恋とは守ること。天使の祈りと誓いの剣
朝日が差し込む中、陽向はぼーっと空を見上げていた。
「……最近、イベント濃くない?」
目が覚めたら異世界。
気がついたら告白バトルロワイヤル。
気がついたら猫耳少女に甘えられ、エルフに睨まれ、悪魔に見下され、人魚に癒され、吸血鬼に天井から吊られ……
「って、やっぱホラーだよ! ヴァルシアの登場シーン、毎回心臓に悪いんだって!」
そんな独り言を漏らしていると、天窓からやわらかな光が差し込み、静かな気配がふわりと降ってきた。
「おはようございます、陽向さん」
「……わっ! なんか今日、優しい光に包まれてる!?」
舞い降りてきたのは、透き通るような白い翼を広げた少女――アイリス・シャルディ。天使族。
真面目で優しく、常に陽向を気遣ってくれる、いわば良心の化身。
「今日は、少しだけ……一緒に歩きませんか?」
「もちろん。むしろ安心感すごいから、ぜひ癒してほしい」
【聖域の丘】
天使族専用のエリア、空に近い静かな丘。
陽向とアイリスは並んで歩いていた。
「こうして誰かと話すことは、私にとって貴重な時間なんです」
「そうなの?」
「天使族は基本的に、干渉しない種族ですから。愛も、距離を保って見守るだけが正解だと教えられてきました」
「それって、ちょっと……寂しくない?」
アイリスは静かにうなずいた。
「ええ。だから私は、このゲームを通じて確かめたいんです。誰かを守るっていう気持ちが、本当に恋なのかどうか」
「……アイリスって、ほんと真剣だよな」
陽向は小さく笑って、空を仰ぐ。
「俺さ、誰かに守られるなんて柄じゃないと思ってた。でも最近、思うんだ。守ってくれる人がいるって、すごく……あったかいって」
「……」
アイリスの頬がほんのりと紅く染まる。
「それに……俺も、誰かを守りたいって思うようになった。きっと、それが、恋のはじまりなんだって」
「陽向さん……」
彼女の瞳に、微かな光がともったその時だった。
突如、上空からサイレンのような音が鳴り響く。
《告白サバイバル緊急バトル発生! プレイヤー陽向およびアイリスは、強制参加!》
「ちょ、今この流れで!? 誰だよ空気読まない運営!」
アイリスの背後に光の剣が現れる。
「どうやら、試練のようです。ならば――」
彼女は静かに剣を握り、陽向の前に立った。
「私があなたを守ります。どんな敵が現れようと、あなたの未来を信じて――!」
「かっこよすぎん!? 天使ってもっとふわふわ系だと思ってたのに、RPGの主人公感出てるよ!?」
【バトル開始:敵影=堕天使型エネミー】
黒い翼を持つ影が、空から迫ってくる。
「陽向さん、お願いがあります」
「うん、なんでも!」
「戦いが終わったら――もう一度、手をつないでくれませんか?」
「っ……!」
陽向の胸に、なにかが強く響いた。
(守られてるだけじゃない。俺も……彼女を守りたい!)
「アイリス、俺、守るよ。今度は一緒に!」
「……はい!」
ふたりの祈りと想いが重なった瞬間、空にまばゆい光が走った。
光剣が輝き、敵影を貫く。
バトル終了。
《告白ポイント:+300(共闘ボーナス・信頼MAX)》
「……やった、ね」
「うん。ありがとう、アイリス」
ふたりはそっと、手を取り合った。
ぬくもりが、そこにあった。
【夜・回想】
ベッドの中、陽向はひとり、今日の出来事を思い返していた。
(守るってことの意味、少しわかったかも)
そこに、パタンと扉が開く音。
「陽向ー、寝てるー?」
フィーネがぬるっと侵入。
「いや、待て待て、夜中の猫襲来イベントは禁止だって言ったじゃん!?」
「うるさいにゃ~。安心して! 今日は添い寝だけだから!」
「むしろ怖いわ!」