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6 詰められる距離

うちの別邸には馬車は1台しかないので、ロイ君が通学する時に同乗して、アカデミーにロイ君を降ろしたら、そのまま公爵邸へ向かう。


エルディを連れてきてもいいと言われていたし、おそらく公爵は犬大好き人間なので、今日はエルディも一緒に乗っている。


私一人だと間が持たない可能性が十分にあるので、そこにいるだけで場を和ませてくれるエルディがいれば私も安心である。


前回は公爵に狼藉を働いたエルディだが普段は非常におとなしい子なのでもうあんなことはないだろう。

万全を期して今日はリードもつけているから、もし走り出しても制御できるだろうし。


今日は執事のポールさんが出迎えてくれて、大きい窓が並ぶ陽当たりの良いお部屋に通された。ゆったりとした椅子に腰掛けた公爵がにこやかに声をかけてくれる。


「おはようございますマリエラ嬢。私のわがままを聞いてくださってありがとう」


「おはようございます公爵様。とんでもないです! お招きいただきありがとうございます! 先日はご無理をさせてしまって……お怪我は大丈夫ですか?」


「動きづらいだけでたいしたことはありませんよ。座ったままですみませんが。ああ、今日はその子も来てくれたんですね」


エルディは自分の方を見て話しかけられたのでワンッっと一声あげて返事をした。今日は冷静そうでなによりだ。


「ご紹介がまだでしたが、エルディです。私の最愛のパートナーなんです」


「よろしく、エルディ。マリエラ嬢にそこまで想いを寄せられていてうらやましいな」


公爵が軽口をたたきながらこちらに手招きをしたので、膝元までエルディをつれていく。


「ふふっ、かわいいですね。マリエラ嬢のパートナーだけあって、マリエラ嬢とエルディはよく似てます」


似てる? まあ私とエルディは毛色はそっくりだし目鼻立ちの雰囲気も似てるとはよく言われるから、お姉様やロイ君よりもどちらかと言うとエルディに似てるのかもしれない。


公爵はエルディをワシャワシャなでて、エルディもされるがままになっている。

エルディも公爵のことが好きなのか撫でられながらしっぽがブンブンしている。


しばらくそんな感じでほのぼのしていたが紅茶が運ばれてきたので、ティータイムになった。執事さんがエルディにも水を出してくれてありがたいが、容器が繊細な作りのスープ皿だったので割っちゃわないか少し心配だ。


「では、マリエラ嬢はこちらにしばらく滞在されるんですね。急なお願いだったのでなにか不便はないですか?」


会話していると、私の宿泊先を心配されたので、今別邸に滞在していることを伝えた。


「いえ、先日まで私もそちらに住んでいたので、むしろ実家から帰ってきたような気分です」


もう学校には行かない身なのに出戻ってきたのはなんとなく肩身が狭いが。


しかし、お茶菓子で出されたアップルパイがものすごくおいしい。外側がサックサクでバターの香りがフワッとして、中のリンゴも酸味と甘みが絶妙なバランスである。


「もう一切れいかがです?」


夢中になって食べてたら、公爵がカットされたアップルパイをもう一つ用意してくれた。


おいしさのあまり、がっついてしまったのは恥ずかしいが是非いただきたい。


もう少しでお昼だが、朝はまだ帰りの予定がわからなかったので昼食の用意はとりあえず大丈夫と伝えてあるし、ちょっと食べ過ぎても大丈夫なはず……


公爵とお茶を飲みながら、お互いにとりとめのない話をしていた。公爵は話上手だし、私の言うことも興味深そうに聞いてくれて、とても楽しい時間だった。


「私、お父様と弟と邸の者くらいしか男性とお話したことがなかったので、ここに来るまでは少し緊張していたんですが、公爵様がお優しい方なおかげでそんな心配は無用でした」


「私も女性と話す機会はほとんどなかったので、ちゃんとおもてなしできるか心配していたんですが、そう言ってもらえると嬉しいです」


人気がありそうな人なのに意外である。


「それに、私の家族に不幸が多かったので自分に色々と悪い評判があるのも知っていますから。それが原因であなたに怖がられたりしないかが不安で」


一瞬だけ公爵の目が信じられないくらい昏くなった気がしたがすぐに朗らかな光が戻った。


「でも、あなたがあたたかい笑顔で私に楽しい話を聞かせてくれて本当に感動しました!」


公爵は照れたように笑って、近くにいたエルディをまたワシャワシャなでた。


「それと、先日は突然結婚を申し込んだりしてすみませんでした。マリエラ嬢とはすごく気が合いそうだと思ったので他にお相手が現れる前に、と急いでしまって」


「いえ、驚きはしましたけどもったいないお話です」


「でも、まだ数時間ですがあなたと一緒にいる時間はすごく心地良い。良かったら怪我が治るまでの間だけでも私の友達になってくれませんか?」


期間限定の友達くらいなら私にも務まりそうである。なにより私は稀に見る超暇人だ。


公爵のお友達ともなると多忙な人が多そうだが、私はスケジュールが常に空いているので、療養中の暇つぶしにはぴったりな人選だろう。


「私でよければ喜んで! 少し恐れ多いですが嬉しいです」


「良かった! ところでマリエラ嬢は友人からなんて呼ばれてるんですか?」


「家族友人からは大体マリーですが」


「ではマリー、友達になったからにはお互い他人行儀な呼び方はやめましょう。私のこともサイラスと呼んでください」


「えっ?」


「いや、やはり何か愛称があった方がいいか」


「いいえ! 是非そのままで!」


ぼそっと公爵がつぶやいたが。名前呼びもハードルが高いが、友人宣言した以上はそこらへんは仕方ないか。


「えーと、サ、サイラス・デュラン公爵様」


「呼び捨てでいいですって。なんで親しさが正式名称まで遠ざかってるんですか」


「サ、サイラス様」そういえば身分どうこうの前に、異性と名前を呼び合って会話するみたいなのははじめてなので緊張する。


「フフッ、友達って感じですね」


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