38 優しい犬
今日も私の管轄している各地から送られてくる報告書を読んで指示を出す。道路の舗装に使う資材の補充、架橋工事の進捗、新しい経済特区に誘致する業者のリスト。今日はこんなところがメインか。
商会の方には仕入れと売り上げ、見込み販売先を確認して各店舗の責任者に今期の目標数値を送らないと。視察や確認にもそのうちに行かなくてはいけないな。
その時にはマリーとエルディも一緒に行かないか誘ってみよう。栄えてる場所が多いし観光地もある、色々な所に連れて行って案内してあげたい。そう思いながらマリーの方を見ると少し違和感を感じた。
なんだ? 今日のマリーはいつもと様子が違うな。
普段通りに腰掛けてエルディを撫でているが、どことなく落ち着かないようなそんな気がする。マリーは正直すごくわかりやすいから何かがあるのは確実だろう。なんだろう? 気になってしょうがない、早々に聞いてしまおう。
「マリー、そろそろお茶にしませんか?」
「あ、はい!」
なんだかんだで午前中は三分の一は休憩している気がする。午後より効率が良いのが不思議だが。でも今の返事、珍しくマリーが私がそう言うのを待ってたような感じがするな。とすると、私になにか言いたいことでもあるんだろうか? 悪い話でないことだけを祈るが。
「えーと、サイラス様。突然ですけどこれをどうぞ」
マリーがそう言って渡してきた、箱? そんなに大きくもないが小さくもない。
開けてみると昨日までマリーが作っていた犬のぬいぐるみが入っていた。お願いしても「完成するまではちょっと」と言って、よく見せてくれなかったので全貌をしっかり見るのは初めてだ。
かわいいな。すごくかわいい。ガラスでできた目が少し離れていて、顔のパーツが全体的にわずかに下寄りで、いかにも人の良さそうな(犬だが)穏やかな笑顔を浮かべている。
「サイラス様の目の色で作ってみたんです。素人の手作り品ですけど良かったら受け取ってください」
私の目の色? 言われてみれば完全に同じ色だ。アイスグレーなんていう名前からして冷たい私の目の色でこんな優しそうな犬ができるとか天才過ぎるだろう! 触れた物全てを優しくする魔法でも使えるのかと思うくらいすごい。
「いただいても良いんですか?」
絶対に返す気もないが。誕生日にもらったのがあの鳥でよかった、これをあの日にもらっていたら声を出して泣いていた可能性がある。そのくらい嬉しい。
もらった犬を抱きしめて、あまり力を入れすぎるとまずいかもしれないと気がついて慌てて腕を緩めた。
嬉しさとお礼を伝えるとマリーが照れたように笑っていた。
「男の人へのプレゼントとしてはどうかとは思ったんですけど、サイラス様なら喜んでくれるかなと思って。受け取ってもらえて私もすごく嬉しいです」
マリーが私のことをわかってくれていてありがたい。君の心がこもった品ならなんでも嬉しいが、これはとてもマリーらしさが出ている素敵な作品だと思う。
アイスグレーの犬は早速私の仕事机に座らせた。昼過ぎ、書類作業の時ふと顔を上げるとこちらを見つめる優しげな犬と目が合った。なんだろう、意味もなく笑いがこみ上げて犬と笑い合うようなかたちになってしまった。
仕事がとても捗る気がする。




