32 お祝い
「サイラス様、お誕生日おめでとうございます!」
手を叩きわーっと声を上げるマリー。それに合わせてワンワン鳴くエルディ。
「……」
「あ、あれ? すみません、私日にち間違えてました? 前に占いの時に見た感じだと、お誕生日この日だったと思ったんですけど」
「いえ、今日なんですが、ちょっと」
「誕生日を人に祝われたことがないので少し動揺してしまって」
まさか祝われると思ってなかったので、どういう反応をすればいいのか全くわからない。
もう自分でも完全に目が泳いでる気がする。
世間一般的に誕生日を祝うくらいのことは知っている。ただ子どもの頃から今に至るまで自分には一切関係のない文化だったから。とりあえず礼を言っておけばいいのだろうか?
「えっと、ありがとうございます?」
「サイラス様、今日この後お誕生日パーティとかの予定は?」
「いや、ありませんよ。普通に仕事です」
マリーが軽い衝撃を受けたような顔になってしまった。
「えっ、じゃあ今私とエルディでお祝いしちゃいますね。ちょっと待っててください」
マリーが部屋から出て行って、しばらくしてワゴンを押しながら戻ってきた。
アイスティーかなにかと、キャンドルが刺さりまくったケーキが乗っている。
「さすがに午前中からお酒は飲めないですけど、グラスで乾杯しましょう。今日のお茶菓子がちょうどケーキで良かったです。今火をつけるので歌が終わったら吹き消してくださいね」
すでに火がついたキャンドルを一つ持ってきてケーキに刺さった物に火をつけていくマリー。つけ終わると、「せーの」と言ってエルディと歌い始めた。マリーの歌に合わせて犬の鳴き声なりに抑揚をつけて上手に歌っているエルディ。この七年間で色々特技を身につけすぎだと思うが。
歌が終わって火を消すように言われたので、言われるがままに吹き消した。
「はい、サイラス様。 たいしたものは用意できなかったんですけどお誕生日おめでとうございます」
マリーが綺麗なリボンに包まれたハンカチをくれた。
「刺繍を入れてみたんです。気に入っていただければ良いんですけど、って大丈夫ですか!?」
大丈夫? 何がだろうか、と思ったらどうも自分は泣いていたらしい。自分でも驚きだが、たしかに目から涙が出ている。物心ついた時から泣いたことなどないから不思議な感覚だ。
マリーが今くれたハンカチで私の涙を拭いてくれているが、だめだ。これは私の宝物にする予定なのに、汚れてしまうから使わないでほしい。
「マリー、すみません、大丈夫なので。いただいたハンカチをちゃんと見てもいいですか?」
刺繍をしてくれたと言っていたが、私の名前や家紋だろうか? もしくは犬とか花のモチーフか? 何が刺繍されているのか胸を高鳴らせながらハンカチを広げてみた。
「ああ、これは」
すごく見慣れたモチーフではあるが、なぜ……
「サイラス様がお好きなのかと思って刺繍してみたんですけど」
はにかんだ笑顔を浮かべるマリー。
アオバネオオワライカワセミが、うちのエントランスに飾ってある絵の鳥が、まさか私の宝物のハンカチにまで登場するとは。
「ありがとうマリー。すごく嬉しいです! 大切にしますね」
私がこれからアオバネオオワライカワセミを好きになれば済むことだ。なんの問題もない。元々エントランスに飾るくらいだから嫌いでもない、むしろ私はあの鳥を好きなはずだ。うん。
その後、アイスティーを入れたグラスで乾杯してケーキを食べた。エルディは犬用クッキーだが。
生まれて初めての誕生日パーティは目の回るスピードで始まり終わった。




