心閉ざすエルフ姫、氷の仮面と恋の試練
朝の訓練場。ひんやりとした空気の中に、ピンと張りつめた魔力の糸のような緊張感が走っていた。
「……やるなら、早くしてください。私は暇ではありませんので」
木立の奥、弓を構えていたのはリュミナ・フェルゼリア。長い銀髪と鋭い碧眼が、陽向に向けられるたびに背筋がしゃんと伸びる。
「いや、別に戦う気じゃないんだけど……なんでそんな殺気出てる?」
「無防備に近づく男は、戦場では最初に排除されるべきです」
「それ、戦場の判断じゃなくて、なんか個人的な嫌悪混じってない?」
【背景:リュミナとの関係】
リュミナはこの告白バトルロワイヤルにおいて、序盤から常に高順位をキープしている強者だ。
その実力は本物で、弓術と魔法の合わせ技は他の参加者の追随を許さない。
しかし――恋愛偏差値は、マイナス方向に突き抜けていた。
「私は……恋愛などという不確かな感情に興味はありません。ただ、勝利を掴むために必要なら、最低限の接触は許容します」
それが初対面のときの挨拶だった。
「だからさ、なんで俺をデータ取りの対象みたいに見てくるの!?」
【訓練場・再び】
「今日は、射撃訓練に付き合ってもらいます」
「付き合うって、俺何すれば……」
「的になってください」
「物理的な意味で!? ヒロイン枠の扱いじゃないって、それ!!」
【訓練後・休憩タイム】
「ふぅ……陽向、そこに座ってください。話があります」
「今のトーン、尋問にしか聞こえないんだけど」
「気のせいです」
陽向はしぶしぶ腰を下ろす。リュミナは背筋を伸ばし、まるで宣誓するように話し始めた。
「私には、恋愛という行為が理解できません。心の揺れも、嫉妬も、好意も――すべて論理的に処理できないものです」
「うん、わかるよ。俺もこっち来たばっかの頃、パニックだったし」
「……ですが」
リュミナの声に、少しだけ温度が宿る。
「陽向、あなたの行動には――計算がありません。感情で動いている。だからこそ、私には理解しがたく……そして、興味深い」
「それ、褒められてる……のか?」
「観察対象としてです」
「やっぱり俺、モルモットだよね!?」
【バトルイベント発生!】
突如、訓練場にモンスター型の幻影試練が出現。
参加条件:陽向とリュミナのコンビネーション達成度によって戦闘補正変動。
「面倒ですね。ですが――陽向、私に合わせなさい」
「お、おう!」
戦闘が始まる。
リュミナの指示は的確で、陽向の動きを見越した魔法支援が次々と炸裂する。
陽向も、リュミナの冷静な声に従いながら、自分の足で戦いの場に立っていく。
そして――
「いまだ、陽向。あの石柱の裏に回り込んで!」
「了解!」
陽向の突撃と、リュミナの魔法矢が見事にシンクロし、幻影が崩れ落ちた。
《バトル終了。告白ポイント:+250(協調性ボーナス+シンクロ撃破)》
【夕方・並んで座るふたり】
戦闘後、ふたりは無言でベンチに座っていた。
風が吹く。リュミナの髪がふわりと揺れる。
「……ひとつだけ、言っておきます」
「うん?」
「今日は、少しだけ楽しかったです。陽向、あなたと組むのも……悪くはなかった」
その言葉に、陽向の心がくすぐったくなる。
「そっか。なんだ、リュミナも、ちゃんと笑うんだな」
「なっ……! 笑ってなど……っ!」
「いや、ちょっとだけだけど、口角が上がったぞ? ほら、そこそこデレ入ってきてる!」
「黙りなさい!!」
耳まで真っ赤にして、リュミナは立ち上がった。
「次回はもっと難しい訓練を課しますから、そのつもりで!」
「デレたら難易度上がるってどういう仕組みなの!?」