37 自分の中の変化
本は本でたまに読んだりもしているが、マリーが趣味のぬいぐるみを作っていても良いかと聞いてきた。良いに決まっている。
それから毎日のように何かを作っているみたいだが、パーツごとに作っているせいかどんな物かはよくわからない。見ていいか聞いたらまだだめですと言って断られてしまったので、完成品を見せてもらうのが楽しみだな。
今日もエルディを寄り添わせてソファでチクチク裁縫しているマリー。私の無機質な執務室がこんな幸せ空間になるとは思わなかった。絵画におさめておきたいくらいだ。
しばらく作業を続けていると、マリーは少し疲れたのか、のびをして「ちょっと手足を伸ばしにお部屋の外を歩いてきますね」と言ってエルディと廊下を一周して帰ってきた。
マリーも疲れたならちょっと休憩にしようか。
午後は休憩などいらないので、この時間にまとめて取れるだけ取っておきたい。
向かい合ってお茶を飲んでいると、マリーが何か思い出したように切り出した。
「そういえば、さっき廊下を歩いていて気がついたんですけど」
「なんでしょう?」
「ちょっと黒くなってた部分の床、いつの間にか他の場所と同じ色に戻ってたんですね。工事しているの全然気がつかなかったです」
「ああ」
あれか。
ヴァルゴを悼んでそのままにしてあったが、今となってはあんなものただの染みだからな。むしろ嫌な思い出と一緒にさっさと消したかったから先日床石を入れ替えた。午後に作業していたからマリーも気がつかなかったんだろう。
「私が昔ちょっと小火を起こしてしまった所で、あの床の焦げがずっと心に引っかかっていたんです。少し心の整理がついたので綺麗にしたんですけど、思いのほかすっきりしました」
あの場所が自分にとって特別な場所でなくなったのが嬉しいと思う。
「ああ、ありますよね、そういうの。私も子供の頃木箱を持って走ってる時にお姉様の部屋のドアに激突しちゃって、ドアが傷ついたんですけど今もそのままになってるので、あれを見るとあの時はやっちゃったなぁって思います」
状況の重さは全く違うだろうが、結果を見れば似たようなものか。しかし、そんなに激しく衝突してマリーは大丈夫だったんだろうか?
「その時マリーは怪我しませんでした?」
「怪我はしなかったんですけど、めずらしくお姉様に叱られました。『危ないから何か持って走り回るのはやめなさい! 心配するでしょ!』って。それから私も気をつけるようになりましたので、お姉様がそう言ってくれてありがたかったです。ドアのことも許してくれましたし」
「フフ、良い姉妹ですね」
そんな傷であれば思い出として残しておいても良いような気がするな。
床の染みが消えて、自分の暗い部分も少しずつ消えていくような気がする。
しかし子供の頃か。昔は私にはヴァルゴしかいなかったから思い出もヴァルゴとのことばかりだな。
なんとなく、いつかマリーにヴァルゴのことを話してみたいようなそんな気分になった。




