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まじない師譚  作者: すえのは
第1章 カイングネイトのみなしご
5/5

5 感謝の写真

 ハイトは開いたページを見つめ、気になる絵があると指を差しながらノノハを見上げた。ノノハはそれに応じて語り掛ける。

「ブタさん、石鹸を食べて口から大きなシャボン玉を出してるね。綺麗なシャボン玉だわ」

 ノノハは更に話を広げる。

「私、この綺麗なシャボン玉大好きなの。触ったらどんな感じなのかな。ハイト君、どう思う?」

 ハイトは首を傾げてちょっと考えた後、手を二三度ぱちんぱちんと叩いた。『触ったらシャボン玉は割れちゃうよ』そう言いたいらしかった。それを汲んでノノハも頷く。

「そうよね。シャボン玉って触ったら割れちゃうわよね。でも、一度でいいから触ってみたいなぁ」

 そんな話をしながら最後まで読み終えると、ハイトは別の絵本も読んでもらおうと思ったのか、ノノハの膝から下り、本棚のある隣の部屋へ行こうとした。その時、テーブルの上に昨日編んだオレンジのミサンガが置かれているのを見つけ、はたと足を止めた。両手で持っていた絵本をテーブルの上に置き、オレンジのミサンガを持ってノノハの元へ駆け戻る。上手く言葉を話せないハイトはミサンガを掲げて何かをノノハに訴えた。

「ああ、ハイトも一緒にそのミサンガを編んだんだよな」

 シルビアが通訳する。ノノハは笑みを浮かべてハイトを見た。

「そうなの? すごいわね、ハイト君。こんなに綺麗なミサンガを編めるなんて」

 ハイトはノノハにミサンガを渡した。言葉は話せなくても『どうぞ』をすることはできる。

 ノノハはハイトの小さな手からミサンガを受け取り、じっと見つめた。

「……ありがとう。大事にするわ。――早くおばあちゃんにも着けてあげたいな」

 そう言ってノノハは切なく笑った。

 ミサンガの引き渡しも済み、帰路に就く彼女を見送るために外へ出ると、秋の夕日が空を赤く染めていた。風が冷たかった。

「肌寒いな。もうすぐ暗くなるから気を付けて帰るんだよ」

「はい。本当に、ありがとうございました」

 ノノハは丁寧に礼を述べ、色鮮やかな夕景の中を帰っていった。

 その後、彼女の祖母は余命を超えて一年ほど生き、天国へ旅立ったという。その際、ノノハはオレンジのミサンガを着けた祖母とのツーショット写真を添え、シルビアに感謝の手紙を出した。写真は例の書斎で撮られたもので、二人とも穏やかな笑顔を浮かべていた。ミサンガの煌きが増しているのは気のせいだろうか。

『祖母は天に召されるまで幸せに穏やかに暮らしました。シルビアさん、そしてハイト君。私達を見守ってくださって、ありがとうございました。』

 手紙にはそう書かれていた。

 シルビアは写真を額に入れ、家族写真を飾っている居間の壁に、その写真を飾った。

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