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まじない師譚  作者: すえのは
第1章 カイングネイトのみなしご
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1 みなしご

 六月初旬のよく晴れた朝、カイングネイトの町に一人のみなしごが現れた。ほんの二、三歳くらいの男児で純白毛長の子猫を抱き、広場の裏路地に一人で座り込んでいるところを近所の住人に発見され、巡査に保護された。どこの家の子供なのか分からない。町民誰一人として男児や子猫のことを知らないので、普段から町の世話役として頼りにされているまじない師のシルビアが駐在所に呼ばれ、男児と対面した。黒目が大きく頬もふっくらとして可愛らしい子であった。子猫はやけにすましてシルビアを見ている。男児と目が合った瞬間、シルビアは彼の瞳に宿る独特の輝きに目を奪われた。目の輝きにはその人のオーラが宿る。恨み募った禍々しい濁りから疑いを知らない愛の輝きまでオーラの種類は多岐にわたる。シルビアはまじない師なのでまじないの資質がある人のオーラをすぐに見抜く。ガーベラの花弁のように放射状に伸びる男児の虹彩の輝きには、生来から人を恨むことのできない、可哀想なほど深く心に根付く神々しい慈悲のオーラを感じた。まじないの資質が宿っている。不思議な出会いだった。

 年老いた巡査は帽子を取って目を揉み、突然現れた身元不明のみなしごに頭を悩ませて溜め息を吐いた。

「家族も見つかりませんし、この子はまだ言葉も話せません。手掛りも何もありませんし、このまま家族が見つからなければ保護施設に預けるしかありませんな」

 巡査はそう言うが、シルビアはしばらく黙って考えた。男児はやや大きめの半袖シャツとハーフパンツを履き、靴は履いていない。髪は艶やかだが櫛を通していないので乱れている。子猫を抱いている以外持ち物はないようだった。子猫はシルビアを見定めるように尚も凝視している。シルビアは身を屈めて子猫に目線を合わせた。

「やぁ、はじめまして。私はシルビアだ。君達は誰なんだい? どこから来た? ずいぶん不思議なオーラを纏っているね」

 子猫は一つ瞬きした後、シルビアが差し出した掌に人懐こく鼻や頬を擦り付けた。シルビアは微笑んで言った。

「かわいい子達じゃないか。引き取り手がないのなら私が引き取ろう。……ただの子供ではないようだ」

 唐突な申し出に巡査は不安を募らせてシルビアを見た。

「……シルビア様にお任せすれば大丈夫なのでしょうが……素性の知れない子供をいきなり引き取るのは無謀ではありませんか。突然家族が現れるかもしれませんし……何があるか分かりませんぞ」

「家族が見つかるのならそれに越したことはない。すぐに引き渡すさ。……だが、それまでちょっと近くで様子を見ていたい」

 巡査をはじめ、駐在所に集まった人々は顔を見合わせ相談を始めた。結果、一旦保護施設に預け、一ヶ月経っても家族が現れなかったらシルビアに託すことに決めた。

 シルビアはその間に男児を迎える準備を整えた。男児の子守りは昔からシルビアの面倒を見てきたローズという五十路の女性と共に行う。保護施設に猫は預けられないので子猫は一足先に引き取ったが、男児と離されて落ち着かない様子だった。

「君からあの子を取り上げてしまってすまないな。またすぐに会えるから、少しだけ待っててくれ」

 シルビアがそう説得すると子猫は納得し、男児の代わりを求めてか、シルビアの膝の上で安らぐようになった。

「心配はいらないさ。私のところへ来てくれたら、君達のことは必ず幸せにする。寂しい思いはさせないよ」

 美しい純白の背中を撫でると子猫は気持ちよさそうに目を閉じた。

 それから一ヶ月間、家族が現れるのを待ったが、男児を迎えに来る者は誰もなく、彼はシルビアに引き取られることになった。

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