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4 紳士的に押しが強い

「マリエラ嬢! お待ちしてました!」


デュラン公爵が歩み寄って笑顔で迎えてくれる。ちゃんとお姿を見るのは初めてだが、あまり日に焼けてない白い肌と、肩より少し長いくらいの艶のある真っ黒な髪が強いコントラストを放っていて、存在感のある美人さんだ。


ベルベットの濃い青色のリボンで髪をひとつに縛っていて、切れ長なアイスグレーの瞳がよく見える。


背格好はそこまで大柄でもがっしりしてるわけでもないが、背筋がまっすぐで手足もすらっとしていて全体的にスマートだ。あとなんて言えばいいのか、優雅さがすごい。


すっとした高い鼻と、きれいな形で弧を描いている口。顔のパーツ一つ一つは冷たそうな印象だが朗らかな笑顔を浮かべているのを見るととても怖い人には見えな


……いや、公爵が隣にいるロイ君に気がついてそっちを見てから目がめちゃくちゃ怖くなった。眼光が異常に鋭くて、むしろどうみても怖い。


「ほ、本日は貴重なお時間をいただきましてありがとうございます! 改めて先日のお詫びを申し上げに参りました」


びびっていた私に、ロイ君がさっさと挨拶しろや! と目で促してきたのでびくつきながらも挨拶をすませる。


あとはお詫びの品を渡して、あれが原因でお怪我をしてないか(してないだろう)、お召し物の賠償をさせてもらえないか聞いて今日はフィニッシュというのが私の想定していた流れである。


「こちらはわたくしの弟のロイです。許可もなく同行者を連れてきて申し訳ございませんでした」


公爵がロイ君をすごい見てるので急いで紹介した。連れてきたのまずかったんだろうか。


「弟さんですか?」


「お初にお目にかかります閣下。ただいま姉より紹介にあがりましたフォレット伯爵家第三子、嫡男のロイ・フォレットと申します。姉は少々人見知りの性質がございまして、重ねての非礼が無いように本日は付き添い人として参りました」


背筋を伸ばして胸に右の握り拳を当ててビシッとお辞儀をした。

ロイ君家ではダラダラしてるのに偉い人の前だとちゃんとしていてすごい。


「フ…フフッ、ハハ、お二人ともそんなにかしこまらないでください」


いつの間にか最初の柔らかい空気をまとい直した公爵が言ってくれるが、かしこまるよ。


「ご令嬢を個人的に邸にお招きするのは初めてでして、浮かれて玄関口まで出てきてしまいました。客人をもてなすような場所でもありませんからどうぞ中へ」


扉が開いて中に入ると測ったように等間隔で並ぶメイドさん達が人形の様に頭を下げていて少し緊張した。


「客間でもいいのですが、そろそろバラが咲き始めています。良かったら中庭でお茶でも飲みながらお話しましょう」


そう言って奥へと進んでいく。エントランスにも廊下にもすてきな絵がいくつもかけられている


「それではお二方、あらためましてようこそ我が邸へ」


ピシッと背筋の伸びたおじいちゃん執事さんが中庭へのドアを開けてくれ、公爵が優雅に先導してくれた。陽あたりの良い広い庭園で、エルディがいたら喜びそうな場所だった。


淡い色の大輪のバラがそこかしこに咲いている。ほとんどの花がまだ開ききらずに、花に丸みがあるのがとてもかわいらしい。


中庭の少し開けた所に、白い大理石とクリスタルでできているテーブルセットがあり、その上にピンク色のバラを主体にした小さなブーケが飾ってある。


「今お茶をお持ちしますので、どうぞおかけください」


公爵に促されて二人とも着席した。こんな美術品みたいにきれいな椅子に座ることになるとは。


「きれい」


テーブルのクリスタルの部分が光を控えめに反射させてキラキラしている。思わず声を上げる美しさだった。花もきれいだし公爵も美人だし美が渋滞している。


「お気に召してもらえましたか? 今日のために急ぎで用意したかいがありました」


「えっ? テーブルを、ですか?」


いくらうちとは次元の違うお金持ちでも、来客のたびに家具を新調はしないだろうから、ちょうど買い替え時だったのだろうか。ロイ君もちょっと驚いた顔をしている。


「あまり好みでない古い家具をしばらく前にまとめて処分してしまって。長らくそのままになっていたのですが、マリエラ嬢がいらっしゃるので、これを機に新しい物を入れようかなと思いまして」


そんなに久しぶりの客だったんだろうか。私。

お茶とお菓子が運ばれてきてお話が始まったので早々に用件を切り出すことにした。この感じだと多分怒っていないだろうから、少し気楽ではある。


「あの、閣下。先日は本当にー」


「マリエラ嬢」


めちゃくちゃ遮られた。


「先日のことに関して私は全く怒ってませんし、不快にも思っていません。むしろかわいらしい二人に出会えて幸運でした」


「二人?」


「あなたとあなたの犬ですよ」


まさかのエルディ! かわいさで言えばエルディの方が数段上だけども!


