46 楽しみな明日
エルディに関しては生きて幸せにしていただけで満足だし今更取り返そうなどという気もない。私が好きなのは間違いなくマリー本人なことを伝えると
「それがすごく嬉しいんです。私もサイラス様が大好き」
マリーが最高の笑顔で信じられないような一言をくれた。
昼の鐘が鳴る。
今まではマリーが帰ってしまう合図だったが、今の私にとっては祝福の音楽に聞こえる。
感極まって隣に座っていたマリーを抱きしめてしまった。本当に触れていいのか戸惑いながらだったのでかなり弱々しい抱擁になってしまったが。
マリーも触れるくらいの弱い力で照れくさそうに抱き返してくれた。
「じゃあ、皆の所に戻りましょうか。お姉様もアラン王子もロイ君も私のせいで振り回してしまったから謝らないと」
ああ、そういえば。
応接室に集まっていた連中は話が済むと王都へ戻っていった。私はここまで来たのでマリーのご両親に挨拶するために残ることになったが、マリーの弟は私の邸への連絡なども引き受けてくれたし、すごく良い奴だと思う。
いつまでも弟呼びもなんだからこれからなんて呼ぼうか、マリーはロイ君と呼んでるから私もそれでいいか。年下だが呼び捨ては無礼だろう、ロイさんだのロイ殿ってのもしっくりこないからな。
マリーの両親はしばらくすると帰ってきた。
邸にマリーと私がいることに多少驚いたようだが、滞りなく挨拶をすませて、正式に婚約の申し込みをした。
今回は本人の同意もあったし、昨日のパーティでもとても仲が良さそう見えたからということですぐに話は通った。
私としてはこの足で教会へ向かいたいくらいの気持ちでいたのだが、そこは待ったがかかってしまった。マリーの姉とアラン王子の婚約期間が長いのでそっちの式を先に挙げたいらしい。理由としてはわからんではないが、来年の秋なんていうほぼ一年も先の日程を提案されたので私としては不服だ。
「あの、サイラス様。私たち昨日までお友達だったのに明日結婚というのも急すぎますし、ここから一年あるくらいでちょうど良いんじゃないでしょうか? お互いに距離を近づける期間というか」
言われてみればそうだな。私は明日結婚でも大丈夫どころか嬉しいが、マリーはそういうことには時間が必要なタイプだろう。もう私たちは両思いで結婚の約束までできたのだからそこまで性急になる必要もない。マリーが私との距離を縮めるのに一年必要ならそのくらいは待つべきか。
「もう今日は王都へ向かうには遅い時間ですし、たいしたおもてなしもできませんが良ければ泊まっていってください」
フォレット伯からそう申し出があったので厚意に甘えることにした。
マリーの両親とマリーと私の四人で一緒に夕食をとった。場を包む空気にマリーが育ってきた環境みたいなものを垣間見た気がする。ここにあの姉と弟が入るともっと和やかになるのかもしれない。良い家だと思う、今までの自分とは縁の遠いあたたかさにあふれている。
「でも、三ヶ月前に公爵様とマリーはお似合いかもしれないって思ったけど、やっぱりそうなったのねぇ」
「そんなに前からですか?」
「マリーとロイが公爵様のお邸にお邪魔して帰って来たでしょう? あの時マリー、公爵様がとても犬好きそうって言ってましたの。マリーは嫌だと思った人にそんなこと言わないもの。だからきっと気が合うわって」
「そうですね。もう私にとって唯一無二の存在です」
母親にそう言ってもらえるのは嬉しいな。私とマリーはお似合いの二人。良い響きだ。
マリーが客間に案内してくれたので、そこでまた二人で今日のことを話し合った。
「朝手紙をもらった時は心臓が止まるかと思いました」
「いや、本当にすみませんでした。今思うとちゃんと話せば良かったとは思うんですけど動揺していたというか」
「こちらも隠していてすみません、でも本当は昨日全部話そうと思っていたんですよ。マリーの具合が悪そうだったのでそれどころではなくなったんですが、すっかり元気そうで本当に良かった」
「ご心配おかけしたのもすみませんでした」
「でも私サイラス様にエルディを返さなくちゃいけなくなるかもしれないって思ってたんですけど、これからもエルディと一緒にいられるんだと思うと本当に嬉しいです。ありがとうございますサイラス様」
マリーの足下にいるエルディも満足そうだ。
私も君たちとこれからも一緒にいられるのが本当に嬉しい。
「私としては片想いだと思っていた自分の恋が成就したのが一番嬉しかったです。晴れてあなたの婚約者になったわけですし」
「そ、そうですね! 私もサイラス様に言えて良かったです。後でお姉様とロイ君にも婚約の報告をしないと。喜んでくれるといいんですけど」
「ああ、そういえば弟さんには世話になりました。今度から私も名前で呼んでもいいですか?」
「ロイ君を? 大丈夫ですよ。本人にも言っておきますね」
しかし本当に世話になったと思う。同じ空間にマリーの姉とアラン王子がいたらまとまる話もまとまらなかったかもしれないから、マリーと二人で話をさせてくれたのは助かった。
「良い人だし、これは最初から思ってましたが優秀そうな弟さんですよね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいです。ロイ君ってしっかり者で頭も良いし自慢の弟なので」
マリーが嬉しそうだ。多分あの姉もマリーにとっては自慢の姉なんだろうが、私はあまり仲良くなれそうにないな。
話は尽きなかったが、一拍おいてマリーがこちらをじっと見つめてきた。
この優しい目がたまらなく好きだ。
……我々は先ほど両思いの恋人で婚約者になったわけだ。今までの健全過ぎる日々からもう少し先に進んでも許される関係なのではないだろうか?
意を決してキスしていいか聞いてみたが、エルディで顔を隠されてしまった。
嫌がってはなさそうなので安心したし、断り方もかわいかったが。
マリーは部屋に戻ってしまった、私もそろそろ寝たほうがいいだろう。
ベッドに横になって目を閉じてこの三ヶ月間に思いを巡らせた。
彼女と出会う前と後の自分が同じ人物とは思えない。そのくらい私自身に激しい変化があったと思う。今の自分は自分でも制御できないところがあり厄介だが、それでも生きていることすら義務でしかなかった以前の自分になど間違っても戻りたくはない。
マリーが私を感情のある人間にしてくれる。彼女が私のそばにいてくれるだけで明日が楽しみになるし、きっとこれから毎日がそうなるんだろう。
いつか私もマリーからもらった以上にマリーに幸せを返せるようになりたいとも思う。きっと一生かかりそうだが、やりがいしかないな。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます! この5日間でPVが3000を超えて驚きました! たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです!
サイラスは本人視点だとだいぶクセが強い人なのでイメージと違っていたという場合はすみません。変な思考や行動に走っても、突っ込みを入れてくれる友人も家族もおらずにそのまま暴走していたので、妙な所でサイラスの孤独を痛感しました。
次の投稿でマリエラ視点に戻ります。これから予告なく切り替えが起こりますがメイン視点はマリエラの予定です。完結まであと2日ほどの予定ですが、お付き合いいただけましたら幸いです。




