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番外 すれ違う王子 前編

サイラス様と結婚して初めての年明けを迎えて、今日は新年祭だ。


今日着ているのは少しフワッとした生地が何層にも重ねられた柔らかい印象のドレスだが着てみると驚くほど軽い。サイラス様が贈ってくれる洋服は私が独身時代に着ていた服と材質が全然違う気がするのだが、布でできているという点では同じ物なはずなのに不思議。


今日は私の衣装が淡い黄色がベースのちょっとかわいい色なのでお揃いにはしていないが、サイラス様が着ているチャコールグレーの上着の胸ポケットにはドレスの色と合わせたチーフが飾ってある。


お互いの色もなにか入れようということで、私の髪に淡いグレーのリボンが編み込まれて、サイラス様の首には焦げ茶のタイが結ばれているのを見ると顔がふにゃふにゃににやけてしまう。


パーティが始まる前、王城の小広間に新年を祝う祭壇が置かれていたので二人で見て回った。新年の縁起物というか、新しい年への祈りを込めるケヤキで作られたオーナメントがたくさん飾ってある。年末年始の教会などではおなじみの装飾なのだが王城はやっぱりスケールが違うというか、祭壇に整然と並べて吊された美しい細工品に、一緒に飾られているガラスの装飾が光をキラキラ反射させて透明な影が散っている。宗教画にしたいような美しさだと思う。


「すごく綺麗ですね。天使様が降りてきそう」


「ええ。今まさに降臨してますね」


たまにサイラス様の目には私には見えないものが見えているみたいで少しうらやましい。


サイラス様によると天使様がいらっしゃるらしいので、サイラス様やエルディたちと一緒に平和で楽しい一年を過ごせますように。と祭壇でお祈りしておいた。


夜会が始まり、陛下と王太子の挨拶の後で王太子と王太子妃がダンスを踊る。二人ともすごく上品かつ華やかで見とれてしまう。


王太子たちのダンスが終わって二曲目が始まるタイミングでエレノアお姉様とアラン王子も優雅に中央へ進みでた。何組かの男女がそれに続くと、サイラス様がにこやかに私の手を引いてくれて私たちも踊りの輪に入った。


「私の贈ったドレスを着たマリーが私と踊ってくれる。結婚していれば当たり前のことなのかもしれませんけど、いつもこの瞬間がたまらなく嬉しいんです」


音楽に合わせてサイラス様と踊っていると、はにかみながらそう言ってくれた。サイラス様のこういう発言は未だに心臓に悪いくらい私をドキドキさせる。サイラス様みたいに気の利いた表現はできないけど、私もサイラス様のすぐ隣にいられるのがすごく嬉しい。


ダンスの後に会場の端で一休みしているとがっしりした体格の中年男性が話しかけてきた。


「あの、公爵夫人。少しよろしいですか?」


制服を着ているし王宮の人っぽいが、誰だろう?


「ウェズビーか。近衛騎士が私の妻に何の用だ?」


サイラス様はこの人を知っているみたいだ。近衛騎士さんならたしかに私とは縁が薄いと思うけども。


「ぶしつけにお声がけしてしまい申し訳ございません、閣下。奥方様とはお初にお目にかかりますが、私は近衛騎士団副師団長のウェズビーと申します。王族の方より奥方様においでいただくよう仰せつかりお声がけいたしました」


「エレノアお姉様が私に何かご用かしら」


王族で私に用がある人なんてお姉様以外まずいないだろう。ダンスが終わってしばらくするとエレノアお姉様たちは一度中座したので、今日はまだお姉様とはお話できてない。


「そのように伺っております」


「そうか。では妃殿下のところへ行きましょうか、マリー」


サイラス様がつないだ手を少し引いてくれると、ウェズビーさんがちょっと慌てた様子になった。


「申し訳ございません、閣下。奥方様だけをご案内するように指示を受けておりまして」


「なぜ? 私がいたら不都合でもあるのか」


「申し訳ございません。理由は私にはお聞かせいただけませんでした」


重ねて謝っているウェズビーさんだが、私と一緒にいるときのお姉様は王子妃というより私のお姉様だから、ちょっとゆるい感じな姉妹での会話をサイラス様に聞かせるのがはばかられるのかもしれない。


