。陽向の心は、少しずつ動き始めていた。
「ありがとう、フィーネ」
陽向は笑顔で言った。
その言葉を聞いたフィーネは、目を輝かせて陽向を見つめた。
「ううん、こっちこそ。陽向くんが笑ってくれるなら、私はそれだけで嬉しいんだから!」
陽向の胸の中に、どこか確信のようなものが芽生えた。それは、彼の告白に向かう道筋が少しずつ見えてきたことを示していた。
「今、告白しよう」
陽向は心の中でそう決めた。
そして、フィーネを見つめる。その瞳には、彼女に対する気持ちが確かに存在していた。
――この告白が、どんな結果になろうとも、陽向はきっと後悔しないだろうと思った。