7 綿毛の友情
三歳の誕生日を過ぎ、春になると、ハイトは幼児学級に通うことになった。今までシルビアやローズの庇護下にあり、リリーとは片時も離れずにいたが、ついにその殻を破って同じ歳の子供達と触れ合うことになる。だが、最初のうちは振る舞い方が分からず、通園してもただ与えられた席で石のように固まってちょこんと座っているだけだった。そんなハイトとは対照的に快活な子もいる。ハイトはそうした子に誘われて一緒に遊ぶようになり、他者との関わり方を覚えていった。笑顔で帰ってくることも増え、その日の出来事をシルビアやローズによく話した。家では大人に囲まれて過ごしているせいか物静かな振る舞いが目立つが、幼児学級に通うようになってから目覚ましく運動神経が開花し、誰もが驚くほどめいっぱい体を動かして遊んだ。
天気のいい日にはみんなで園庭に出て遊ぶ。園庭の周りにはたんぽぽの綿毛があちこちに繁っていた。ハイトは得意の雲梯に興じていたが、ふと園庭の隅っこで女の子が一人でしゃがみ込んでいるのを見つけた。彼女は綿毛を摘み、ふっと息を吹きかけて飛ばしている。ハイトもそちらへ駆けていき、足元の綿毛を一本摘み取って彼女に差し出した。
「これも飛ばしてごらんよ」
ハイトがそう言うと彼女は怯えた目をして首を横に振った。ハイトはもう一本綿毛を摘み取る。
「一緒に飛ばそうよ」
そう言って再び綿毛を差し出すと、彼女は恐る恐る手を伸ばし、ハイトから一本綿毛を受け取った。
ハイトはふっと息を吹きかけて綿毛を飛ばす。綺麗な青空に小さな綿毛がふわふわと飛んでいく。それを見た女の子もハイトの隣でふっと息を吹きかけて綿毛を飛ばした。ハイトの飛ばした綿毛を追い掛けるように、彼女の綿毛も飛んでいく。
「こっちにもあるよ」
と、ハイトは綿毛のある方へ女の子を連れていった。黄色いたんぽぽに混じって白い綿毛が丸く可憐に揺れている。二人は一本ずつ綿毛を摘んで、また一緒に飛ばした。二人の綿毛は空の中で交わって、追い掛け追い越し風に乗って飛んでいく。二人は顔を見合わせて微笑んだ。
二人が綿毛で遊んでいるのを見て、他の園児も綿毛で遊び始めた。園庭の綿毛は幼い子達の手によってあたたかな風に乗り、遥か遠くへ飛んでいく。幼児学級へ入学したばかりの子供達の前途を、明るく導くように。
今まで親交のなかった二人はこの日初めて友達になり、よく遊ぶようになった。雨の日は絵本を読んだり折り紙を折る。晴れの日は花を観察したり砂場で遊ぶ。ハイトは体を動かすことも好きだったが、彼女との静かな遊びも好きだった。