「ふふ、お姉様はちょっとそういうところがあるんです。それじゃあサイラス様、少し行ってきます。すぐに戻りますね」


この時サイラス様が心配そうに手を伸ばしてくれたのだけど、待っているのがお姉様と聞いて私は特になんの懸念もなくウェズビーさんについていった。のだが




「よく来てくれたね、デュラン公爵夫人」


え、誰? 案内された部屋で、偉い人オーラをまとった男性に話しかけられた。どちら様なのかお姉様に教えてほしいが、今のところ室内にいるのはこの人だけだ。


「お姉さ、いえ、エレノア妃殿下が私をお呼びだと聞いたのですが」


「悪いが君のお姉さんが呼んでいるというのは嘘なんだ。私はエリック・エラーレン・グレイシャール、この国の第二王子だ。君と少し話がしたくって」


アラン王子のお兄さんだったとは! 話があるなら普通に呼んでほしいのだけど、なんでまたお姉様の名前を使ったりしたんだろう。知らない偉い人に謎に呼び出された上に心の準備もできてないのですごく混乱する。


「あの、私はサイラス・デュランの妻でマリエラ・デュランと申します。殿下とは初めてお会いいたしますが、私に何かご用事でしょうか?」


自己紹介をすませて用件を聞くと、王子はなんだか暗い表情になってしまったがすぐに気を取り直したみたいに話し始めた。


「私を見てなにか思い当たることはないかな? 私はある事件からずっと君を探していたんだ」


どうしよう。思い当たることが全くないし、絶対にお会いしたこともないと思う。ある事件? 王子自らなにかの事件の捜査でもしているんだろうか? まさか私、知らぬ間になんらかの事件に関わっていたとか。ただそれに関しても心当たりは皆無だ。


「申し訳ございません。私には心当たりが」


「なぜしらばっくれるんだい? もっとストレートに私が命を狙われた時の件といえばいいのかな」


え!? 王子の命を狙った? 私がそんなことに関係しているなんて絶対になにかの間違いだ。当たり前だけど私はそんなだいそれたことをする人間ではないし、犯罪組織や怖い人たちなどとも一切関わってない。


ただ、もしこのまま王子の勘違いで私が犯罪者になっちゃったりしたら大変なことに。それにサイラス様やお姉様、家族の皆にもすごい迷惑がかかってしまう。


な、なんとかしてこのえん罪をとかないと。心臓がバクバク言っているが深呼吸してなんとか言葉をつないだ。


「あの、殿下、失礼ですが人違いです。私はそのようなことは」


「あの冷血と噂の公爵に口止めをされているんだろうか。君だということは調べがついているよ」


「ええっ!?」


サイラス様みたいな優しい人まで共犯扱いされそうになってしまった! さっき天使様に今年一年の平和をお願いしたばかりなのに、初日からこんなものすごいトラブルに巻き込まれてしまうとは。絶対に誤解なのにどうしよう。悪事に関わってない証拠ってどうやって出せばいいんだろう? 


もう混乱の極みで泣きそう。でもサイラス様もお姉様もロイ君もエルディもいないし、ここは一人でなんとかしないと。


「本当に私は――」


「夫人、大丈夫かい? 顔色が悪いみたいだけど」


エリック王子が歩み寄ってくる。のぞき込んでくる顔を見返すと、わりと本当に心配してくれてそうな表情だ。あんまり怒ってなさそうだしちゃんと説明すればわかってくれるんじゃないだろうか? 頑張らないと。


目の前の王子にどうやって無実を証明したものか考えていた時、ふいにドアの辺りが騒がしくなった。誰かの制止の声が聞こえたが、すぐに勢いよくドアは開いた。


入ってきた人物の姿を見ただけで心の底から安堵の気持ちがあふれる。


「サイラス様!」


評価、リアクション、ブックマークなどくださった方、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます! 本編後半で名前のみ登場していたエリック王子の番外編です


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