新たな仲間、試練の先に
「はぁー、やっと終わった……って思ったのに、また次かよ!」
陽向はへたり込むように腰を落とし、空を見上げた。先ほどまでの激闘で服はぼろぼろ、髪は風で乱れ、顔は土と汗でぐしゃぐしゃだ。
だが、隣でナラが満面の笑みで手を振っている。
「ねえねえ、楽しかったでしょ?風の精霊たちも喜んでたよ!」
「お前のテンション、どこから出てくるんだよ……」
ナラ・リズヴィア――フェアリー族の少女。自然と精霊を操る天真爛漫ガール。陽向にとってはありがたい仲間だが、そのノリについていけないこともしばしば。
「っていうか、今後もこんなバトルが続くのか?オレ、体育の授業でもこんなに動いたことないぞ……」
「んー、それはどうだろ?アモーラ様の気分次第、だよね〜」
「この世界、神がフリーダムすぎるんだよ!」
陽向が嘆いていると、空気がピリッと変わる。風が止み、木々が静まり返り、まるで森全体が息を潜めたかのようだった。
「……ナラ、なんか、来るぞ」
「うん。今度は、精霊たちがざわざわしてる。強い何かが近づいてるかも」
ナラがいつになく真剣な表情になったそのとき、森の奥から足音が響いた。
コツ…コツ…と、まるで舞台に登場する女優のように、気品ある足取りが近づいてくる。
「おやおや。お疲れのところ、申し訳ありませんわね。こんな森の中で、野蛮な魔物と戦わされて……」
現れたのは、紅の瞳に漆黒のドレスをまとった一人の少女。
「あなたは……吸血鬼族……?」
「ええ。私の名はヴァルシア・ナイトスカ。今後のライバル――いえ、共演者として覚えてくださってかまいませんわ」
「演劇みたいな挨拶だな……」
陽向が苦笑すると、ヴァルシアはくす、と口元をゆがめる。
「ふふ。余裕を見せているつもりでしょうけど……私、あなたの匂いが気に入りませんの」
「匂い!?え、ちゃんと風呂入ってるぞ!?入ってたはず!」
「そういう意味ではなくて。あなたの中にある感情よ。それが……どうにも惹かれる」
ナラが一歩、陽向の前に立ちふさがった。
「もしかして、陽向を狙ってるの?」
「狙う?ふふ、それはどういう意味で?」
「バトルロワイヤルってことは、ライバルでもあるってことでしょ。戦うの?」
陽向が焦って止めに入る。
「ちょ、ちょっと待って!仲間割れは良くないって!しかもまだ回復してないし、俺、たぶん全治二週間レベル!」
だが、ヴァルシアは戦う気配を見せない。ただ静かに、意味深に言った。
「今は戦わないわ。でも……あなたの本音を、少しだけ知りたかっただけ。あの神様が退屈しない理由、やっと分かってきたから」
その言葉を残し、彼女は森の闇に再び姿を消していった。
「……なんだったんだ、あの人。吸血鬼って、あんな演出過剰な種族なの?」
「いやあ、むしろ彼女は控えめなほうかも……」
ナラが小声でつぶやく。陽向は思わず青ざめた。
「え、これで控えめ……?」
その夜、陽向とナラは森の中でキャンプを張った。
「……やっぱこの世界、不思議だな」
焚き火の炎が、パチパチと音を立てる。ナラは木の実を串に刺しながらうなずいた。
「うん。でも、私たちが出会ったのも、不思議な縁だと思うよ」
「そっか……ま、悪くはないな」
「ねえ、陽向。私、もっと強くなるよ。そしたら、今度は私が陽向を守るからね!」
「え、今も十分守ってもらってる気が……」
「違うの!恋愛ポイント的な意味で!」
陽向が口にしていた水を思いっきり吹き出した。
「げほっ、ごほっ!おま、突然何を言い出すんだよ!」
「だって、バトルロワイヤルってことは、告白しなきゃいけないんでしょ?だったら、今のうちからポイント稼がないと!」
「そんなポイント制、ソーシャルゲームみたいに言うなよ!」
ナラは笑いながら、陽向の隣にぴたっとくっついた。
「だから、これからもよろしくね、陽向♪」
「う、うん……こっちこそ、よろしく……」
焚き火の炎が揺れる中、ふたりの距離はほんの少しだけ縮まった。
だが――その裏では、別のヒロインたちが密かに動き始めていた。