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報告

 昼食を終え、一息をつく。

 ずっと小屋を見ていたが、その間に流れ込む魔力の量に強弱はなく、一定量を吸い込み続けている。

 人だったらそんなに継続していられるわけでもないだろうし、十中八九魔道具なんだろう。

 問題は、その魔道具が分かりやすい形をしているかどうかである。


 調べたところ、魔導具は大まかに分けて二種類が存在しているようだ。


 一つは転移門のような、魔石を利用したものだ。

 魔石の系統と封じた魔術の系統が一致しなければ発動しないものの、それさえクリアしてしまえば外部からの魔力の補給なしに魔術を発動できる。


 もう一つは直接魔術陣を刻みつけるものだ。

 これは、外部からの魔力補給を必要とし、魔石を使うタイプや普通の魔術よりかは威力が劣るが、高価な魔石を手に入れなくともできる上、系統関係なく魔術を指定できる。


 どちらがいいかはその時々だろうけど。


「盗まれるようなものもないため、鍵はかけておりませぬ。どうぞ、お好きなようにお入りください」

「うんっ」

「ああ」


 リーヴルに促され、アオフリヒ様と小屋に入る。

 小屋の中は物が散乱しているものの、一定の規則に従って区画分けしてある。

 汚いが使う分には困らない、くらいか。

 リーヴルが中にいないうちに魔術陣が書いてあるであろう場所に向かう。

 魔術陣に吸いこまれる魔力はすでに魔術として判定されるからか、自分の技能が発揮されるようだ。

 思ったより当たり判定というか、効果範囲というか、そういうものが広いんだな。

 まあ、じゃないと魔術が見える意味がないんだろうが。


「リューゲ、そこに魔術があるのか?」

「魔術が、というか、魔術陣があると思うんですが……」

「認識系の魔術を使われているとオレには知覚できないかもしれないからな」


 積み上げられているからっぽの木箱や道具を退けつつ、アオフリヒ様の質問に答えれば、彼は無力そうに自身の頭を掻いた。

 下から彼の手を煩わせるつもりはなかったから問題ない。

 リーヴルが周囲の見回りを終えてここに来るまでに見つけておきたいんだが、さすがに中の詰まった木箱は動かせそうにない。


「これを動かしたいのか?」

「はい。でも中身が詰まってるみたいで――」


 重いので、と言葉を続けようとしてその木箱を視界に入れていると、その木箱が一瞬だけ揺らいだような気がした。

 この箱も魔術なんだろうか。

 いや、ただの箱は揺らぐはずもないか。

 とはいえ、魔術の解除は専門外だ。

 いくら魔術が見えると言っても、だからといって解除できるわけではない。

 この魔術が解除できさえすれば、わざわざ箱を退けなくてもいいと思うのだが。

 諦めてリーヴルを呼ぶべきか。


 いや、一応アオフリヒ様に報告か。

 彼の指示を待って、リーヴルを呼ぼう。

 正真正銘の年下に頼るのも、なんだか不甲斐ないが、彼は自分よりも聡明のようだし、なにより自分の勝手な判断で最悪の事態に……という事にはしたくない。

 ようは、自分で責任を負いたくないというわけだ。


「アオフリヒ様、この箱、魔術みたいです」

「内部にさらに魔術を仕込まれているかもしれないな。解析しないことには分からんが。とは言え、魔術の解除自体は容易い。オレがしよう」


 魔術陣自体も解除できるのではないだろうか、なんて思いつつ、彼に任せるために身を引く。

 爆発系だった時が怖いが、それらしい仕込みは外からでは見当たらないから、本当に重量と箱だけ再現したのだろう。

 触れることが可能なあたり、具現化させる系のものだろうか。

 重さすら幻覚なのだとしたら、魔力の消費は相当早いだろうな。


「アオフリヒ様は魔術の解除ができるんですね」

「まあな。オレは闇属性だからな。民衆からはあまり好かれていないようだが」


 ハハ、と諦観のにじむ声音で短く笑い声を上げる。

 そう言えば、彼の得意な打消魔術は魔術を分析して解除する類のものだったっけ。

 隠しイベントで彼と戦うことになったときは育成も気にしてなかったし、最初全然勝てなくてエンドコンテンツかと思ったくらいだしな。

 そうは言っても、むしろほかの人は誰もできないほぼオリジナルの魔術なのだから、もっと胸を張っていいと思うのだが。

 属性の名前が〝闇〟だからダメなのか?