「それでも、もしあなたが私に対して申し訳なく思ってくださっているのなら、お詫びとして私のことはファーストネームで呼んでくれませんか。求婚した相手から閣下と呼ばれるのは傷つきますので」


「ぇ、ぇえっ!?あ、あの恐れ多いことですし、何かの間違いでは?」


「あなたご本人より先にお父上に話を通したのは順番がずれてしまいましたが、私は間違いなくあなたに結婚を申し込みましたよ」


だからなぜ?


「少し、ご質問してもよろしいですか?」


ロイ君が会話に入ってきてくれてほっとする。すぐキャパオーバーになる私の脳が回復するまでロイ君頑張って。


どうぞと公爵が促してくれたのでロイ君が話し始める。


「姉からは閣下と面識は無いと聞いておりました。加えて姉は高位貴族でもありませんし、閣下ほどのお方から突然婚姻のお話をいただくことになり、本人含め困惑しております。もし姉を選んだ理由があるのならお聞かせいただけますか?」


「出会った時に一目惚れしてしまいました」


「……犬と一緒に閣下を泥の中に突き飛ばしたと聞いておりましたが」


お姉様の手紙からの情報なのか、ややゆがんだ伝わり方してる。


「たしかにあれは驚きましたが、大急ぎで走ったり慌てているマリエラ嬢が本当にかわいくて。私にとってはどんな女性よりも魅力的に見えるんですよ」


「少し急ぎ過ぎではないでしょうか? 姉が閣下にふさわしいかもわかりませんし」


「フォレット伯爵から子供の頃から今までの話など聞かせていただいたのと、あとは強いて言えば自分の目を信じてますので。


マリエラ嬢は何の問題も無く、完全に、私の理想と一致します」


「姉上」


ちょっとバチバチした空気になり始めた所でロイ君に話しかけられた。普段マリーで呼び捨てにされているが、公の場では一応呼び方を改めてくれてる。


「姉上の意見も閣下にお話しておいた方が良いのでは? 我々がそうお会いできる方ではないのだし、今日のうちに」


「え、ああ、うん。そうね」


うまく言えるか緊張で手汗がすごい。深呼吸、深呼吸。よしっ!


「わ、わたくしのような者にデュラン公爵様がそのように言ってくださるのは身に余りゅ、ぅ、光栄なのですが、何分身に余り過ぎて恐れ多いといいますか。分不相応なお話で、夢をみているような思いでして」


「夢のようということは前向きに考えてくださるんですね!」


予想外の解釈をされて焦る。


「っいえ、申し訳ございません。現実感がないということでっ! わたくしはこのとおり人前でお話をしたりすることもうまくはできませんし。公爵様ほどの方の隣に立つ自信もありま、ございませんので、どうぞ考え直してはいただけませんでしょうか?」


やばいくらい噛み噛みだけどお断りできた! 私にはもったいないくらいの方なのかもしれないけど、全然知らない方との突然の結婚はちょっと!


「姉上、そろそろお暇しましょうか。閣下はお忙しい方なんだから」


ロイ君が耳打ちしてくるけど、声大きくない?


「公爵様、本日はおもてなしいただきましてありがとうございました。謝罪に参りましたはずなのに、見る物すべてが素敵ですっかり長居してしまいました。そろそろ失礼いたしますね」


「……そうですね、今日はお話ができて幸せでした。馬車までお見送りさせてください」


今度こそ不興を買ってもおかしくないのに公爵はにっこり笑って見送りを申し出てくれた。


良かったーーー! この感じだと多分結婚の話はなくなるし、この間転ばせたことに関しては怒ってないらしいし、公爵様すごい良い人だわ! 噂とかあてにならないね!



しかし、玄関を出てロイ君がうちの馬車を呼びに行った所で、突然、公爵様が具合が悪そうにしゃがみ込んでしまった。


「どうなさったんですか!? 公爵様」


「気を遣わせてしまうと思って隠していたんですが、実は先日転んだときに骨折してしまっていて。今日は無理して歩いていたのが堪えたみたいです」


「え、えええぇ! どこを怪我されたんですか?」


「腰の骨にヒビが入って全治三ヶ月だそうで……あの犬を責めないでくださいね。私の不注意ですから」


すごい大怪我じゃないですか!

思いもよらぬ事態に涙があふれてくる。


「そんな大変なことになっていたなんて」


今日お渡したワインなんかじゃ全然足らないほどご迷惑をおかけしている。


「大丈夫ですよ。たいした怪我ではないですから。ただ一つお願いがあるんですが」


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