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猫の集会

作者: 窪宮彩

名古屋の地下鉄名城線の終点に、名古屋港と言う駅がある。

ここの駅の2番出口の階段を上ると、時々猫をみかけるのをご存知だろうか。

猫達は、階段の両端にいて、真ん中はどうやら人間の為に開けているようだ。

初めてこの光景を見たときはとても驚いた。

まるで集会を開いているようだ。

私は、生まれてこのかた犬を飼ったことはあるけれど、猫は飼った事がなくこんなに間近に見る機会はめったになかった。

だから、猫に対してどう接したらよいかわからないので、最初のうちはただ通りすぎるのが精一杯だった。

今日こそは猫に話かけてみよう。ふいにそんな考えが頭をよぎった。

やはり猫の世界でもいろいろ上下関係があるだろうから、一番のえらいボスに挨拶かな。でもボスってあの中では誰だろう。

そんな事を考えているうちに、いつのまにか2番出口の階段に到着していた。

階段を上りきると、猫達は、集会を開いていた。たぶん、奥にいる白い猫がボスだろうな。

「こんにちは、今日は集会ですか」私は、白い猫に話しかけた。

「そうです」白い猫は、私に特に驚くまでもなく淡々と返事した。

「いやぁ、前からすごくあなた達の事が気になっていてね。話かけようと思ったけれど、どうやって話かけてみようかと迷っているうちにいつも通り過ぎてしまっていてね。それで、ようやく話しかけてみる決心がついたのです」

「それはそれは、どうも」またもや淡々とした返事で白い猫は答えた。

「あのう、ちょっと見学してもよいですか」

私は勇気を出して言ってみた。白い猫は私をちらりとみて他の猫達に意見を聞いているようだった。

白い猫に黒い猫、灰色、しましま、ぶち、茶色、猫と言っても実にたくさんの種類がいるなと改めて感心してしまう。

「お客さん、見学オッケーです」白い猫が私に話かけてきた。

「ありがとう」猫の集会に参加できるなんて、うれしい。考えるだけでわくわくしてきた。

「え、では猫の集会始めます」白い猫が合図した。

「まずは、黒猫長老の挨拶から、オネガイします」

 あれっ、白ではなくて黒が偉いのか。

「みなさん、元気ですか?今日も一日頑張ろう!以上」

え、これだけ?話短か!でも挨拶は短いほうが、聞いている側としてはうれしいかも。

「黒猫長老ありがとうございました。では続いて、この街の風紀委員、しましまくんよろしく」

「はいっ」しましまくんは元気よく立ち上がりハキハキとした声で答えた。

「最近、挨拶をしない子供たちが増えてますね。僕を見つけても無反応な子供達ばかりで寂しい限りです」

「何が原因かと思われるかね?」黒猫長老が訪ねる。

「おそらく、スマホだと思われます。時代の流れと言われればそれまでですが、大人も子供も皆下を向いてスマホばかりに夢中でどうしたものかと思われます」

「ふむ。スマホね。わしもスマホ持っているから、夢中になる気持ちは分かるぞ。でも皆が下を向いているあの光景は何度見ても異常じゃな。せめて子供たちだけでもなんとかならんものかね」

「そうですね。どうしたものか」

猫達が一斉に悩み始める。

こんな事を話し合っていたとは!人間の世界の事まで心配しているなんて何て頼もしい存在なんだ!

「あっ、丁度今日素晴らしい人がいるではないか」白い猫が私を見て言った。

「人間のあなたから見て、この問題どう思うだろうか?」突然訪ねられて私はびっくりした。

大勢の猫達の目が一斉に私に注がれる。人間の目とは違い鋭い視線がこちらにそそがれて、ちょっとどぎまぎした。

どうしよう。急に意見を求められても、気の利いた言葉が浮かばない。手に変な汗が流れる。

困っている私の膝の上に突然一匹の茶色の猫がのってきて私に囁いた。

「思っている事を何でも言えばいいのよ。誰もあなたの意見を否定する人もいないし笑う人もいないから大丈夫!自信を持って!」

この猫は私の心の中が見えるのか。私は、人前で意見を言うのが非常に苦手だ。

よし!ようやく私は重い口を開いた。

「皆が下を向いてスマホに夢中になっているあの光景異常だと思います。子供達が挨拶しないなんてよくないですね・・・」まずい、言葉が続かない。いつもならここで誰かにばかにされる場面だ。

「素晴らしい意見をありがとう!」黒猫長老の絶妙な一言で救われた。

え?何もすごい事言ってないのに、でもうれしい。

「さて、今日の集会は、これでおしまい!今から、恒例の宴会に移るとしよう。素敵なお客さんもいることだしな」司会の白い猫が言った。ぞろぞろと猫達が移動を始めた。

「会場をご案内します。私について来て下さい」私は白い猫のあとに続いた。

 見慣れた地下鉄の構内に見慣れない扉が急に目の前に現れた。

「さぁ、着きました。あなたの好きな様にお過ごし下さい」白い猫はそういって私の前からあっという間にいなくなった。

すでに猫達の宴会は始まっており、そこには、お酒やおいしい料理(もちろん魚料理)が用意されていた。

人間の世界と違って好き勝手に始まって、料理やおしゃべりを楽しんでいる。こういう猫のきままなところは自由でいいな。

「一杯どうですか。この世界のお酒もおいしいですぞ」ふいに後ろから声をかけられた。黒猫長老だった。

猫の飲むお酒か。どんな味がするのだろう。そう思いながら私は、グラスに口をつけた。

何ておいしいお酒なのだろう。一口飲むと、また一口飲みたくなるくせになる味。グラスはあっというまに空になった。

2杯目をもらおうと一歩踏み出した時、足がふらついて、派手に転んで気を失った(ようだ)


「お客さん、お客さん」私は突然目が覚める。

気がつくと目の前には、駅員さんがいた。「こんな所で寝ていると風邪を引きますよ」

「あれ、猫達は?」

「ああ、もう集会終わったみたいですよ」

「夢なんですかね」

「半分夢で半分現実ですかね」

「実は私も昔、参加したことがあるんですよ

猫の集会に参加できるのは、かなりレアなんですよ。猫の性格のように実に気まぐれで、参加できたあなたはかなりラッキーです。近々よい事が起りますよ」

そういって駅員さんは満面の笑みを浮かべて立ち去っていった。

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