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54 湖のほとり

先日マリーとウィンコットまで行ってきた時は、仔犬という衝撃があって雰囲気は犬一色なまま終わってしまった。


マリーは私のことを好きだと言ってくれているし、たしかにマリーなりに全力の好意ではあるのだろうが、この友達感の抜けきらない好きから抜け出してもっと私のことを好きになってほしい。まあ結婚までの時間はそのための期間だ、なんとかなるだろうが。


以前の反省を生かして、自然に距離が縮まるのを待つより積極的に詰めていく方が良いだろうが、なんとかして良い雰囲気になれないものか。


「あ、渡り鳥。もうすっかり冬ですね」


エルディを連れて歩いているとマリーが空を見上げてつぶやいた。

空に巨大な三角を描くように隊列を組んだ鳥が飛んでいる。


「どこに向かってるんでしょうね」


「多分向こうの湖ですよ。いっぱい鳥が集まってますから」


「湖か。マリーも行ったことがあるんですか?」


「このシーズンになるとたまにお姉様やロイ君と水鳥を見に行くんです。今年はまだ行ってませんが」


「それで、あの、サイラス様さえ良かったら今度一緒に湖に行きませんか? 水鳥がいますし」


湖、良いんじゃないだろうか。風景も良いし、水辺ってところも恋人向きの場所のような気がする。家族でも行ってるということは気に入っている場所なんだろうし。

手をつないで遊歩道を歩いて、白鳥にエサでもあげて、私たちの新しい生活について語らうとか、これは距離が縮まるな。

ただマリーの中でなぜか私が鳥が好きなことになっているのが気になるが。


「ええ、喜んで。マリーと湖に行くなんて素敵な計画ですね」


「良かった。私サイラス様と一緒にいるのが一番楽しいから、いつもの湖でもちょっと特別な感じがしますね」


私は君と行くところ全てが特別だが、マリーにとってもそうであればいいな。


日を改めて、マリーと湖に出かけたが、マリーは大きなバスケットを抱えてきた。ピクニックにしては少し寒い時期な気もするが。


「湖に行くって言ったらロイ君が水鳥のエサを持たせてくれたんです」


明らかに持たせすぎだと思う。


湖につくと気温も低いせいか、人はそんなにいない。空は晴れて清々しい空気で、湖面に山や青空が映り込んでいる。なかなか良い感じだ。


二人で手をつないで湖の周りを歩いていると恋人らしい空気になってきた気がする。普段と少し違った場所に出かけるというのは大事だな。


「サイラス様。あの辺りで鳥にエサをあげませんか?」


途中で桟橋に立ち寄って鳥にエサをあげた。

二人で小さく切られたパンをまいていると、エサが大量にあるせいかすさまじい量の鳥が集まってくる。

そこら中から鴨、白鳥、鳩や小鳥まで集まってきて突然すごくにぎやかになった。湖ってもっと静かな所だと思ってたんだが集まってくる鳥の声がすごい。


「こうやってたくさんの水鳥を見てると冬だなぁって思います。風物詩というか」


たくさんすぎるだろう。もうこのあたりの湖面が水面というより鳥でできた面になってるぞ。


大量にあったパンのかけらも、大量に鳥がいたのでしばらくするとなくなり、食べる物がなくなればあんなに集まっていた水鳥もすぐに解散していった。


「かわいいし、ガアガアにぎやかで見ていると楽しいですよね」


群がってくる鳥にエサをあげるのはたしかに楽しい。しかしさっきまでの恋人的な空気がかき消されてしまった。良い雰囲気っていうのはどこで手に入るのか知りたい。


鳥のエサやりも終わり二人でベンチに腰掛けて湖を眺める。


「あの、サイラス様。今日って楽しかったですか?」


マリーがこんな風に聞いてくるのは珍しい。私がつまらなそうに見えたんだろうか?


「はい、すごく。あんな風に集まってくる鳥を見たのは初めてでした、また一緒に来たいですね」


それも本心ではあるし。そう答えるとマリーの顔がぱっと明るくなった。


「ふふ、実はサイラス様をデートに誘うのにどこがいいか、ロイ君に相談したらここをおすすめされたんです。サイラス様が楽しかったなら良かった」


照れたように笑うマリー。

デート? え、デート!? これ、デートだったのか! 言われてみれば恋人と二人、湖のほとりを散歩とかデートでなくてなんなのか。途中鳥が騒がしすぎたが、そんなのは些細な問題だ。


知らぬ間にマリーとデートしていたとは!

もったいない気がする反面、最高の気分だ。しかも奥手なマリーが私をデートに誘ってくれていたとは。


感動に震えていると、隣のマリーがクシュッとくしゃみをした。冬の野外だし寒かったんだろうか?

少しマリーの方によって肩をひいて抱き寄せた。


「寒くありませんか?」


「い、いや、むしろ今顔というか頭というか、全身が熱いです」


「じゃあ、私が寒いのでマリーで暖をとらせてください」 


「え、えっと、どうぞ。あったまってください」


腕の中にいるマリーがあたたかい。調子にのってこめかみの辺りにキスしたら小さくて短い悲鳴があがって、マリーの温度が更に一、二度上がった気がした。


たまにマリーの好きが私に追いついてないような気がして不安になる瞬間もあるが、確実に前進はしている。

多少ゆっくりではあるのは否めないが。


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