65 幸せな終幕
秋晴れの気持ち良い日になってよかったなあと思う。
私の婚礼衣装は長いドレープが流れるように広がるドレスで、光の当たり方によってドレープが不思議な感じに輝いてとってもきれいだ。上半身を包んで後ろはかかとのあたりまで流れるヴェールは銀糸の刺繍で縁取りされていてドレスと相まってめちゃくちゃおしゃれな仕上がりになっている。
髪の毛はきれいにセットされた後にピンクとクリーム色の花を飾ってもらった。
着替えと髪のセットが終わって鏡を見ると、すごいな、高品質感が。
中身がただの私なのに、衣装のパワーで着ている間だけ魔法がかかったみたいに数割増しで美人に見える気がする。
サイラス様とかどうなってるんだろう? 素材が良い分大変なことになっているかもしれない。あまり格好良くなりすぎていると、動揺した私が変な失態をおかすかもしれないのでほどほどのところで留めておいてほしいが。
お互い準備も終わり出席してくれる人たちも礼拝堂へ集まったみたいなので、私が最後に入場するが、こんなに注目されるようなことはまずない人生を送ってきたので緊張がすごい。足が震えそう。
転んだりしたらしゃれにならないので、すでに祭壇の前にいるサイラス様のところへゆっくり向かう。普通に歩けばすぐなはずの道が妙に長く感じた。
「マリー」
祭壇へやっとたどり着くと、数秒固まっていたサイラス様が他の人に聞こえないような小声で話しかけてきた。
「実は今日、あなたの花嫁姿を見た瞬間に崩れ落ちたり、抱きしめてしまったりするんじゃないか自分でも不安だったんですが」
「そんなこともできないくらい、身動きも息もできないほどに、本当にきれいだ」
感極まったみたいな震えた声で言ってくれるが、ヴェールをしていて良かった。今多分顔が真っ赤だと思う。
司教様が式を円滑に進めてくれて、指輪交換ではエルディが華々しくリングドッグを務めてくれた。エルディが指輪を運ぶ時、私の入場の時の十倍は会場が盛り上がっていたがさすがエルディだと思う。
ガーデンパーティが始まると、皆わいわいしながらお祝いしてくれた。
サイラス様のご親戚の方は「本家の血はもう絶えてしまうかと思ってましたので、今日と言う日を迎えられて本当に嬉しいです」とか言っていた。サイラス様の「女性に縁がなくて」みたいなことは案外周りから心配されていたみたいだ。
私の友達たちはエルディの所へ来て指を組んで手を合わせているから何しているんだろうと思って聞いてみたら、
「この子があんたにこんな良縁運んで来たんでしょ? 私にも良い出会いをお願いしたくて。頼んだわよ、ワンコ!」
エルディがよその人にとっても縁結びの犬みたいな存在になるとは驚きだ。
エルディに続き、スピカとザビ、お姉様の愛猫たち、ロイ君のグリフォンも皆から人気でパーティの華だった。特にグリフォンが尋常じゃないくらい人気だが、若い女性の間で猛禽ブームでも来ているんだろうか?
お父様もお母様になだめられて、さすがにもう平静を取り戻したのかサイラス様とお話ししているみたいだ。
私のところにもロイ君がやってきた。
「本当におめでとう、マリー」
「今日から邸にマリーがいないと思うとちょっと寂しいけど。まあ、これ以上ない結果な気もするし、そこは我慢しとくよ」
「けっこう近くに住んでるんだから、ロイ君がうるさがるくらい遊びに行っちゃうかもしれないわ。お姉様も近くにいるし、冬になったらまた三人で湖に行こうよ」
サイラス様とも今年の冬も一緒に行きたいですねって言ってたので湖の常連になるかもしれない。
「そうだね。マリーの旦那様にうるさがられない程度に俺からも会いに行こうかな」
うちの両親と話が終わったのかサイラス様が戻ってきた。
ロイ君がサイラス様の方に向き直る。
「今日はご招待ありがとうございました。うちの姉をこれからよろしくお願いいたします」
ロイ君は弟だけどしっかりしすぎていてたまに父親みたいだと思う。
日も傾きかかった頃、パーティも解散になって私たち二人と三匹も新しいお部屋に戻った。
へとへとだがやりきった感はある。
「今日からサイラス様と家族なんですね。エルディ、ザビともどもよろしくお願いします!」
「マリー、あの」
サイラス様がちょっと改まった感じに居住まいをただした。
「私のところへ来てくれて本当にありがとう。絶対にあなたを幸せにします」
「えっと、サイラス様。すごく嬉しいんですけども、一人で頑張りすぎないでくださいね。私もサイラス様を幸せにできるようになっていきたいですし、調子の悪い時とかはお互いに助け合っていきましょうね!」
