4 思い出の絵本
まじない師によって得意なまじないや苦手なまじない、まじないを掛けやすいものや掛けにくいものは色々ある。シルビアはルビーやエメラルドなど鉱物を使った呪術が得意だが、ハイトは糸を使った呪術が得意のようで、純真なまじないがよく馴染んだ。ただ、ミサンガを編む地道な作業は幼い子にとって決して面白いものではない。五分もするとハイトは飽きてしまい、シルビアの膝を下りて他のおもちゃで遊び始めてしまった。シルビアは苦笑いをして続きを編む。ノノハと祖母、二人の時間が穏やかであるように祈りを込める。その祈りが輝きになり、編地の上に宿る。ちょうどノノハ達のツーショット写真で見たこがね色の輝きが編地にも移ったようだった。
二つ編み上げるのに時間は掛からない。夕飯が出来上がる前にミサンガは編み上がった。明日、ノノハに渡すまで小箱に入れて大切に保管する。
夜、眠る時間になるとハイトは子守りを務めるローズの寝かしつけで眠りに入る。隣にはリリーもいる。こちらは寝かしつけなしで勝手に眠ってくれる。シルビアが様子を見に行くとハイトはすでに眠っていた。ローズはハイトの額を撫でながら言った。
「この子達は神様からの贈り物なのかもしれません。不思議なご縁でこの家に来てくれて……。毎日成長を見るのが楽しみです」
「せっかくこの家に来てくれたんだ。幸せに育ててやろう。リリーともそう約束した」
シルビアがそう言うとローズは二度三度重ねて頷いた。秋の夜は肌寒くどこか心細さを覚える。ローズはハイトとリリーの体が冷えないよう、顎の下まで毛布を掛けてやった。どんな夢を見ているのだろうか。二人は穏やかに眠っていた。
翌日の夕方、仕事帰りのノノハがミサンガを受け取りに再訪した。テーブルの上にはまじないの煌きを抱いた二本のミサンガが置かれている。ノノハはそれを見て感嘆を漏らした。
「綺麗……。あたたかい色ですね。きっと祖母も喜んでくれます。ありがとうございます」
ミサンガの引き渡しをしていると、ハイトが絵本を持ってシルビアの足元にやってきた。『読んで!』と絵本を掲げて縋る。それは、シルビアが幼い頃に読んでいた古い絵本だった。
ノノハはその絵本を見て顔を綻ばせる。
「石鹸を食べちゃうブタさんのお話ね。私もその絵本、大好きだったよ。懐かしいなぁ」
ノノハは中腰になってハイトに言う。
「その絵本、私が読んであげようか」
ハイトはすぐさまノノハに絵本を渡し、彼女を壁際のソファーに座らせ、自分はその膝の上に乗った。
「ハイト、いきなり人の膝の上に乗ってはいけないよ。――すまないな、我儘な子で」
シルビアは冷や冷やしながらノノハに謝った。彼女は笑って首を横に振る。
「いいえ、平気です。私も小さい頃、おばあちゃんの膝の上で絵本を読んでもらってましたから」
そう言ってノノハは絵本を開き、読み聞かせを始めた。二人の姿を見ているうちにシルビアもローズに読み聞かせをしてもらった幼少の頃を思い出し、懐かしさに誘われた。シルビアも椅子に座ってハイトと一緒にノノハの語りを聞かせてもらうことにした。