2 同居の始まり
引き取った男児は至って普通の子供であった。誕生日も年齢も分からないので医者に意見を求めると、おそらく二歳半くらいだろうとのことだった。シルビアが引き取るまで一ヶ月間施設で過ごしたが、そこでの生活も奇態な点は見られず、発達も問題なかったという。誰も教えていないのにおもちゃやおやつを周囲の子達に分け与えるということをしていたらしいので、やはり慈悲深い子であるらしかった。この男児が持つまじない師に適した独特のオーラから素性を割り出せないかと思ったがシルビアにも思い当たる節はない。手掛かりを求め方々便りを出したもののやはり男児を知っている者はいなかった。施設にいる間、男児に関して分かったことはただ一つ。舌足らずながら本人が名乗った『ハイト』という名前だけであった。また、施設から引き取って家に連れ帰った際、男児は再会した子猫を「リリー、リリー」と呼んで抱きしめた。彼らの名前は分かったが、それ以外、分かったことは何もない。
かつてシルビアの子守りを務めたローズは久々に幼い子の面倒を見るに際し、気合いが入っていた。
「かわいいですねぇ。幼い頃のシルビア様を思い出します。きっとこの子もいい子になりますよ。ねぇ、ハイト坊っちゃん。この家に来てくれてありがとう。本当に嬉しいわ」
そう言ってハイトを膝に乗せ頭を撫でる。白猫リリーはすでにシルビアにもローズにも懐き、しばしば二人の膝に座って寛いだ。家族が二人増え、シルビアの家は賑やかになった。
ローズは仕舞い込んでいたおもちゃや育児用品を引っ張り出し、使えそうなものは手入れをした。ハイトの小さな手がシルビアの使っていた古いおもちゃを握る。セピア色に染まった思い出が息を吹き返すように鮮やかな色彩を取り戻す。ハイトの何気ない仕草は、シルビアやローズに熱い旧懐を呼び起こした。
ハイトを引き取ってから三ヶ月後、再び医師の診察を仰ぎ、改めて月齢を推測してもらった。やはり前回の推測と違わず、今は三歳前であろうと言われた。年を越すか越さないか、そのあたりの時期が誕生日なのではないかとのことだった。それを踏まえ、シルビアはハイトの誕生日を一月一日にした。ハイトと共に保護したリリーも、分かりやすいように同じ誕生日にする。それを聞いてローズは喜んだ。
「ハイト坊っちゃん、リリーちゃん、お誕生日が決まってよかったですね。お祝いするのが楽しみだわ」
この時、ハイトにはまだ誕生日という概念がなかったのかもしれない。きょとんとした顔でローズの顔を見る。リリーは理解したのだろうか。少し鼻をひくひくさせて、ハイトと一緒にローズを見つめた。