6 雪降る誕生日
秋から冬へ、季節は寒暖を繰り返しながらゆっくり進んでいった。陽の射す時間も日ごとに短くなる。ハイトは外に出る度に落葉や木の実に夢中になり、ポケットや掌にそういったものを忍ばせた。喋ることも上手くなり、言葉でのコミュニケーションも取れるようになった。
本格的な寒さが町を包み、初雪がちらちら降る頃、ハイトは初めてシルビアの元で誕生日を迎えた。一月一日。新しい年を迎える日でもある。この日をもってハイトは三歳になった。夕食後、シルビアとローズが用意したお祝いのケーキを見て目を輝かせた。
「おいしそうだねぇ、リリー」
傍らのリリーに話し掛けるとローズは笑った。
「ハイト坊っちゃん、リリーちゃんは猫ですからケーキは食べられませんよ」
「そうなの?」
「そうですとも」
「ざんねんだねぇ、リリー」
リリーは特別残念でもなさそうにテーブルから離れ、暖炉前で椅子に座るシルビアの膝に乗った。シルビアはリリーを撫でながら笑う。
「君にもお祝いのおやつを用意しているよ、リリー。君も大きくなったね」
「そうですね。二人共大きくなりました」
ローズは切り分けたケーキをハイトの前に置いた。ハイトは行儀よく「いただきます」と言ってケーキを食べ始める。
シルビアは膝で寛ぐリリーに内密な話でもするように小声で言った。
「君の主人はとてもいい子だね。賢くて優しい子だ」
リリーも小声で「にゃあ」と鳴いて答えた。毛並みに沿って掌を這わせるとリリーは気持ちよさそうに目を閉じる。シルビアは尚も小声で呼び掛けた。
「君達が何者なのかは私には分からない。ただ、君達はもう私達の大切な家族だ。誕生日おめでとう、リリー」
リリーは喉の奥で微かに声を立てて返事をした。
その後、寝かしつけの時間にシルビアはハイトの部屋へ向かった。誕生日と年明けが同時にやってくる特別な日の夜、リリーはすやすや眠ってしまったが、ハイトはカーテンに透ける雪明りを見ていた。シルビアは前もって用意していた純白のミサンガを二つ、ハイトに手渡した。一つはハイトの分。もう一つはリリーの分だった。まじないが掛かった証である星屑のような煌きが宿っている。ハイトはミサンガを見て目を輝かせた。
「きれいだねぇ。これ、くれるの?」
「ああ。お誕生日のお祝いだよ。ハイトとリリーにたくさんの幸せが訪れるように、おまじないを掛けて編んだんだ」
ハイトはミサンガを乗せた小さな掌を大事そうに胸に当て、その祈りを感じ取った。
「おまじないって、あったかいねぇ」
まじないの温もりはちゃんとハイトに届いているのだった。
窓の外にはミサンガと同じ純白の雪がしんしんと降っている。やがて眠ってしまったハイトの体に布団を掛け、シルビアはそっと部屋を出た。