36 頑張れ
私が働いていない疑惑を晴らすために早い時間から働くことになった。マリーが一緒にいてくれることになったので私は良いのだが、マリーは暇ではないだろうか? ああは言ってくれていたが暇だろう。
そういえば以前療養中の暇つぶしに友達から本をもらったとか言っていたが、読書とかするのだろうか? うちも書庫は広いし、マリーが好きそうな本でも探してこようか。
そう思ってあらためて書庫を見回してみたが、
『工業の効率化と安全管理』
『グレイシャール各領地、人口の増減と人の移動 ーその原因と推移ー』
『ゲイリーの経済理論とその根拠』
『都市計画のための気候と地質』
まだ比較的読めそうなラインナップでこれだ。
こんなところに連れて来たら嫌がらせになってしまうレベルで女性向けの本がない。
急いで書籍商を呼んで一棚女性が好みそうな本を揃えた。挿絵が綺麗な物語とか、ロマンス小説とか、動植物の図鑑とか、お菓子やアクセサリーの本が良い具合に収まった。
その棚だけすごくファンシーで浮いているが良しとしよう。
次の日早速マリーを案内してみたが喜んでくれた。
「わぁ、これ読んでみたかったんです」
昨日用意した棚から数点選んで執務室に持っていった。
動物図鑑を眺めて楽しそうにした後に、人気があるとかいうロマンス小説を読んでいた。
間違っても学術書とかすすめなくて正解だったと思う。
働いているとはいえ毎日マリーとのお茶の時間だけは確保したい。
てきとうな所で休憩をはさんでお茶にしたので、本の感想を聞いてみた。
「マリー、なにか面白い本がありましたか? 私はあまり女性好みの書籍に詳しくなくて」
「最初見てた図鑑は見たことない外国の虎とか獅子とかが描いてあって楽しかったです。名前くらいは聞いたことあったんですけど大きさの解説付きで挿絵があって、猫の仲間なのにすごく大きくてエルディどころか私やサイラス様より大きいらしいですよ」
この国の猫科の生き物は大きくても犬くらいのサイズだからな。本物を見たらマリーも驚くだろうが、危険な生き物だからあまりマリーに近づけたくはない。
「それと昔友達に借りた本の作家さんの新しいお話があって。前からちょっと気になってたんですけど、まさかサイラス様のお邸で見ることになるとは思いませんでした」
私も同感だがお気に召したなら用意した甲斐があった。
「どんな話なんですか?」
普段はどうでもいいが、マリーが読んでるとなると気になるな。
「うーん、ネタバレになると悪いので詳しくは言えませんけど、かわいいお嬢さんが素敵な男性と恋におちるみたいなお話です」
ぼかすにも程があるだろう。ネタバレ防止が徹底しすぎて何も伝わってこない。
そのまま昼過ぎになりマリーは帰ってしまったが、読み終わらなかったようで本はそこに置いたままだ。少し気になってぱらぱらめくってみた。
速読のクセがついているので本はすぐに読み終わった。
かわいいパン屋の娘が実は駆け落ちした貴族の子で、それが判明して家に引き取られることになり、そこから破天荒なご令嬢として騎士やら宰相やらを落としていく。
騎士の方はパン屋時代から面識がありお互いにもだもだしながら愛を深めていく。
話としてはそんな感じで、それは別に良いんだが、
なんかこの当て馬の宰相、私に似てるな。
冷徹で計算高いがドロシーには優しい宰相。あの手この手を使ってドロシーの気を引こうとするが、爽やかで皆に優しい騎士とドロシーの愛の前に敗れ去る。
いや、これもう少しなんとかすればドロシーは宰相側に転んでただろ。実際中盤までのドロシーはかなり迷ってた感がある。
この宰相は詰めが甘すぎる、もっと頑張れ。何が『あなたのその笑顔を引き出せるのは彼だけなんでしょうね。私には無理だった』だ。そんなものはこれからの関係次第で後からついてくるわ。
二日三日経ってマリーが本を読み終わったみたいだったので、自分も先日読んだことを告げて感想を聞いてみた。
「サイラス様も読んだんですか? いい話だとは思うんですけど、私どっちかって言うと恋敵の宰相さんのほうを応援してたんですよね。不器用だけど本当は良い人そうで頑張れって感じになって」
「ですよね!」
さすがマリー。物事をよく見てると思う。
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