60 不安要素
マリーと二人で助け合いの精神をたたえているのも良いが、早急にやらなければいけないことができた。
事態がこうなってくると先日王太子の結婚式に行ったのは私にとって大収穫だったわけだ。
この話をマリーにして、マリーから話を聞いたのも助かった。
「マリー、すみません。少し席を外しますね」
まさかマリーの前で確認するわけにはいかないからな。
「ポール、ジェムをここへ」
「今さっき呼びました。ああ、参りましたよ」
別室に移動してジェムを呼ぶ。
マリーがしばらく前にエリック王子とおぼしき人間を助けたのではないかとジェムに伝えた。
「人間を拾ったというような報告は受けていないが」
「大変申し訳ございません、旦那様。仔犬の来た日ですと、私が警備体制の打ち合わせのために不在にしておりまして、その日お嬢様がお帰りになる際の付き添いをハンスに任せておりました。ハンスから『お嬢様が犬の散歩をしている時に怪我人がいたので診療所へ連れて行った』と報告は受けておりましたが、そこまで特殊な状況だったとは思いいたらずご報告が遅くなってしまいました」
その報告の仕方だとたしかに私に上げるほどの話ではないな。情報共有の質を上げていく必要がありそうだ。
ただエリック王子が死ななかったのは助かった。人道的な感想としてもそう思うが、なにかあったら喪に服す必要があるし、いろんな日程がまた一年遅れる。マリーは本当にすばらしい善行を行ったと思う、さすが私のマリー。それとエリック王子は勘違いしているようだがマリーは妖精ではない、天使だ。
聞いた話によるとエリック王子は「あの優しい妖精のような人にもう一度会って礼をしたい」とか言っているらしいが、こういった事例で礼を言うことだけが目的というのはほぼないだろう。
礼を言われるだけですめばいいが、命の恩人に対して変なロマンスを感じられたりしたらやっかいだ。結婚後ならエリック王子がマリーを見つけたところでどうしようもないだろうが、婚約くらいだと私とマリーの間に無理を言って割り込んでこようとするかもしれない。私より地位が上なだけに強行的な手段に出てくる可能性もある。
絶対にそんなことはさせないが、まずマリーと会わせなければ一番平和だな。
しかしアラン王子とマリーの姉の結婚式は親族がそろう。下手をすれば劇的な再会となりかねないが、マリーは姉を慕っているし、姉の結婚式に出席させないわけにはいかない。そんなかわいそうなことは絶対にできない。
エリック王子にもう一度国外に行ってもらうしかないか。どうせ一時帰国の予定だったみたいだし、腹違いのアラン王子と仲が良いって話も聞かない。おそらく主目的であろう王太子の結婚式には出席できたわけだし、命を狙われた上に助けてもらうなどという一大イベントを味わった後だ、もう里帰りは十分満喫しただろう。
怪我ももう治っているみたいだから移動は問題無いだろうし、早々に出発してもらえるように手を打たないと安易に放置してマリーを探し当てられたりしたらまずい。別に私の危惧するようなことは何もないかもしれないが、不安要素は潰しておくに越したことはない。
夏に行われるアラン王子の結婚式までこの辺にいられたら困るどころか、できるだけ早くどこか遠くへ行ってもらいたいものだ。
そして次帰ってくるなら今年の冬以降にしてくれ。
さて、どうするかな。




