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42 宴の後

マリーと会場入りしたは良いものの、大広間に向かう道中で女性に囲まれた。

毎年これが嫌だったんだが、今年はパートナーがいるから来ないと思っていたらむしろ例年より勢いがあって恐ろしい。よく臆面もなくマリーを押しのけようとできるな。


しかし今年に限っては私は義務で参加しているわけではなく『パーティでマリーを楽しませる』という目的のために来ている。こんな連中の相手などしている場合ではない。

万が一にもマリーとはぐれたりしないよう強く手を握って突き進む。

とりあえず私の席に行けば静かになるだろうし、ある程度時間が経てばマリーが今日私の同伴者として来ているのを周りも理解するだろう。


陛下の挨拶が終わり、乾杯になった。

マリーは普段あまり酒は飲まないらしいから大丈夫かと思ったが、少量だし本人も平気そうだ。良かった。


親戚筋の連中や商売で付き合いのある家が続々挨拶に来るのでマリーを紹介しておいた。マリーは少し緊張していそうだったが、しっかりとした受け答えで挨拶に来た連中をさばいていたと思う。

大方それもすんだところで音楽が始まる。これを待っていた。


「マリー、良かったら一緒に踊ってくれませんか? 怪我もすっかり良くなったというのをお見せしますよ」


マリーがはにかみながら了承してくれた。

マリーの手を取ってワルツを踊るが、本人は上手ではないと言っていたがうまく合わせてくれていると思う。徐々に緊張も取れてきたのか、いつもの柔らかい笑顔で私を見上げてくれた。ああ、楽しい。今きっと私は世界一幸せだ。


調子に乗って二曲三曲とマリーを付き合わせてしまった。

さすがに疲れたのか、動いてアルコールが回ってしまったのか、マリーの顔が少し赤い。

水を飲ませて休ませてあげないと。とりあえずマリーを壁際に置いてあるソファに座らせた。給仕に言えば水はすぐに出てくるだろうが、二年前に毒を盛られそうになった身としては不特定多数の人間が集まるところで誰だかわからない奴が自分用に持ってくる飲み物を飲むのはあまり気乗りしない。大切なマリーに飲ませるのはなおさらだ。

水を取りに行きたいがマリーを一人にするわけにもいかないと思っていたら、マリーの弟がちょうど居合わせた。


「こんばんは閣下。姉がお世話になっております」


「あ、ロイ君」


「ちょうど良いところに。少しマリーとこちらで待っていてもらえませんか? 酔いをさます水を持ってきます」


「私が行って持ってきましょうか?」


マリーの弟に使い走りをさせるのも心象が悪いか、私が行ってきたほうが良いだろう。


「いえ、大丈夫。すぐ戻りますのでマリーをお願いします」


さっさと水を取ってこよう。と、思ったら一人になった瞬間にまた誰かしらに絡まれてなかなか進まない。商売の相手も今だけは話しかけてくるな、早くマリーのところに戻りたい。

やっとレモン水の入ったグラスを手に入れて戻ってきたら、なんだあの男? ヘンリーか? マリーが男に話しかけられて困ったような顔をしているのが見えたので急いで戻ってきた。

「遅くなってすみません。知り合いにつかまってしまって。変な男につきまとわれたりしていませんでしたか?」


「……いえ、お友達に偶然お会いして。ご兄弟の方と少しお話しただけです」


そのへんは弟もいたし大丈夫だったか。しかしマリーさっきより具合が悪そうだな、大丈夫だろうか。


「あの、マリー。さっきよりだいぶ顔色が悪い。水を飲んだら今日はもう帰りませんか?」


これはもう早く帰してあげたほうがよさそうだ。他のことは今全て後回しで良い。

馬車に乗せた後もマリーは具合が悪そうだった。早く体調が良くなるように祈るような気持ちで見ていたが、


「サイラス様、せっかく誘ってくださったのにすみません。ちょっと悪酔いしちゃったみたいで、すぐに治りますから」


マリーがそう言って目を閉じた。

いつもと違う環境でマリーも疲れたのかもしれない。無理をさせたなら申し訳なかったな。


「いえ、そんなことはいいから。早く元気になってくださいね」


本当に。


マリーの邸に着いた時、体調が良くなるまで一緒にいたいと申し出たが、眠ったら朝にはよくなっているから大丈夫。と言われて帰されてしまった。たしかに私がいたらリラックスして眠れないか。仕方がない、邸に戻ろう。


自室に戻ってもマリーが心配で眠れなかった。

身の置き場もなくふらついて執務室に行ったが、机の上に座っているアイスグレーの犬を見て少し心が落ち着いた。毒らしい症状はなかったし、本当に酔いが回っただけだろう。

すぐに良くなる、大丈夫だ。明日の朝にはきっといつもの笑顔を見せてくれるはずだ。


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