 闇属性を司っているのは月の神フィスターだった気もするし、そんな感じの名前にすれば……いや、陽の神ディユが炎だからさすがに無理か


「よし、解除できた。それで? この先はどうすればいいんだ?」

「ええと、この辺に魔術陣が――」


 床にうっすら積もったホコリを払いながら、魔術師を駆使して魔力の流れの集積地を探す。

 油断したのか、どうやら認識阻害の魔術すら掛けていないようで、案外あっさり見つかることになった。


「これは……炎属性の魔術陣だろうな。リューゲはこれがどういうものなのか理解できるのか?」

「攻撃系魔術に分類されるものだろうとは思いますが、詳しいものまではなんとも」


 視てというよりも、色や文字、流れから推測するに、この魔術陣には機能が二つある。

 一つは周囲から一定量の魔力を吸収・蓄積する魔術。

 もう一つは、ある条件――今回の場合は、魔力が一定値まで蓄積されること――を満たしたときに、溜めた魔力をすべて使用して発動する仕組みだ。

 魔術陣自体見る機会は早々ないが、数学の文字式や呪文のような文章ではなく、回路図によく似ている。


「とはいえ、すぐに発動するものではないようなので、数年――三年くらいなら待っても問題はないかと」


 魔術視で視て分かった、ということにしておこう。

 本当はひねり出した前世の知識なんだが。というか、この小屋は高床式じゃないんだな。

 理由は永久凍土地域ではないからなんだろうが、今後またそういう事が起こりうるのであれば、床の位置を上げるのは悪くない選択肢だろう。


「――と思うんだが⋯⋯どうした、上の空のようだが?」

「別のことを考えてて聞いてませんでした⋯⋯」

「仕方ないな。もう一度言うが、とにかく、この魔術陣はオレたちの手に余る。リーヴルを呼んで知らせ、今後の方針は伯爵に一任しようと思うんだが、構わないか?」


 自分の態度に深くため息を吐いたアオフリヒ様は、もう一度、丁寧に考えを伝える。

 確かに、自分たち子供のみではできることが限られているし、そのことに関しては異論ない。

 間にリーヴルを挟むというのも悪い手ではないだろう。

 ただ、リーヴルに知らせてから父上が対応を取るまでの間に時間が経てば立つほど対処は難しくなるだろう。

 それに、これを仕掛けた人に勘付かれては困る。

 仕掛けを撤去してくれるならまだいいほうだが、予定を早めるなんてなったときには今後の予定が総崩れになってしまいそうだ。


「異論ありません。外でリーヴルを呼んできますね」

「任せた」


 とはいえすべて杞憂だろう、なんて思考で片付け、アオフリヒ様を中に残してリーヴルを呼びに行く。

 小屋の外へ出ると、たまたまリーヴルが扉の近くにいたようで、リューゲ坊、なんて話しかけた。


「何か御用ですかな?」

「えっとね、へやのなかになんかこう、しかくのもよう? みたいなのがあったから、リーヴルになにかきこうとおもって」

「四角い模様ですか……見てみないとわからないので、案内していただけますかな?」


 自分の報告に、少し険しい表情をしたリーヴルは、すぐ笑顔に戻る。

 こういう咄嗟に表情を取り繕って心配を与えないようにするのは上手いんだよな。

 そういう咄嗟の態度というのは、将来のためにも見習わないと。

 まあ、元日本人の記憶を駆使すれば余裕そうだが。


「リーヴル、こっちだよ」


 彼の手を引き、魔術陣の目の前まで連れてきた。

 床には変わらずその魔法陣が存在し、周囲の魔力を一定量吸い込み続けている。