サイラス様は責任感の塊みたいな人だけども、ちょっと責任感が強すぎる一面もあるというか。
「不吉なことを言うようで申し訳ないんですが、もしサイラス様がすごい怪我しちゃったり、お仕事で困ったりすることがあっても、私はサイラス様のことが好きですから、それは忘れないでくださいね」
「あなたと支え合って生きていくのには完全に同意しますが、絶対にそんなことであなたに苦労をかけないことを誓います……」
あれから月日も経ち、私たちは幸せな生活を続けている。
公爵夫人なんていうものは忙しいイメージがあったんだけど、私はエルディと転げ回っていた日々と大差ない生活を続けていた。
ちょっと働かなすぎではないか心配になってサイラス様に言ってみたことがあるが、
「マリー、私は子どもの頃から親の愛みたいなものを知りませんでした。ヴァルゴを育てていた時も自由になる時間があればもっと遊んであげられたのに、とも思うし。私も犬と子どもをできることならずっとかわいがって一緒に遊んであげたいんですが立場上そうもいかなくて」
サイラス様はお仕事が忙しいからなあ。
「そこでマリーの重要な仕事がそこにあるというか。なかなか仕事から離れられない私の分まで愛情を注いで遊んであげてほしいんです。マリーにしかできない、マリーにしか任せられない最も大事なことです」
「そうなんですね。任せてください!」
私がこうしているのは、これはこれでサイラス様の希望通りらしい。
「でも絶対に無理だけはしないでくださいね! 体に障りがあったら困りますから」
「ああ、でも最近は体調も普通ですし」
「いや、気にしすぎるくらいに気にしてください」
実は先年サイラス様の子どもが生まれて、今二人目がおなかの中にいる。
スピカとザビは赤ちゃんに興味津々でよく匂いを嗅ぎにきている。もう少し大きくなったら赤ちゃんと二匹は兄弟みたいに育ってくれるんじゃないだろうか。
エルディはさすがにもうおじいちゃんになり寝ていることが多いが、邸の中は常ににぎやかだ。ポールさんも「この邸がこんなに明るくなる日が来るとは思いませんでした。ありがとうございます奥様」とは言ってくれるが特別なにをしているわけでもないし、おそらく私はこの邸で一番ゆるい生活をしているので、ちょっと気恥ずかしい。
サイラス様の愛は年々大きくなっていっているような気がするし、私もサイラス様を、その、愛しているのでお互いにとても幸せだと思う。
「できうることなら常に視界の中にいてほしい」とかいう冗談を言ってくるのは少し反応に困るが。
夜になって子どもが眠った後、暖炉の前で裁縫をしていると、お仕事が終わったのかサイラス様が部屋へ来て隣に座った。
「今度はクリーム色?」
「ええ、ちょっと気が早いかなって思いますし、男の子か女の子かまだわかりませんけど、きっとサイラス様にそっくりの優しい子になるかと思って柔らかい色にしてみたんです」
少し気が早いがおなかにいる子の分のぬいぐるみも作成に取りかかっていた。
サイラス様の机の一角は年々増えていく犬の家族に占領されている。机の上に置いておくと邪魔にならないか聞いたら、犬が見えなくなるから書類の方が邪魔だと言われた。本末転倒すぎる気がするけど。
手を止めて、横を見るとサイラス様の頬に涙が流れていた。笑顔を崩さないままだったので悲しくはなさそうだが、もう何年も情緒が安定しているのに珍しい。
「ねえ、マリー。すごく、すごく幸せだ」
「ええ、私も」
「サイラス様には辛いことだったろうけど私あの時エルディに会えて良かったです。私の幸せは全部エルディが連れてきてくれました。エルディがいなかったらきっとサイラス様にも出会えてなかった」
サイラス様が私の頭に手を添えてキスしてきたので、裁縫はそこで中断された。
足下ではエルディが幸せな夢でもみていたのか寝言でワフッっと声をあげたので、それを見て二人でクスクス笑い合う。
私とエルディのスローライフに降ってわいた縁談はこんな感じで幸せに満ちたまま幕を閉じた。
マリエラとサイラスとエルディにここまでお付き合いくださりありがとうございました!
この作品を読んでくれた方、評価、ブックマーク、リアクションなどしてくれた方に感謝です! おかげさまでこの1週間でのPVが5500を超えました。マリエラたちのお話が色んな方に読んでもらえたのが嬉しいです。
ここまで読んで「評価してもいいよー」という方がいらっしゃれば下の星から評価いただければ幸いです!




