可惜夜
雨が降った。それはもうざんざんと。
窓を打ち付ける音が五月蠅いくらいに降る雨の中では、如何に明るくて楽しみだった火でも呆気なく消されてしまうから。キャンプファイヤーは当然取りやめになった。高校生活3年間。苦労も笑顔も分かち合ってきた友人たちとの、最後のキャンプファイヤーの筈だった。
「最後の修学旅行なのに......」
クラスメイトが悲し気に呟いた。私もまったくもって同じ気持ちだった。雨雲の如く空気は暗く、皆沈んだ顔をしていた。
先生の話が終わって、その場は解散になって。皆はトボトボとそれぞれの部屋に帰って行く。私も同じように部屋に足を向けた。ぽっかり空いた空白の時間が悲しかった。
そんな時、突然右手が力強く掴まれた。
「この後食堂集合な!」
みんなもだぞ!そう言って彼は自分の部屋に向かって走り出した。その背中には皆のように沈んだ雰囲気は一つも無くて、クラスメイトは言われるがまま、無人の食堂に集まった。
「トランプしようぜ!ババ抜きだ!勿論罰ゲーム付きな!」
言い出しっぺの癖に一番最後に来た彼は、手に持ったトランプセットを高々と掲げてそう叫んだ。
思わず、笑ってしまった。だって、外はこんなに暗いのに、彼はあんなに明るく笑うんだから。
夜だから、少し落とされた橙色の照明に、ふわりと照らされる十人掛けの長机。一枚引いては喜びの声が上がり、一枚引いては悲鳴が上がる。笑い声が溢れて、とにかく楽しくて。いつの間にか沈んだ空気は何処にも無かった。
「どっちだ......?」
彼が真剣な顔で私の手札を凝視する。右手のジョーカーからは、あえて視線を逸らしながら私の胸はドキドキ、とうるさい。
——ずっと、こんな時間が続けばいいのに。
右のカードに手が伸びてきて、思わず零れる笑みを堪えて。私はそっと、祈ってしまった。