34 本来仕事人間
自分で言うのもなんだが私は仕事がすごく早い。
アカデミー時代に授業の後に商会の業務をこなすような生活をしていたせいか、限られた時間の中で何かすることに体が慣れていた。
なので、マリーと昼まで遊んでいたところで午後から働けばなんの問題もないのだが。
「あの、サイラス様。毎日サイラス様と遊べて私は楽しいんですけど、それだとお仕事の邪魔になっているかと思って」
ある日突然、マリーが言いにくそうにそんなことを言ってきた時はすさまじい衝撃を受けた。
「毎日昼から仕事はしてますけど今のところなんの支障も出ていないので大丈夫ですよ。少し遅い時間の方が捗りますし」
別れ話を切り出されたような心境になり内心かなり動揺したが努めて平静に答えた。
心音がうるさいし冷や汗が出てきているが。
「先日手紙でお父様からサイラス様は大切なお仕事がある方だからあまりご迷惑をおかけしないようにって言われまして、改めて思い返したら私すごくお仕事を邪魔している気がしたんですが」
していない! マリーと遊んでいて業務が滞ったりしたらマリーのせいにされそうだから、そちらはそちらで通常より力を入れているし経過も良好だ。
いや、待てよ。でも私マリーの前で働いている姿とか見せたことないな。ひょっとしてマリーから見ると私って遊びほうけて全く働かない駄目男なのでは?
自分を客観視すると血の気が引いてくる。
「それでお仕事の妨げにならないようにお邪魔する間隔を少しあけた方がいいのかなって」
いよいよもって辛い。こっちは午前どころか一日中一緒にいてほしいくらいなのに、マリーの方は私と会う頻度を減らそうとしている。ここに来て温度差を痛感してしまう。
「……」
「サイラス様?」
言葉に詰まっているとマリーがのぞき込んできた。
「え? す、すみません、サイラス様! 私失礼なこと言って」
ああ、駄目だ、さらに駄目人間だ。最近妙に涙腺が弱い気がする。
マリーに悪いから早く持ち直さないと。
「いえ、マリーは一切悪くないので。急に取り乱してすみません」
とりあえず働こう。たしかに私の良いところなんて主に仕事部分なんだからこれが欠けていたら魅力なんてないも同然だ。ただマリーが来てくれないのは辛すぎる。
「今日から予定を午前に前倒しして執務にあたります」
こんなに本気を出して仕事にとりかかることがかつてあっただろうか。私の領地を世界一豊かで平和な地域にしてみせたいくらい労働意欲にあふれている。
「ただ、マリー。あなたが私の仕事を邪魔しているなんていうのはとんでもない誤解です」
これだけは間違えてほしくない。
「あなたと一緒にいるのが本当に楽しくて、私にとってはあなたと一緒にいる時間だけが息抜きだったんです。退屈だとは思うのですが、あなたさえ嫌でなければ変わらずに来てもらえませんか? 少しお茶を飲む時間に付き合ってもらえるだけで心が軽くなるんです」
「私が働いている間、マリーは何をしていてもいいですし、必要な物があれば何でも用意しますので」
「だめでしょうか?」
これで断られたらどうしようか。
「良いんですか? 私もすごく楽しい毎日だったので、来れなくなるのは寂しいと思ってたんです。お邪魔にならないなら喜んでお邪魔しますね! あれ? いや邪魔はしないようにしますけども」
マリーの笑顔がまぶしい。
今日から労働時間が増えるわけだが、マリーがいてくれるなら別に苦でもない。むしろ人生で一番得意なことが仕事だからな。
それにろくに働いてる様子のない男なんてマリーも嫌だろう。ガンガン働いている姿を見せればマリーも安心して私と過ごせるだろうし、遊ぶ時にはまた思い切り遊べばいいだけの話だ。




