24 定石を踏む
今日から三ヶ月、マリエラが邸に来てくれる。
ヴァルゴも連れてきてくれる。
冷酷そうな顔とか、愛想笑い以外の表情が無いとか、常にマイナスの感情を抱えてそうとか普段散々な言われような自分の顔だが、今日はにやけているのを感じる。
骨折したことになってるので出迎えと見送りはできないが。
もう少し経ったら、良くなってきているとか言えば歩くくらいはしていいだろう。今も一応杖は用意しているから歩く必要がありそうならこれを使えばいい。
ポールから連絡があった、マリエラが到着したようだ。
「おはようございますマリエラ嬢。私のわがままを聞いてくださってありがとう」
心から本当にそう思う。マリエラは恐縮してくれるが、だいぶわがまま(と嘘)を言った自覚はある。
今日はヴァルゴも来てくれたみたいだから、はじめましての顔をうまくできていればいいんだが。
使用人連中も古参はヴァルゴのことを知っているが、黙っているように指示は出してある。今のところマリエラに知られても良いことは何もなさそうだからな。
「ご紹介がまだでしたが、エルディです。私の最愛のパートナーなんです」
それが今の名前か、良い名前をもらったなヴァルゴ。今日から私にとってもお前はエルディだ。
「よろしく、エルディ。マリエラ嬢にそこまで想いを寄せられていてうらやましいな」
おいで、と手招きするとマリエラがエルディを連れてきてくれた。
エルディと目を合わせる。七年ぶりのちゃんとした再会に胸が熱くなった。
万感の思いでエルディを思い切り撫でていると、マリエラがこっちを微笑ましそうに見ている。
しかし、マリエラってエルディとそっくりだな。髪や目の色とか、優しそうな瞳とか、明るい楽しそうな表情とかが。フォレット伯も双子のようとか言ってたから多分似てると思ってるのは私だけではないだろう。
今日はマリエラが来るので料理長に茶菓子を頼んでおいたのだが、良い仕事をしてくれたと思う。普段菓子など食べないので知らなかったがなかなかうまい。マリエラがおいしそうに食べているのを見て、もう一切れ勧めると嬉しそうにしていた。
エルディも水を飲んでたがスープ皿からだと飲みづらそうだ。私の部屋に犬用の食器があったから明日からそれを持ってくるか。
「昨日はフォレット邸に帰られてたんですか?」
ここからそう遠くない所に別邸があるらしいが、そちらに長期滞在となるとなかなか準備も大変だっただろう。面倒をかけさせたな。
「はい、弟も一緒に戻りましたので昨日は久しぶりに家族皆揃ったんです。弟の鳥は別邸で留守番だったんですけど」
「弟さん、鳥を飼ってるんですか?」
「はい、鷹なんですけど、グリフォンって言って、エルディともお友達なんですよ。ブラッシングした抜け毛を丸めるとグリフォンが持っていくんです」
抜け毛を巣材に使われるのと友情が私にはどうも結びつかないが。
「姉は猫を飼ってるんですけど、キャシーとリジーとデイジーって言って」
「普段はお姫様みたいな子達なんですけど、エルディが間違ってキャシー達のご飯食べちゃったりすると三匹して地響きみたいな威嚇してくるんです。すごく連携のとれたフォーメーションで怒るんですよ」
えらく食い意地のはったお姫様だな。
「そうなるとエルディ、私の後ろに隠れちゃうのでキャシー達をなだめるのが大変なんですよね」
「エルディ、ちょっと情けないな」
膝元にいるエルディを指でつついてたしなめる。
「でもエルディはやる時はやる犬で、うちに泥棒が入った時とかは大活躍してました。猫には優しいけどすごく格好良い子なんです」
「そうなんですね。肝心なときに頼りになるのは素晴らしい」
昔は私の部屋の侵入者も撃退してくれていたな。懐かしい。
そんな話をしながらお茶を飲む。マリエラは私の話もにこにこしながら聞いてくれていた。
しかし、この子あまり私のこと怖がっている様子がないな。良かった、これなら距離も詰めやすいのではないだろうか。
きっと突然結婚なんて申し込んだからびっくりさせてしまっただけなんだろう。
その辺は驚かせて悪かったから謝っておこう。あの時、あれはあれで仕方なかったのだが、マリエラを戸惑わせたのは事実だ。
父親と弟と使用人くらいしか男と接点が無いらしい初心な女性のようなので、結婚を前提にまずは友達から始めるという定石を踏んでいくべきだった。
この期間中に友達になってほしいとお願いすれば快く了承してくれた。
おととい結婚を断られたダメージを地味に引きずっていたので快諾されたのは嬉しい。
それにこれから愛称で呼べると思うとすでに大きな一歩を踏み出した気がする。
帰り際、マリーの名前を呼んで手を握ると、顔を赤くして慌てたように退室してしまった。
なんか変な方向に走っていった気がするが。




