51 男同士での会話
「おい、待て。ヘンリー」
「嫌だよ! お前何しに来たの!? 怖い!」
「別に。マリーがここに来ると言うから一緒に来ただけで他の目的は特にない。せっかく来た手前お前に挨拶でもしようかと思っただけだ」
「俺を殺そうとかそういうのは考えてない?」
「当たり前だろうが。私をなんだと思っているのか知らないが」
「それは良かったけど。なんだよ、マリーって。ちょっと馴れ馴れしくないか?」
「婚約者だぞ。愛称で呼んで何が悪い?」
「嘘つけよ。夜会で会った時お付き合いはしてないって言ってたぞ」
「その翌日に婚約した」
「……え、嘘。マジで?」
「お前のせいで話がこじれそうになった時は本当に焦ったよ」
「もしそれが原因でマリーとの仲にヒビが入ったりしていたら、首の骨の五本か六本くらいは覚悟してもらおうと思っていたんだが」
「頸椎がバラバラじゃねえか! 死ぬわ! ちょっと悪口言っただけだろ。大げさすぎるって」
「なんだ、私を中傷してたのか? 私が言ってるのはお前がマリーにヴァルゴの話をしたってことだよ」
「お前の犬の話? なんで犬の話してそこまで怒られなきゃいけないんだよ。お前犬以外に友達がいないことなんて隠してもいないだろ」
「そうだな。幸い私たちはなんの問題もなく両想いの幸せな婚約者となったわけで、お前になんの恨みもないし、本当に顔を見に来ただけだ」
「うあぁ、マリエラさん、二年前にうちに遊びに来た時から好きだったのに。なんでお前なんかと」
「二年? 驚くな。その期間何も手を打たなかったことに」
「うるさいな! お前はいつ知り合ったんだよ」
「三ヶ月半前だが」
「付き合い浅っ! 最近じゃん」
「私はマリーと出会ったその日に求婚したし、会ったりお茶をした回数も百回は超えている。名前さえ最近知られたようなお前にそんなことを言われる筋合いはない」
「行動も頻度も異常すぎるよ……」
「常識人のお前は同じ場所で足踏みを続けて、異常な私は前に進めたわけだ。異常で良かったな」
「クソッ! お前みたいな奴、顔と頭が良くて金があって家柄が良いだけなのに!」
「お褒めにあずかり光栄だ。ありがとう、ヘンリー」
「ちょっとマリー。何ニヤニヤしてるのよ」
「え、そんなニヤついてた?」
サイラス様はすごく優しくて素敵な人なのに、あまり他人と交流がないせいで変な噂ばかりが一人歩きしている気がしていたから、こうやって仲の良い人の所を訪れるみたいなのはすごく良いことだと思う。
この間会った感じだとヘンリーさんもサイラス様のことを少し誤解しているかもしれないが、アカデミー時代のことはわからないけど、今のサイラス様とお話ししたら良い人だっていうのはすぐに伝わるんじゃないだろうか。
今日は最初ちょっと驚いていたみたいだけど、ヘンリーさん本人もサイラス様と比較的お話しする仲だと言っていたし、もしかすると今頃話もすごく盛り上がってるかもしれない。
サイラス様公認の友達であるエルディは犬だし、私は女性で今や恋人だし、男同士での会話みたいなことはできないだろうから、私たちといる時とヘンリーさんといる時ではまた別の楽しみがあるだろうし。
楽しそうなサイラス様を想像すると思わず顔が緩んでしまって、そのままニヤニヤしながらカリナの邸の廊下を歩いてしまった。