 あとはもう大人に全て任せるべきだろうな。

 もちろん、アオフリヒ様がギリギリまで関わっていたいというのであれば話は変わってくるだろうが。


「リーヴル、これなぁに?」

「これは魔術陣というものでございます。ここに描いてある内容が、発動する物事を示しておりまして、そこからここまでで温め、ここからここは魔力を溜め込むのでしょう。残りが……周囲から継続的に魔力を吸い取る、といった具合です」


 指で回路をなぞりながら、リーヴルは魔術陣を細かに読み解く。

 なるほど、そうなっているのか。

 アオフリヒ様と共に、思わず感嘆の言葉を漏らす。


「アオフリヒ様、リューゲ坊。この魔術陣のことを伯爵に教えても構いませんかな?」

「いいよ」

「ああ」

「感謝いたします。それと、そろそろよい時間となりますから、屋敷へとお帰りになられてはいかがでしょうか」

「よるごはん! たしかにちょっとおなかすいたかも?」


 小屋の扉を開きながら伝えられた提案に、ふと空腹を感じる。

 外は夕方というわけではないにせよ、昼食を食べたときよりかは確実に日が傾いている。

 リーヴルはそれ以上に、なぜあるのかわからない魔術陣が設置されている小屋から自分たちを遠ざけたい、という心境があるのだろうが。

 仮に自分がリーヴルの立場であれば、いくら悪い噂のある次男とは言え、判断ミスで危険に晒せば自身も解雇されるかもしれなくなってしまう。

 それに、今回の場合は自分だけではなく、第二王子もこの場にいるのだから、解雇程度では済まなくなる。

 早めに危険から遠ざけたいと思うのも当然の心理だろう。


「アオフリヒさま、今日のよるごはんはなんでしょうね」

「きょうはたくさんあるいたからな。にくがいい」

「おそらくまだ準備を始めたばかりでしょうから、料理長へそのように伝えておきましょう」

「えっ、ほんと? ありがと!」


 アオフリヒ様の要望に同意をしていると、リーヴルがにこやかに提案をする。

 こんな急な料理の変更も文句なく聞き入れてくれることを考えると、貴族というのはやはり権力のある存在なのだと感じる。


「使役獣よ、姿を現せ」


 リーヴルが自身の懐中時計に向かって短く詠唱のようなものを唱えてから手を前に出す。

 すると、彼の腕から少し離れた空中に魔力が凝縮し、そこから猛禽類の鳥が出現した。

 タカのような、そうじゃないような……。

 リーヴルはどこからかメモとペンを取り出すと、タカの足についた小さな筒にそのメモを小さくまるめて入れ、何かを指示して屋敷の方へと飛ばした。


「リーヴルすごい」

「しえき……いや、しょうかんまじゅつか?」

「その通りでございます、殿下。それでは、屋敷に戻りましょう。到着したら彼を紹介いたします」


 魔法のような――本当に魔術ではあるのだが――一連の動作に手放しで褒める。

 アオフリヒ様の質問に肯定したリーヴルは、屋敷へと促した。

 とはいえ、飛ばした状態で移動してもいいのだろうか。

 まあ、ただのタカではなさそうだし、問題ないんだろうけど。


 にしても、召喚魔術かぁ。

 異世界ロマンの一つであると勝手に思っているし、使ってみたい気持ちもあるが、自分にはどうせ無理だろう。

 原作のリューゲができなかったのだから、自分にできるはずがない。

 そう言えば、魔術は基本貴族しかできないはずだけど……リーヴルって貴族だったんだっけ?

 まぁ、それもそのうちわかるだろう。

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