29 花冠と
邸の中にばかりいてもマリーも暇かもしれないし、外の方がエルディも楽しいだろう。
今日は庭の花畑に行かないか提案をしたらマリーも賛同してくれた。
庭に行くと天気が良くて過ごしやすそうな日和だった。こうして見ると開けた感じで、中庭とはまた違う良さがあるな。あまり気にしたことはなかったが。
「すごく広いですね。エルディが走り回れそう」
マリーがおもちゃのボールを持っていたので、それでエルディと遊ぶことになった。懐かしい。
革でできたボールを投げるとエルディがそれをキャッチするのだが、この七年間の間に新たな技を身につけたのか、なんとエルディも口にくわえたボールを上手に投げ返してくる。コントロールは悪いが。
私やマリーはそれなりにエルディのところにボールを投げられるが、エルディの投げてくるボールは右に行ったり左に行ったりだ。マリーが笑って取りに行っているが疲れないのだろうか。私は怪我をしていることになっているのでさすがにボールを追いかけて走り回れない。
「ふ、ふふ。エルディ、ちょっとストップ。休憩させて」
しばらくすると、案の定マリーがへとへとになってしまった。
ボール遊びが始まってからエルディよりマリーの運動量の方がはるかに多そうだが、犬とのボール遊びってこういうものだっただろうか? なにか違う気がする。
マリーが座り込み、エルディもマリーの所へ戻ってきた。
「サイラス様、ここのお花って摘んでも大丈夫ですか?」
なにか思いついたのかマリーが聞いてくる。
花壇には色々な花が咲いているようだが、マリーが聞いてきたのは周り一面に咲いてる白い小さな花のことだろうか。どちらでも好きなだけ摘むと良い。
「いくらでもどうぞ、マリー」
そう答えるとマリーはお礼を言って、小さい花を摘んで冠を作ってエルディにかぶせた。
それを見てなんだかすごく幸せな気分になったが、
マリーは次にエルディの首にかける花輪みたいなものを作った。なかなかの早業だな。
さらに首の花輪に花を次々とつなげていく。さすがにちょっとつなげすぎじゃないか?
エルディもおとなしくされるがままになっているが、最終的に上半身のほとんどが花に覆われてしまった。どこまでつなげるんだ。
「あ、つい熱中しちゃった。やりすぎちゃいましたね」
本当だよ。最初は首飾りだったのが、花でできた鎖帷子みたいになっていて、思わず笑いが出る。
「フッ、フフ、花の鎧みたいになってますね」
「え!? 素敵ですね、それ! 『花の騎士エルディ』プリンセス・ポピーを守る騎士様」
「ポピー? 誰ですか?」
「私のお友達の牧羊犬でエルディのガールフレンドなんです」
犬か。エルディにガールフレンドなんていたのか。
「ああ、でもポピーちゃん、エルディが守るまでもないかも。この間一匹でオオカミの群れを蹴散らしたって言ってたし」
プリンセスにしては強すぎるな。
「どちらかと言うとジェネラル・ポピーですね」
「いえ、そこは女の子ですからバトルプリンセスとか」
午前の柔らかい光が当る花畑で、今世界一のんきな時間を過ごしている気がする。少し前までなら考えられないな。
花の鎧を着たエルディの頭を撫でながら、まだ見ぬポピーちゃんの称号を提案し合ってその日が終わった。




